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インディスピリッツが沸るゲームたち

普段いわゆる「インディゲーム」と呼ばれるゲームを翻訳することが多いせいか、時に「インディゲームのインディ性」って何だろうとぼんやり考えたりする。そういえば過日も某世界的なゲームアワード(今年のプレゼンターはティモシー・シャラメ!)において、大手デベロッパの資本が投入されたタイトルが「ベスト・インディゲーム」部門にノミネートされ、世界中でちょっとした物議を醸していた。

「インディゲーム」というジャンルの定義に関する詳しい議論はネットの海をざんぶり泳げばすぐ見つかるので、ここでは措いておくけれど、私が個人的に考える「インディ性」とは詰まるところスピリッツでありアティテュードである。より噛み砕いて言えばそれは魂の問題であり、身近なことで喩えるならセブンで冷凍うどんは買わないとか、そういったことだ。

そう聞いて「ふむ」と一瞬でも思った人はすでにインディな魂を宿している。けど「は?」と思った諸兄もご心配なく。魂の素晴らしい点は、理解する必要がないことだ。ジミヘンもそんなことを言っていた気がする。感じるか感じないか。それが肝心だ。

そこでここでは、自分が過去に翻訳してきたインディゲームの中でも、とりわけそうした「インディスピリッツ」を強く感じさせるタイトルを、一応翻訳びとらしく翻訳ネタも織り交ぜつつ、いくつかおすすめしていきたい。

『Vostok Inc.』(2017年)

クリッカー系(放置系)と呼ばれるジャンルにシューティングを融合させたゲーム。最大の特徴はブラックユーモア満載の危ないテキストで、資本主義や拝金主義に対する批判的視点から、皮肉たっぷりの虚無的なセリフが次から次へと繰り出される。超インディだぜ。こういうノリの中で育ってきた私にとって(どういう環境だ)、本作のテキストはまるで自分自身が語っているかのようにシンクロ率が高く、嬉々として作業したことを昨日のことのように覚えている。たぶん。

『ヘッドライナー:ノヴィニュース』(2019年)

新聞社の編集長になって掲載する記事を選び、世論を操作するという、社会ひいては自己批判的インディスピリッツが強烈に匂い立つ野心的なアドベンチャー。テレビでも何度か取り上げられた。コロナ禍以前の作品でありながら、その後の世界的パニックを予見するような描写が随所に見られる慧眼に感服。ゲームというより、これもう社会勉強ですよ。高校の授業に取り入れるべき。翻訳的にはファイル内のテキストの並びがフランクに前後していて、分岐しまくるセリフ間の整合性を取るのにとても苦労しました(ゲーム翻訳あるある)。

『In Other Waters』(2020年)

「インディ性」とはなんぞや、という問いに対する模範的回答がこちら。どこを切ってもクリエイターの思想と嗜好が滲み出る、唯一無二のタイトル。本作を開発したギャレスさんは天才です。なんと英国アカデミー賞にもノミネートされている。複雑化の一途をたどる最新ゲームへのアンチテーゼのような、ミニマリズム的美学に満ちたインターフェイスを介して、プレイヤーを深い思索の世界へといざなう重厚なストーリーが紡がれる。クィアたちの物語でもあるため、主人公の口調にはめちゃくちゃ悩んで何度も書き直した。今だったら違うふうに訳すかも。ちなみに天才ギャレス氏の最新作『シチズン・スリーパー』の日本語対応がこのたび発表されたので、楽しみっす。

『A Space for the Unbound 心に咲く花』(2023年)

インドネシアを舞台にしたジュブナイルアドベンチャー。いじめ、家庭内暴力、トラウマといったヘビーなテーマを、エンタメたるゲームにどう落とし込むかという判断は相当難しかったはず。開発に八年を要した一因は、正しい着地点を見つけるのに難儀したからかも。絵画のように美しいピクセルアートはもはや芸術。権威あるThe Game Awardsにノミネートされたという事実が、本作の方向性が間違っていなかったことの証左だろう。アトマとラヤのピュアで悲痛な物語に、翻訳中は何度も胸が詰まってしまった。インディという枠を超えた名作なので冬休みにやろう。

『ヘーゼルナッツ・ヘックス』(2023年)

デペロッパの嗜好が計量カップから溢れんばかりにぶち込まれた、インディゲームの懐の広さを感じさせるカラフルでポップなシューティング。インディなら自分のやりたいように作っても、上司に怒られることは決してない。ちなみに可愛い女子キャラがたくさん登場するが、いわゆる「〜わ」「〜よ」みたいな女言葉は一切使っていない。そういえば先日も、某映画の字幕の口調がネットで賛否両論を呼んでいた。こんなことを言うと不謹慎かもしれないけど、純粋に言語的な面から見れば、何かが大きく変わりつつある興味深い時代だと思う。

『Terranova/テラノヴァ』(2023〜2024年)

2000年代のネットコミュニティを舞台に、周縁化された若者たちのオタクな交流を描くノベルゲーム。開発者さんの実体験を基にしているそうで、そういった個々の経験や思想を希薄することなく直火で伝えられるのも、個人ベースのインディゲームの強みだ。ゲームは全五部構成で、現在第一部のみ日本語版が配信中。第二部以降の翻訳についてはパブリッシャーさんを探しつつ、クラウドファンディングも視野に入れているもよう。テキストヘヴィなゲームなので、ローカライズに結構お金がかかるんですよ…と翻訳した私が言うのも何ですが、気になった方はまず、現在配信中の「第一部」をプレイしてみてくださいませっ!私も日本語で続きが読みたい!

『グッドボーイ・ギャラクシー』(2023〜2024年)

クラウドファンディングで3000万の開発費を集めたことでも話題となった、令和の時代にゲームボーイアドバンス向け!の新作となるメトロイドヴァニア系アクションゲーム。こういうのってインディならではの企画ですよね。楽しい。どんどんやろう。数年に及ぶ開発期間を経て、先ごろついにデジタルROM版がitch.ioでリリースされた。今後SwitchやSteamでも配信される予定なので、気になる方はまず、パソコンでも遊べるデモ版をチェックしてみてネ!ちなみに翻訳はひらがな/カタカナ縛りだ。

以上です。育てよ、インディスピリッツ。しかし一年が早すぎて絶望しますね。時間はまだあるからって、そうゆっくりしてられないんだ!ではメリクマ&良いお年を〜!

(本稿は、翻訳もやられるインディコミュニティ愛好家の燻丸さん主催による、「ゲームとことば2023」という企画向けに執筆したものです。)

これもう猫めっちゃ喜びます!