とら猫(翻訳びと兼編集長)

ゲームとか翻訳する小川公貴って人(Coffee Talkなど)で、読みものメディア“BadCats Weekly”を運営する猫。だいたいやる。知見を得られないミニエッセイや、猫日記を更新ちう。サイトや実績👉lit.link/transneko

とら猫(翻訳びと兼編集長)

ゲームとか翻訳する小川公貴って人(Coffee Talkなど)で、読みものメディア“BadCats Weekly”を運営する猫。だいたいやる。知見を得られないミニエッセイや、猫日記を更新ちう。サイトや実績👉lit.link/transneko

マガジン

最近の記事

固定された記事

【編集後記】2021年を振り返って

新年あけましておめでとうございます! “コトバと戯れる読みものウェブ”ことBadCats Weeklyの編集長のとら猫です。ふだんはゲームやら何やらを翻訳しております。種別はヒト亜族です。 しかし、2021年は早かった。脱兎のごとく駆け抜けていきました。使い方が微妙に違うような気もしますが、まあいいでしょう。 歳を取ると時間の流れが速くなるというのは、本当ですね。実はジャネーの法則として心理学的にも解析されています(関連記事はこちら)。余生がどのくらい残されているのか知

スキ
185
    • あちらのお客さまから

      一度でいい。“あちらのお客さまから”をしてみたい。映画で見るようなあれを。 そこは繁華街の喧騒がかろうじて聞こえる、裏通りに溶け込むように佇むバー。狭く薄暗い店内には横長のカウンターとスツール、いくつかのテーブル席が設えてあり、耳を優しく撫でるような音量でジャズが流れている。 さまざまな銘柄のハードリカーが壁際の棚を美しく彩り、カウンター内でシェイカーを振っているマスターが、不安げに入ってきた私を見て、心得顔で軽く会釈をする。言葉は一切交わさない。必要がないから。 それ

      スキ
      54
      • エレベーターの乗りどき

        繁華街によくある、八階建てくらいの飲食ビルのエレベーターがどうも苦手だ。 そういった場所で飲み会があるとき、私はすぐにはエレベーターに向かわない。まずは柱の陰などから遠巻きに、大抵そうしたビルのやや奥まったところにあるエレベーターの周辺状況を、探偵になったつもりで偵察する。 そこに面識はあるけれど、あまり話したことがない、微妙な距離感の知り合いがいないか確かめるためだ。 そういった間柄の知り合いを視認した場合、私は慌てず騒がず、柱の陰に隠れながら、次のエレベーターを待つ

        スキ
        29
        • 焼香の手順

          作法というものに基本うとい。 元々世の中の不文律を察する能力に欠けてはいたが、特にフリーランスになってからは、なけなしの社交性を発揮する場もほぼ失われ、たまに社会との接触を求められると、何かをやらかす確率が格段に上がった。 先日も、生前大変お世話になった方の通夜に、白いネクタイ姿で乗り込むところだった。 確かにエレベーターの中で鏡を見ながら、自分の仕上がり具合を最終チェックしているときも、「なんかこれ違くね?」と違和感を拭えずにいたのだが、五十路を前にして腐りかけている

          スキ
          60

        マガジン

        マガジンをすべて見る すべて見る
        • 掌エッセイ
          とら猫(翻訳びと兼編集長)
        • 猫暮らし記
          とら猫(翻訳びと兼編集長)
        • ゲームとか翻訳話
          とら猫(翻訳びと兼編集長)
        • 編集長のつぶやき
          とら猫(翻訳びと兼編集長)

        記事

        記事をすべて見る すべて見る

          【猫暮らし記】またな、コロ沢

          コロ沢が逝ってしまった。 ニンゲンの仕事がようやくひと段落つき、全国の熱烈なコロ沢(通称“コロちゃん”)ファンへ向けてノートでも書こうかと、あれこれネタを準備している矢先、あっという間に死んでしまった。 私がコンビニへ行っている間に。15分前まではしっかり息をしていたひとつの命が、15分後にはもうこの世界から消えていた。 コンビニから帰宅してホスピス(私の書斎)へ戻り、その事実に気づいたとき、コロ沢の周りに置かれたいくつかのものたち──腎臓ケア用の点滴セット、猫トイレ、

          スキ
          183

          マローヌ

          マローヌって何だね。 おれは今、ひとつのメモの前で途方に暮れていた。マローヌ。わからない。それはさっき終わったオンラインミーティング中に取っていたメモで、大きく「やること」と記された文字列の下に「マローヌ」と書いてある。 いや、実際にマローヌと書いてあるのかはわからない。ただ、ミミズがのたくったような筆跡の混沌に目を凝らし、脳内データと照らして解析すると、ぎりぎり「マローヌ」と読めるというだけであって。 マローヌ。マローヌ。マローヌ。 口の中で三度転がしてみる。舌触り

          スキ
          53

          猫トイレ一本勝負

          首を気持ち長めにして待っていたおれは、いざそれが届くともういてもたってもいられず、やりかけのタスクを放擲してハサミを手に取り、巨大なアマゾーンの箱を野蛮人になったつもりで切り開いた。 きた。きたきたきた。白いかまくら風のいでたちの、新しい猫トイレが。 さっそくそいつを箱から取り出し、ピクトグラムのような絵だけの説明書を見ながら組み立てる。そして一連の淀みない動きでもって、新しい猫トイレの中に猫砂を敷き詰めた。 これで準備は整った。あとは待つだけ。神に祈るだけだ。 猫グ

          スキ
          88

          【猫暮らし記】ホスピスに戻ってきたコロ沢と、コロ沢月間の話

          コロさん改めコロ沢が、リビングからホスピス(おれの書斎)に戻ってきた。 もっとも体調が急激に悪化したとか、そういった理由からではない。確かに腎臓なんかの数値はあまり芳しくないけれど、コロ沢当人はごはんもバクバク食うし、人間の腰ほどの高さのテーブルにも余裕で飛び乗ってみせる。 十七歳という年齢を考えたら、十分すぎるくらい元気なほうだろう。 それでもホスピス(重ね重ね、おれの書斎)に戻ってきたのは、ざっくり言うと、リビングの先住猫たちとの折り合いが悪くなってきたからだ。

          スキ
          86

          鴨のいる風景

          昼飯を買いにコンビニへ向かってとぼとぼ歩いていると、近所を流れる小さな川の土手の上に人だかりができていた。 私も思わず野次馬スイッチを押され、吸い寄せられるように人ごみに加わって、眼下を流れる川に目を向ける。 カルガモの親子がいた。つがいが二羽と、その子どもたちが六羽。優雅にすいすいと水面を進んでいく親鳥に遅れてはなるまいと、風呂に浮かべる黄色いオモチャみたいな子ガモたちが懸命に泳いでいた。 「かわいー」「萌える」「カモやばい」など、幅広い年齢層の見物人たちがそれぞれの

          スキ
          56

          気がつけばゴンドラ

          知ってるかい? おれが今、目の前で見ているものを? そう、一枚の鉄板さ。忍者のマキビシを思わせる形の、滑り止め用の突起がついた、専門的には縞鋼板って呼ばれるやつだ。 一般的にはスキー場のゴンドラの床なんかに、よく使われている。おれたちがスキー靴を履いてガンダムになっているとき(みんなやるだろ?)、床がつるつるだと滑って危なく、落ち着いてガンダムになれないからな。 そう、おれは今ゴンドラの中にいる。たったひとりで。 ひとつ白いため息をつく。そうすれば時間が少しだけ早く流れ

          スキ
          46

          【ゲームとか翻訳話】フリーが干されないように食ってくには

          ほ、ほ、干されるうううー! うあああああっ! 取り乱してすみません。仕事が急にパタっと途絶えるという、おぞましい悪夢を見ていました。 フリーランスにとって“干される”ことは何よりも恐ろしいものです。それは真夏の夕立のように突然やってきて、それまでコツコツと貯めてきた自己肯定感を吹っ飛ばしていきます。そして「おれは誰にも必要とされてないのでは?」「なんかやらかしたのでは?」「もはや生きている価値なんてないのでは?」と疑心暗鬼に陥り、精神衛生上とてもよくありません。 では、

          スキ
          78

          【ゲームとか翻訳話】『Weird West』〜ラップで訳すのは大変だ〜

          翻訳を半分ほどお手伝いしました、西部劇テイストのアクションRPG『Weird West』が、おなじみ架け橋ゲームズさんの国内サポートでリリースされました(PS4/Xbox/PC)! “半分ほど”と書きましたが、本作は結構なテキスト量があるため、二人体制で翻訳しております。 リリーストレーラーはこちら。ちなみに字幕は拙訳です。 実際のゲームプレイの紹介などは、こちらのIGNジャパンさんの記事に詳しいです。本作の魅力が巧みにまとめられています。 では翻訳の話を。 プロジ

          スキ
          40

          【ゲームとか翻訳話】『スカーレット・フッドと邪悪の森』〜molassesって何よ〜

          翻訳を担当しました、横スクロール型パズルアドベンチャー『スカーレットフッドと邪悪の森』がSwitchでリリースされました! 学園ADV『コーマ』シリーズや、ローグライクRPG『ヴァンブレイス』などで知られるDvora-Studioの最新作となります。国内版リリースは『コーヒートーク』などのコーラス・ワールドワイドさんです。 ゲームの製品ページはこちら。 ゲームの詳しい情報はこちらで。 では、翻訳の話を。 本作の魅力のひとつは、田舎町からポップスターを目指す主人公スカ

          スキ
          30

          呪麺

          「本日、臨時休業いたします」 これは一体どんな呪いか──その張り紙を見て、そう思った。だってそうだろう。ふつうに清らかな魂で生きていたら、同じラーメン屋に三度足を運んで、三度とも臨時休業で振られるなんて不運に見舞われるはずがない。 呪いだ。おれ呪われた。やだわ。 今「んなわけあるかい」と鼻で笑った人は、申し訳ないが何もわかっていない。私は『呪怨』とかそういう映画をいっぱい観て勉強してきたのですごい詳しいのだが、世の中の災厄の大半は実のところ「呪い」のせいである。 だと

          スキ
          38

          ノーヒング・マイ・ウェイ

          三月末日。 おれは戦っていた。納品と。 長い戦いだった。なにしろ初めて拳を交えてから、ゆうに一年以上が過ぎている。その間に世の中ではオリンピックがあり、戦争が起き、相変わらずコロナは続いているが、そういった世情とは切り離された五畳半の書斎で、おれはひたすらパソコンと向き合っていた。 それはギリギリの旅だった。関わっている人すべてがギリギリのところで、ギリギリまでやっていた。そして泣いても笑っても最後の納期が目前に迫っていたこの頃、すでに極限にあると思われたギリギリはさらに

          スキ
          41

          コロさん日記(15)〜物事の終わり〜

          どんな物事にも終わりはある。 振り返ってみれば昨年の晩夏。同居人のニンゲン(女)が運営するラブコという会社から、コロさんはうちのホスピス(重ねがさね言うが、おれの書斎)へと移ってきた。 なぜならコロさんは腎臓に持病のある老猫で、今や食がすっかり細くなって衰弱がひどく、医者にも手の打ちようがないため、だったらうちのホスピスで静かに余生を過ごしてもらおうと、ラブコのニンゲンが考えたのだった。 当時のコロさんは、確かにやつれていた。全身に骨が浮かんでいて、あまり動かず、歩き方

          スキ
          68