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掌エッセイ

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心に水を。日々のあれこれを随筆や掌編に。ほどよく更新。
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【エッセイ】エリンギ教

【エッセイ】エリンギ教

信仰に関するプライベートなことなのであまり大っぴらに話してはいないが、エリンギ教に入信して久しい。

エリンギ教の教祖はもちろん、エリンギ様である。エリンギは美味い。美味すぎる。あまりに美味すぎてその存在を疑う。だってあれ、もとは菌だろう。なぜにただの菌が育つと、あんなに味わい深くなるのか。神秘だ。奇跡だ。

おまけに美味いだけでなく、どんな料理に入れても合うというフレキシビリティ。肉厚で食べ応え

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【エッセイ】扉の向こう

【エッセイ】扉の向こう

エレベーターの前に立って、ふと思う。

これからマンションの一階まで下り、チャリを駅まで駆って高速バスで羽田に向かい、飛行機に飛び乗ってタラップを降りたら、そこは雄大なグリーンランドかもしれない。

それってすごく素敵なことだ。

仕事と生活に追われる日々の中ではふと、自分が籠の中の鳥になったように思える瞬間があるが、決してそんなことはない。実際のところ、目の前のエレベーターからグリーンランドまで

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【エッセイ】風になりたい

【エッセイ】風になりたい

風になりたい。

そういうお前(おれ)は手足に車輪をつけ、四つん這いになって崖から飛び立て。そしたらすぐさま風になれるし、ついでに塵にもなれるだろう。

どういう導入部なのかさっぱりわからないと思うが、今からするのは自転車の話だ。

かれこれ四十年以上自転車に乗っていて、いまだに不思議だなあと思うのは、ぼくの心と対向チャリの乗り手の心がシンクロし、互いが譲り合おうとするがばかりに正面衝突してしまう

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【エッセイ】続・弁当屋にいた頃

【エッセイ】続・弁当屋にいた頃

前回に続いて、弁当屋にいた頃の話を。

当時は一軒家を買い上げた社員寮に、男四人で暮らしていた。その家は背高な雑草に囲まれ、玄関からは異臭が漂い、全体的に壁がこう、くすんだオレンジ色をしていた。元はもっと違う色だったと思われるが、経年劣化や汚れによって、なんとも微妙な色に染め上がっていた。

環境への適応力には自信がある私だが、この家に関しては一目見た瞬間、あ、こりゃ知り合いを呼べないわ、と即断し

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