研究の最先端でなくても

アカデミア発技術をベースに事業を考える場合、どうしても「最先端の研究成果」を元にした事業をイメージしがちです。研究者としては、当然のことですし、その方が事業性が高いようにみえるでしょう。でも必ずしもそうともかぎらないかもしれません。

そのメソッドやプロトコルが事業になるかも

生物学に限らず科学の実験においては、再現性が重要です。二つの事象を比べる場合、それぞれのサンプル数が1(「Nが1」という言い方もします。)では、差があるのか、差がないのかの議論を統計的にできません。そのため現場では、日々実験を正確に繰り返すために、メソッドやプロトコルが整えられます。これにしたがって、可能な限り同じ条件で実験を繰り返すことができるようになり、統計的に有意に差があるのかという議論ができるようになります。
同時に実験の作業としての効率化を図るために、色々な工夫がなされることが少なくありません。試薬や培地の配合の仕方であったり、細胞の抽出の仕方であったり、出来るだけ短時間に効率よく行うことができるようにプロトコルが作られていきます。

医療現場や製造現場でも同じこと

医療現場においては、不特定多数の患者さんに同じクオリティの手技、処置、処方を行うことになります。そうでなければ、同じ医師であっても毎回言うことが違うということが生じてしまいます。一定程度確立した処置において、病院や医師によって大幅にやり方が異なっていたりします。そうすると患者さんは安心してお任せすることができません。(もちろん、「セカンドオピニオン」と言われるように、医師や病院によって見解が別れることは大いにありますし、それによってより正しいと思われる処置を選択できるようになるので、完全に規格化されることが正しいとは言えません。)
また、医師を含め医療関係者は大変忙しい職種です。同じ処置をするのに5時間かかっていたことが1時間かからなくなるのであれば大いに有り難がられるでしょう。
製造現場においては、大量生産大量生産の時代ではなくなりつつあるかもしれませんが、同じメーカーの同じ型番の製品であれば、同じ性能を発揮してくれると期待するのは当然です。同時に製造にかかる時間は人件費など光熱費という固定費というコストそのものですので、製造にかかる時間が短いほどコスト低減に繋がる、というのは分かりやすいでしょう。

そのプロトコル、違った目で見てみては?

私の個人的な好きな企業にJointTechという会社があります。細胞療法、再生医療関連の事業を展開していますが、製品の一つに「Mini-Stem」というものがあります。
http://jointechlabs.com/mini-stem-system.html
これは、患者さんから採取した幹細胞を再度移植するための準備のコストと時間を大幅に低減した、という製品です。
患者サイド、医師サイドそれぞれ課題がありました。

<患者サイド>
・高い医療コストのため、限られた人しか受けられない。
・地方では受けられず、遠くの病院に行く必要がある。
・治療法の透明性が担保されていないため、治療の信頼性に関して患者が理解できていない。
<医師サイド>
・幹細胞培養についての知識
・充実したラボやクリーンルーム
・GLPやGMP、クリニカルデータなどの規制、認可

検体から得られた必要な細胞を抽出し、培養(増やす)し、精製する、というのは熟練の手技が必要でした。これが、使い捨てキットでできたとしたらどうでしょう。Mini-Stemは、この両サイドの課題を解決するソリューションとして考えられました。

研究現場でも同じことがありませんか

研究現場は、必ずしも潤沢な予算と研究員がいる訳ではないと思います。限られた予算で限られた時間の中で成果を求められるシビアな環境です。そのための創意工夫があちこちにあるのではないでしょうか?
「このやり方じゃ時間がかかりすぎる」「安定した結果がでない」など本実験に入る前にプロトコルの検討を侃侃諤諤やってませんか?
ちょっと視野を広げてみると、それは誰かの課題を解決するかも知れません。

ありがとうございます!