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【エッセイ】エリンギ教

信仰に関するプライベートなことなのであまり大っぴらに話してはいないが、エリンギ教に入信して久しい。

エリンギ教の教祖はもちろん、エリンギ様である。エリンギは美味い。美味すぎる。あまりに美味すぎてその存在を疑う。だってあれ、もとは菌だろう。なぜにただの菌が育つと、あんなに味わい深くなるのか。神秘だ。奇跡だ。

おまけに美味いだけでなく、どんな料理に入れても合うというフレキシビリティ。肉厚で食べ応えがあり、それでいて安い──神か。

そう、神だ。衆生は思った。もしやエリンギこそ、この虚言と保身と妄執と撤回の腐りきった現代世界に現れた、救い主ではないのかと。

見よ、あのとぼけた寸胴のフォルムを。それに比してやたら小さな傘を。なんとも愛嬌があり、かつ艶かしい。仕事でしくじっても「まあ、エリンギのやることだから」となぜか憎まれないタイプ。上司からは「エリンギくん」と可愛がられ、部下からは「エリンギさん」と慕われる。きっと一人称は「おい」で、「おいはエリンギでごわす」と関取みたいな口調でしゃべるような気がする。いや、そうに違いない。

どういうわけかスーパーなどでは、大きいエリンギ様と小さいエリンギ様がまるで親子のように寄り添いながら、ぎゅっとパッキングされて売られている。小さかった頃のエリンギ様が大エリンギ公と今生の別れを果たす場面の再現と言われているが、あまりにも健気で愛おしく、見ているだけで胸がつまる。泣ける。

そんなエリンギ様を切って焼いて食するというのは一見、聖道にもとる野蛮な行為に思われるかもしれないが、それはキリスト教でいうところの聖体拝領のようなもので、エリンギ様の一部を自らに取り込むことで、我々は主の御心に触れようとするのである。

エリンギ教の信者になって、思わぬ得をしたこともある。例えば私はふだんニット帽をかぶっているのだが、大半のエリンギ教徒もまた、ニット帽をエリンギ様の傘に見立てて日常的にかぶることが多い。それもまたエリンギ様に近づき、一体となろうとする試みだ。

そのためエリンギ教徒の多い地域を知らず訪れると、ニット帽をかぶっているだけで茶をすすめられたり、優先的に案内されたり、カフェやレストランで割引を受けられたりするので、旅好きの方は覚えておくとよいだろう。

ちなみに、しいたけ教徒とは不仲らしい。

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