見出し画像

感想まとめ兼もくじ【健康で文化的な最低限度の生活】《140字の感想文 》

 これまでの「健康で文化的な最低限度の生活」の感想の「まとめ兼もくじ」です。

 

関西テレビ(火曜放映)「健康で文化的な最低限度の生活」2018.7.17〜9.18 全10話

 人物相関図 https://www.ktv.jp/kbss/chart/index.html

 

・◇・◇・◇・

 

 いまの時代に必要なことを真正面から取り上げたいい企画だったのに、視聴率はふるいませんでした。ドラマとしての見ごたえもいまひとつで、残念でした。
 いまさら余計なお世話ですが、これまでの感想のまとめついでに、なぜ視聴率が低迷したか、思ったことを書いてみます。

 

 ①タイトルが「壁」になっていた。

 このドラマのいちばんのねらいは、「生活保護なんて他人事」の人に生活保護のことを知ってもらう、だったのではないかと思います。
 ですが、「健康で文化的な最低限度の生活」という、このタイトル。見た瞬間に、

 「教科書で見たわー!」
 「社会科で覚えさせられたわー!」
 「もー見ただけでめんどくさいわー!」

 ……等々と叫びたくなる。これがすでに、社会的な問題に意識が向いている人とそうでない人をふるいにかける役割を果たしてしまっています。

 

 変えるなり、サブタイトルを付けるなりの工夫が必要だったのかもしれません。
 が、原作マンガからかけ離れたタイトルにするわけにもいかないし、すでに長いタイトルをさらに長くするのも冗長だし、と考えたら、憲法の条文そのままでやむを得なかったとは思います。

 それゆえの「ケンカツ」という略称だったと思います。おかげで、検索のときはたいそう便利でした。
 が、「略称からもとの言葉が想起できない……(*_*)」という致命的な欠陥もあり、ドラマの愛称としては、五百蔵にはイマイチしっくりきませんでした。

 だけど問題は、「タイトルのもたらす壁を乗り越えられるだけのドラマだったかどうか」です。

 

 ②ぐっと惹きつけられるエピソードもあったのに……!

 たとえば、第7話の識字障害の中林吉徳や、第8話のアルコール依存症の赤嶺岳人。それぞれの障害や病気についての知識を視聴者に伝え、回復の道のりも見せてくれた回でした。それだけでなく、中林も赤嶺もなかなか味わいのあるキャラで、ぐっと感情移入できました。
 そして第9話最終話とドラマの掉尾を飾った梓。認知症の母を施設に預け、小学生の娘は置き去りにして、3人分の保護費だけ受け取ろうとした図太い根性を見せてくれた松本まりかさんの演技は、ちょっとした話題にも。
 これらのエピソードのどれかが前半に配置されていたら、ドラマへの注目度が上がっていたかもしれません。

 また、第8話では、主人公の義経えみるに対し、半田から「アルコール依存症の対応は難しい、覚悟が必要」との声かけがあったので、どれだけの修羅場になることか、これはもしかして「次回に続く」で2話連続になるか?なんて期待してましたが、あっさりと1話分で終了。
 明らかに時間配分のバランスが悪かったと思います。

 さらにいうなら。
 第5話第6話の島岡光のエピソードも、中林や赤嶺のどちらかの、障害や病気を乗り越える姿を見たあとに出てきたら、もっと感情移入しやすかったかもしれません。
 島岡の心に深い傷を与えた父からの性的虐待(とうとうネタバレしてしまいました……)、繰り返し襲ってくるフラッシュバック、その闇から立ち直り生き延びるために島岡を支援する……男性同士の間の性的な被害と加害の関係はこれからフォーカスがあたってくるだろう問題だっただけに、なんだか不発に終わったのが残念でした。

第5話 https://www.ktv.jp/kbss/story/05.html
第6話 https://www.ktv.jp/kbss/story/06.html
第7話 https://www.ktv.jp/kbss/story/07.html
第8話 https://www.ktv.jp/kbss/story/08.html
第9話 https://www.ktv.jp/kbss/story/09.html
最終話 https://www.ktv.jp/kbss/story/10.html

 

 ③生活保護の抱える闇に、はやめに踏み込んでもらいたかった

 このドラマ、もうひとつねらいがあったとしたら、「不正受給を無くせ!」とバッシングしたい人たちに、生活保護利用者の実態をもって反論すること、ではなかったかと思います。
 だけどそれらの人たちが見たがっていた、本当に悪辣な不正受給が出てきたのは最後の最後でした。このエピソードをもうすこし早めに出して、バッシングしたい人たちも引きずり込みつつ視聴率を上げていく、という方法もあったのではないかと思います。

 「デイリー新潮」の記事で、このドラマの視聴率について、こんな文章を見つけました。

 ただし物語に出てくる困難は、基本的に善良な対応で克服できるケースが多い。ところが現実を見ると、もっと難しい問題が山積している。

 そもそも生活保護費は3.8兆円を超え、増加の一途。当然、納税者の負担増も問題だ。さらに生活保護費が年金受給額より多いケースもあり、制度に納得していない視聴者も多い。
 次に不正受給の問題。所得隠し・暴力団の関与・生活保護ビジネスなどに加え、職員による横領や、役所側の生活保護費抑制問題もある。
 より深刻な課題に向き合わないため、多くの視聴者はピンと来なかったり、“自分事”として見られないでいる。
 “つかみ”あるいは物語の展開としては、より深い問題が発生し目から鱗の解決策が出てこないと、ストーリーテリングとして面白くない。

 この主張は主張で、「このドラマに『警察24時』とか『脱税Gメン』みたいな内容を期待するのはお門違いでは?」と言いたいのですが、無視もできません。
 それはなぜなら、「みんなが感じている重たい問題を避けてしまったら、ドラマの魅力がなくなる」といっているからです。
 さらに五百蔵は、「暗い面を避ければ避けるほど、ドラマが嘘臭くなって色褪せてしまう」とつけ加えます。

 

 いや、悪質な不正受給、語ることを避けられたわけではありませんでした。最後の最後で松本まりかさんがクズな母親、梓を熱演してくれました。
 でも、ここまでくるまでが長かった。松本さんの熱演だけでは、すでに積み上がった嘘臭さをくつがえすのは無理だったというものです。

 さらにもうひとつ。生活保護の問題について、良心的に考えている人の多くは、「水際作戦」、つまり、役所の窓口で生活保護利用希望者の希望を挫き、追い返す対応が、国の主導により行われていたことを知っていると思われます。
 ドラマの舞台となった東区役所は人間味のある温かい対応をしている、理想的な役所でした。それはそれで、行政の目指すべき姿を見せてもらった、という思いはあります。
 ですが、えみるの頑張りを見ながらも、「でも、役所の現実はどうよ?そっちにも目を向けようよ!」ともやもやしたりしませんでしたか? 実際に、五百蔵と夫の間では毎回、「そうはいってもこのドラマは理想すぎる」という会話がかわされていました。

 とはいえ、水際作戦も最終回で出てきました。第1話で生活保護からの脱出の糸口をつかんだ阿久沢正男、彼の離婚した妻と娘が、妻の病気を機に生活保護の利用の相談に行ったのに追い返された、というエピソードです(もちろん、えみるたちとは違う役所です)。
 ドラマを見ていて、やっとそこへ行ったか、とは思いました。だけど、遅きに失した、というのが正直な感想です。

第1話 https://www.ktv.jp/kbss/story/01.html

 こんなふうに、生活保護の暗い側面を最後まで見せなかったせいで、生活保護をバッシングしたい人たちも、良心的に考えたい人たちも、両方の関心をつかみそこねてしまった。しかも、ドラマの「お花畑」感が強まってしまい、魅力が半減したのではないか。

 これらも、視聴率低迷の要因になったと思います。

 

・◇・◇・◇・

 

 ほかにも、

 「チェインストーリー」は必要だったのか(実は見てない)、とか、
 新人のえみる、指導係の半田、京極係長の3人を物語の中心にして、他の若手ケースワーカーはその他大勢的存在でよかったのではないか、とか、
 マンガのコマ割りと絵面ならこれでかなり感動的だったろうに、実写にすると中身が薄く見えるなぁ……と感じることが多かった(でも、原作は見たことないです)、とか、

 ……いろいろあります。

 

 だけど、たとえ数字はイマイチでも、真正面から社会に向きあうドラマ、無くしてほしくないです。「新潮45」のような、センセーショナルさを追いかけて数字をとること一色になってほしくないと思います。
 だから、ダメダメなドラマだったけど(ごめんなさい)、この「健康で文化的な最低限度の生活」、終わった今でも力の限り応援したい。

 次もまた、新たな試みがなされることを期待しています。

  

・◇・◇・◇

 

 ではここから感想のまとめです。
 目次代わりにもなるのでどうぞ。

 

◇ 第1〜3話 ◇
【私たちはたぶん、一生、ケースワーカーにはなれないのにね】

「https://note.mu/beabamboo/n/nd572802d198d」


「https://note.mu/beabamboo/n/n5de8352dbc4f」


「https://note.mu/beabamboo/n/n9faa709ca0e7」

◇ 第5〜7話 ◇
【「言えないひとを、窓口に「行けない」ひとにしないために】

「https://note.mu/beabamboo/n/n7cf3e6a22fdf」


「https://note.mu/beabamboo/n/nd25f03b5392e」

 

ドラマとは関係ないですが、生存権がらみでおまけ

「https://note.mu/beabamboo/n/n80ce23acec64」


《140字感想文集》のマガジンもあります。
https://note.mu/beabamboo/m/m22b64482adf9

《ガチで書いている長編記事まとめ》も、よろしかったらご覧ください。
https://note.mu/beabamboo/m/m7f0f18508c2d

自己紹介的なマガジン、《五百蔵のトリセツ》
https://note.mu/beabamboo/m/m585d8928b5cc

 

#感想 #感想文 #日記 #エッセイ #コラム #エンタメ #コンテンツ会議 #140字 #140文字 #テレビドラマ #健康で文化的な最低限度の生活 #生活保護 #生存権 #基本的人権 #生きる #福祉 #差別 #生活保護

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

いま、病気で家にいるので、長い記事がかけてます。 だけど、収入がありません。お金をもらえると、すこし元気になります。 健康になって仕事を始めたら、収入には困りませんが、ものを書く余裕がなくなるかと思うと、ふくざつな心境です。