コーヒー牛乳
うちの親父は工場を経営しており、昼は工場・夜は接待でほとんど家には居ませんでした。母は寂しかったのか、夜は台所で酒を飲んでいるか、友達と飲みに出掛けていた。
小学生のある日のこと。
遊んで帰って来ると台所においなりさんが作って置いてあった。「明日はお父さんが休みだから、お花見に行こうって言ってたよ」と母が教えてくれた。
おいなりさんは明日のお弁当にする為に置いてあったのだ。夕方から作り置きするのは、また母が夜飲みに行くんだと思ったが、普段いない父と母そろって行けるのが嬉しく弟とはしゃぎ回った。
その後、はしゃぎ疲れテレビを見ながら寝てしまい不意に目が覚めた。見ると隣で親父も寝ていたが、何やら苦しそうにしている。
親父は昔から十二指腸が悪く、よく入院していたので心配になり声をかけるが唸るばかりで返事をしない。子供ながらにこれはヤバイと思い母親を探すがいない。やっぱり今夜も出掛けてしまったらしい。
不安と恐怖を噛み殺しながら、僕はただ親父の体をさすりながら「お父さん、お父さん。」と繰り返し叫んだ。
親父が何かを伝えようとしてるが声が小さくて聞き取れない。それでも何とか声を絞り出し何かを伝えようとしていた。
僕「なに？なに？」
親父「コ…コーヒー牛乳 」
僕「えっ？コーヒー牛乳？」
意味が分からなかった。酒が飲めない親父は普段牛乳を飲んでいたが、コーヒー牛乳を飲んでいる姿は見た事がなかった。でも、よっほど飲みたいのだろうとお小遣いを少しずつ貯めていたブタの貯金箱を壊し買いに出た。
当時、映画スパルタンＸのジャッキーチェンに憧れており、その映画の中でジャッキーがカッコよくスケボーを乗りこなしていた。その影響で僕もどこに行くにしろスケボーだった。
親父が大変な時もやっぱりスケボーでコーヒー牛乳を買いに行った。きっと走った方が早かったと思うが….。
当時、コンビニなんてものは無く、いつも行く駄菓子屋のシャッターを叩き「お父さんがコーヒー牛乳、お父さんがコーヒー牛乳。」とパニクりながら繰り返していた。
駄菓子屋のおばちゃんがしゃったーを開けると不思議そうな顔をしていたのを今でも思い出す。コーヒー牛乳二本買い、急いでスケボーに飛び乗った。帰る途中、小石が車輪に挟まり、おもいっきり転倒してヒジを擦りむいた。
当時、牛乳やコーヒー牛乳は瓶が主流だったのでコーヒー牛乳一本割ってしまったが、それでも泣きながら残りの一本を握りしめ急いで帰宅して「お父さん！コーヒー牛乳だよ、コーヒー牛乳だよ」と泣きながら父に何回も叫ぶように話しかけた。
すると、父がゆっくりと目を開き、震える声で答えた。「い…いらん。」と。
( ˙꒳˙ )えっ？
ぇ━(*´・д・)━!!!要らんってwwwwww
いとも簡単に子供の心を叩き壊したwwwwww
続けて親父が言った。
「さっき薬飲んだから大丈夫。それに俺、コーヒー牛乳大嫌いやし。」
Σ(°Д°)おいぃぃぃぃぃぃぃwwww大嫌いってwww
言い草wwwなんだwwwその言い草wwwwww
子供ながらに思った。きっと、こんな些細なきっかけで人が人をあやめてしまうんだろうな、と。
次の日、父親はびっくりするぐらい元気になり、腰に手を当て牛乳をがむ飲みしていた。何だかんだ言っても、親孝行したい時に親は無しと言うからな、と自分で自分を納得させた男バルスでした。
来世もこの親父の息子でありますように。
(^人^)
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