ビネバル出版/北欧留学情報センター

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私たちは東京の神楽坂を拠点としデンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、フィンランド語、アイスランド語の語学教室、北欧留学情報の提供を行っています。noteではフィンランド語やアンデルセンなどのコラムを掲載 https://linktr.ee/bindeballe

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記事一覧

なぜ大人がムーミンに魅了されるのか?:青い鳥文庫版ムーミンの作家・芸術家のエッセイから考える

第12回では、ヤンソンが書いたエッセイ「似非児童文学作家」から、ムーミンが大人をも魅了する理由を考えました。今回は角度を変えて、ムーミンの読者たちの言葉をたよりに…

暑い夏におすすめの北欧ロード・ムーヴィー 後編 『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』&『レニングラード・カウボ…

暑い夏におすすめの北欧ロード・ムーヴィー 後編では、フィンランドのロード・ムーヴィー『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』と『レニングラード・カウボー…

暑い夏におすすめの北欧ロード・ムーヴィー 前編 『ロスバンド』

今年も猛暑の夏がやって来ました。暑い日はお家でゆっくり北欧映画を観て涼むのもいいかもしれません。今回は、そんな夏におすすめの北欧ロード・ムーヴィーを前編と後編に…

病床と文学の親和性

   昨年、取材で私は静岡県富士山世界遺産センターに行ったことがあるのだが、その時特に印象に残った作品が、江戸時代後期の南画家である谷文晁の『富士山中真景全図』…

弟ペル・ウーロフにとってのトーベ・ヤンソンと短編「猿」

第11回・第14回・第15回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあ…

不安の渦中にいる人間たちの運命劇

 ノーベル文学賞と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは「今年も村上春樹は受賞しなかった」というニュースだけだろうか。実際、毎年ノーベル賞ウィークの中だるみのような…

映像のデコパージュに誘惑される| 『エーレンガート:誘惑の極意』

先月、第96回アカデミー賞(2024年)の受賞結果が発表され、日本映画では山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が長編アニメーシ…

人のありのままを受け入れる力:ヴィヴィカ・バンドレルが語るトーベ・ヤンソンと『ムーミン谷の十一月』

   第11回・第14回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあっ…

苦しむ人間の胸中にこそ「魂」が宿る

北欧流自然主義文学の代表作 親元を離れてから病気に罹ることほど心細いものはない。そう強く思ったのは、東京に出てきて間もなくして、新型コロナに罹った時だった。検査…

可愛いだけの映画じゃない。『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(試写)

試写会にお誘いいただき『ロッタちゃん はじめてのおつかい』を観てきました。 今回初めて観る機会に恵まれ、とても楽しく可愛い作品だったので、みなさんにも紹介したいと…

トーベ・ヤンソンが読んだ子どもの本

   第11回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあった23人が…

トーベ・ヤンソンの本の探し方

 これまでトーベ・ヤンソンの本の内容について紹介し、本の背景や解釈について書いてきましたが、今回はトーベ・ヤンソンの本の探し方を紹介します。末尾には、本を探す時…

なぜ大人がムーミンに魅了されるのか?:トーベ・ヤンソンのエッセイ「似非児童文学作家」から考える

 ムーミンの小説を大人になって読み返す人、あるいは大人になってから初めて読む人もいると思います。児童文学として位置づけられるムーミンの物語を大人が手に取り、そし…

ゆっくり、長く歩くこと

北欧文学ブックレビュー No.1 『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』トマス・エスペダル著 枇谷玲子訳  評者 山下泰春    酔い潰れて終着駅ま…

トーベ・ヤンソン 旅と小説

 トーベ・ヤンソンが亡くなった翌年の2002年、Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)というスウェーデン語の本がフィンランドで出…

小さき者たちのクリスマス『オンネリとアンネリのふゆ』

 12月に入った途端に寒い冬がやってきました。アドベントも最終週となり、クリスマスが待ち遠しいですね。この時期、北欧はイルミネーションやクリスマスマーケットで賑わ…

なぜ大人がムーミンに魅了されるのか?:青い鳥文庫版ムーミンの作家・芸術家のエッセイから考える

第12回では、ヤンソンが書いたエッセイ「似非児童文学作家」から、ムーミンが大人をも魅了する理由を考えました。今回は角度を変えて、ムーミンの読者たちの言葉をたよりに、ムーミンの物語の魅力を考えてみたいと思います。 トーベ・ヤンソン生誕100周年の2014年頃に刊行された青い鳥文庫のムーミンシリーズの新装版には、作家や芸術家のエッセイが巻末に加えられました。 『小さなトロールと大きな洪水』:末吉暁子(児童文学作家) 『ムーミン谷の彗星』:あさのあつこ(作家) 『たのしいムーミ

暑い夏におすすめの北欧ロード・ムーヴィー 後編 『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』&『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』

暑い夏におすすめの北欧ロード・ムーヴィー 後編では、フィンランドのロード・ムーヴィー『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』と『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を紹介したいと思います。 どちらもロード・ムーヴィーかつコメディ映画として楽しめる作品です。 フィンランド映画のイメージを粉々にする!?『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』 ロード・ムーヴィーといえば音楽がつきものですが、本作はメタル大国フィンラドらしくヘヴィメタルを全面に押し出し

暑い夏におすすめの北欧ロード・ムーヴィー 前編 『ロスバンド』

今年も猛暑の夏がやって来ました。暑い日はお家でゆっくり北欧映画を観て涼むのもいいかもしれません。今回は、そんな夏におすすめの北欧ロード・ムーヴィーを前編と後編に分けて紹介したいと思います。 ロード・ムーヴィーといえばアメリカの作品を思い浮かべる方も多いと思います。しかし、北欧ロード・ムーヴィーはアメリカのジャンルの流れにありながらも、独自の魅力を持っています。 前編では、爽やかな風を感じられるノルウェーのロード・ムーヴィー『ロスバンド』を紹介します。 ノルウェー発 北欧

病床と文学の親和性

   昨年、取材で私は静岡県富士山世界遺産センターに行ったことがあるのだが、その時特に印象に残った作品が、江戸時代後期の南画家である谷文晁の『富士山中真景全図』(1795)という作品であった。同作は三十四図からなる画巻で、富士川から裾野市を経て富士登山し、小田原までの道中の景色を描いており、これは時の11代将軍の徳川家斉に上覧され、賛辞も付けられている。       カメラが日本に伝来する50年程前に描かれたこの作品は、富士山道中の壮大なパノラマを描いているという点で、現代で

弟ペル・ウーロフにとってのトーベ・ヤンソンと短編「猿」

第11回・第14回・第15回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されており(全編スウェーデン語)、ヤンソンが亡くなった翌年の2002年に出版されました。 本書には、トーベ・ヤンソンの弟、ペル・ウーロフが書いた「Om känlekens vamarkt(愛の無力さについて)」が収録されています。トーベに

不安の渦中にいる人間たちの運命劇

 ノーベル文学賞と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは「今年も村上春樹は受賞しなかった」というニュースだけだろうか。実際、毎年ノーベル賞ウィークの中だるみのようなタイミングで発表される文学賞は、決定前の方が決定後よりもはるかに盛り上がっているような印象を受ける。そして翻訳大国と呼ばれた日本もはるか遠く、今では邦訳も作家紹介もない「見ず知らずの作家」たちがノーベル文学賞を受賞することも多く、そうした意味ではせっかくの文学賞にあやかりたい書店員さんたちも苦虫を噛み潰しているのではな

映像のデコパージュに誘惑される| 『エーレンガート:誘惑の極意』

先月、第96回アカデミー賞(2024年)の受賞結果が発表され、日本映画では山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞を受賞しました。  アカデミー賞というとアメリカの賞が有名ですが、デンマークにもロバート賞(Robert Prisen)と呼ばれるアカデミー賞があります。今年発表されたロバート賞(2024年)の作品賞には、ニコライ・アーセル監督、マッツ・ミケルセン主演の『Bastarden』が輝きました。本作は、日本

人のありのままを受け入れる力:ヴィヴィカ・バンドレルが語るトーベ・ヤンソンと『ムーミン谷の十一月』

   第11回・第14回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されており、ヤンソンが亡くなった翌年の2002年に出版されました。  この本には、スウェーデン語系フィンランド人の舞台演出家、ヴィヴィカ・バンドレル(1917-2004)へのインタビュー記事(1979年発表)が編集されたものが掲載されています

苦しむ人間の胸中にこそ「魂」が宿る

北欧流自然主義文学の代表作 親元を離れてから病気に罹ることほど心細いものはない。そう強く思ったのは、東京に出てきて間もなくして、新型コロナに罹った時だった。検査で陽性が出た当日ぐらいは「意外とこの程度か」と高を括っていたが、その翌々日には39度近くの熱と、そして凄まじい喉の痛みが襲ってきた。 地元の大阪を離れ、一人で迎えた病床は、何ともまあ苦しいものだった。私の場合、熱が出てから病院を探そうとしたせいもあり、熱と喉の痛みでまともに会話ができず、本当に苦労した。息も絶え絶え

可愛いだけの映画じゃない。『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(試写)

試写会にお誘いいただき『ロッタちゃん はじめてのおつかい』を観てきました。 今回初めて観る機会に恵まれ、とても楽しく可愛い作品だったので、みなさんにも紹介したいと思います。 おかえりなさいの人も はじめましての人も ハートをつかまれる! 映画ロッタちゃんシリーズは、『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』(1992年)と『ロッタちゃん はじめてのおつかい』(1993年)の2作品からなります。 原作は、『長くつ下のピッピ』や『やかまし村の子どもたち』などで知られるスウェーデンの国民

トーベ・ヤンソンが読んだ子どもの本

   第11回で、『Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)』を紹介しました。この本は、トーベ・ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されており、ヤンソンが亡くなった翌年の2002年に出版されました。  今回は、この本の中から、スウェーデン語系フィンランド人の作家ボー・カルペランがヤンソンへの2つのインタビューをまとめた記事を参照し、ヤンソンがインタビューで言及した本や作家を紹介しま

トーベ・ヤンソンの本の探し方

 これまでトーベ・ヤンソンの本の内容について紹介し、本の背景や解釈について書いてきましたが、今回はトーベ・ヤンソンの本の探し方を紹介します。末尾には、本を探す時に参考になるウェブサイトも記しておきます。 ヤンソンが発表した作品のなかには未邦訳のものや雑誌のみに翻訳が掲載されたものがありますが、ここでは日本語訳のあるヤンソンの著作のうち、本の形になっているものについて書きます。  ヤンソンの日本語訳の本を表にまとめました。  表について少し補足します。ムーミン全集にはいくつ

なぜ大人がムーミンに魅了されるのか?:トーベ・ヤンソンのエッセイ「似非児童文学作家」から考える

 ムーミンの小説を大人になって読み返す人、あるいは大人になってから初めて読む人もいると思います。児童文学として位置づけられるムーミンの物語を大人が手に取り、そして魅了されるのはなぜでしょうか。今回は、トーベ・ヤンソンが1961年に発表したエッセイ「似非児童文学作家」をもとにムーミンの物語が大人をも惹きつける理由を考えてみます。  「似非児童文学作家」は、2017年に刊行された『Bulevarden och andra texter(「大通り」とそのほかのテキスト)』という短

ゆっくり、長く歩くこと

北欧文学ブックレビュー No.1 『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』トマス・エスペダル著 枇谷玲子訳  評者 山下泰春    酔い潰れて終着駅まで送られたことがある人なら分かるだろうが、深夜にそこから歩いて自宅まで帰るときほど惨めで孤独で、しかし自由な時間は存在しない。スマートフォンの充電も底を突き、タクシーを呼べるほどの金もなかった私だったが、幸いにも歩いて一時間半ほどで帰れる場所に自宅があった。駅にいてもどうしようもないので、馴染みのない深夜の道

トーベ・ヤンソン 旅と小説

 トーベ・ヤンソンが亡くなった翌年の2002年、Resa med Tove : en minnesbok om Tove(トーベとの旅:トーベとの思い出の本)というスウェーデン語の本がフィンランドで出版されました(ヤンソンの母語はスウェーデン語です)。この本は、ヤンソンにかかわりのあった23人が書いた比較的短い文章で構成されています。日本語にはまだ翻訳されていません。   本の表題である「トーベとの旅」は、ヤンソンのパートナーであるトゥーリッキ・ピエティラ(※1)が書いた文

小さき者たちのクリスマス『オンネリとアンネリのふゆ』

 12月に入った途端に寒い冬がやってきました。アドベントも最終週となり、クリスマスが待ち遠しいですね。この時期、北欧はイルミネーションやクリスマスマーケットで賑わうのですが、今年のクリスマスは少し様子が違うようです。エネルギー高騰のため、各地のイルミネーションの時間が短縮されたり、暖房の温度が低く設定されたりしているようです。いつもとは少し違うクリスマスですが、厳しい冬を乗り越えるために楽しむ気持ちは大切にしたいものです。  北欧映画には、クリスマス映画が多くあります。実は