【くらしの東洋医学 鍼灸で元気に】つわりと鍼灸
やった~、待望の赤ちゃんが!という喜びに浸るまもなく、襲い掛かってくる気持ちの悪さ、吐き気、食欲不振・・・それがつわりの始まりです。
今回は、多くの妊婦が経験をする『つわり』について、どうしておこるのか、そのタイプや原因、治療方法についてみていきましょう。
なお、本編の中では、実際に鍼灸治療でつわりの症状が改善し、無事に出産を迎えることができた症例をひとつご紹介していきます。
つわりで悩む妊婦のみなさまへ東洋医学と鍼灸の素晴らしさを届けたい、マタニティーライフを楽しんでもらいたい、鍼灸あやかざりからお届けする、この秋の№1トピックスです!
1.つわりとは
つわりとは、妊娠したことに伴う生理的変化であり、主に妊娠初期にでる、食欲不振・吐き気・嘔吐などの症状のことをいいます。
つわりは、全妊婦の約50~80%にみられ、妊娠初期からはじまり妊娠中期には自然と治まっていきます。また、一日の中では、比較的夜より朝に症状が重くなることが多いようです。
では、妊娠初期とは具体的にいつ頃のことを指すのでしょうか?
一般的には、妊娠第5週頃からつわりが始まり、第8~10週頃に症状のピークを迎え、第12~16週頃の妊娠中期に入る頃には終わりを迎えます。
しかし、その症状や重さは人によって異なり、第5週以前に既につわりが始まる人、妊娠期間中を通して全くつわりのない人、妊娠期間中ずっとつわりを経験する人、など実に様々で個人差を伴います。
ここで大切なことは、“つわりは生理現象の一つであり、必ずしも病的なものではない”ということです。
また、妊娠に関連した嘔吐の症状が深刻で継続するものを妊娠悪阻(にんしんおそ)と呼び、つわりと区別をしています。
妊娠悪阻の女性は、嘔吐がひどくなると体重が減少してしまいます。
脱水症状をひき起こすことから、体に必要なエネルギーを供給できるだけの十分な食事がとれず、そうすると体は脂肪を分解してエネルギーをつくりだし、その老廃物(ケトン体と呼ぶ)が体内に蓄積してケトーシスという状態を生じます。
ケトーシスになると、疲労、口臭、めまいなどがおこるようになります。
実際には、つわりの症状があっても、体重が増加していて脱水を伴わない場合には、妊娠悪阻とは診断されないケースもあり、妊娠悪阻もつわり同様、個人差を伴うことが多いようです。
妊娠中のつわりの有無と胎児の状態は一般的には無関係ですが、妊娠悪阻が長引いた場合には胎児への影響を及ぼしかねないため、場合によっては、通院での点滴治療や入院をして経過を観察するなど、充分な注意が必要となります。
2.つわりの症状
西洋医学で診断される、つわりの症状には、次のようなものがあります。
・吐き気や不快感
・眠気
・食欲不振
・脱水状態
・尿回数の減少
・口の渇き
・皮膚乾燥
・倦怠感
・胃痛
・便秘
・体重減少
これらの症状が全て起こるわけではなく、吐き気が強い人、眠気が強い人など、その症状は実に様々で個人差を伴います。
3.つわりのタイプ
次に、つわりの様々な症状のなかから、数多くの人が悩まされ、最も辛い症状とされている、吐き気に関するものを、症状別にタイプを分けてみていきましょう。
3-1.においづわり
炊飯器から出る『 炊きたてご飯のいいかおり!』。本来は、食欲をそそるご飯のいいにおいなのですが、妊娠したらなぜがそのにおいをかぐと気持ちが悪くなり、ご飯を炊くことができなくなってしまった、というような話をきいたことはありませんか?
においづわりとは、特定のにおいを嗅ぐと気分が悪くなってしまうつわりのことをいいます。
においが刺激となり吐き気をもよおすため、料理をしている間に気持ちが悪くなり、出来がった頃には口に食べ物を入れることができないこともあります。
どのにおいに反応するかは、人それぞれで、食べ物だけでなく、洗剤・柔軟剤やたばこなど、日常生活の中で出るにおいに対して過敏に反応をしてしまいます。
においは暖かいと広がっていくために、寒いところや冷えたものは比較的大丈夫な場合が多いようです。
3-2.吐きつわり
妊娠してから、ともかく気持ちが悪くて繰り返し吐いてしまう。
このタイプのつわりを、吐きつわりといいます。
先のにおいいづわりとも関係しますが、においや温度差など、日常生活の小さな刺激で吐き気をもよおしてしまいます。
また、胸やけがしたり、酸っぱいモノがゲップとともに上がってくるという特徴があります。
繰り返し嘔吐することで胃の中があれてしまい、常に胃の不快感を伴ったり、吐いたものに血が混じってしまうこともあります。
重症化した場合には、脱水状態、栄養不足状態になるため、病院での点滴治療を受ける必要が出ることもあります。
3-3.唾液つわり
妊娠をしてから、一日中、口の中がネバネバして唾がたまり、たまった唾液を飲み込むことができない。
唾液がたくさん出てくるが、苦いなどまずく感じてなかなか飲み込めない。
唾液を飲み込むと気持ちが悪くなってしまう。
これが『唾液つわり(よだれつわり)』といわれる、つわりの症状です。
このタイプのつわりは、口の中に何も入っていない状態になると唾液があふれ出てくることから、ガムやあめなどを口に入れたり、氷や炭酸飲料、アイスクリームなどで口をすっきりさせている間だけは、唾液がとまり、症状が軽くなることが多いようです。
3-4.食べつわり
妊娠をしてから、どうにもとまらない食欲が出てきて、小腹が空いた瞬間から、胃がムカムカして、吐き気が襲ってくる。
そして、その吐き気を防ぐためにひたすら何かを口にし続ける。
これが食べつわりといわれるタイプの症状です。
小腹が空くと食べるのですが、食べ過ぎると今度は吐きつわりの症状が出て、実際に嘔吐してしまうこともあります。
食べるものにより急激な体重の増加をまねき、妊婦だけでなく胎児の発育にも影響を及ぼしかねないため、医師や助産師から体重のコントロールの指導が入ることもありえます。
4.つわりの原因
様々な症状をひきおこす、つわりの原因はいったい何にあるのでしょうか。
西洋医学では、妊娠中になぜつわりが起こるのかは、明確には分かっていません。
しかし、妊娠の早期に胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)と、妊娠の維持を助ける エストロゲンという2種類のホルモンが妊娠中に増加するために、吐き気や嘔吐が起こる可能性が高い、という研究結果がでています。
また、妊娠という特別な出来事によって妊婦の気持ちが不安定になるなど、心理的な要因も関わっている可能性がある、ともいわれています。
5.西洋医学によるアプローチ
西洋医学では、つわりの診断や状態チェックをするために、医師の診察の他に血液検査、胎児の状態をしるためのエコー検査等が行われます。
治療の方法としては、症状の緩和のための投薬治療のほか、水分や栄養不足を補うための輸液治療などが一般的に行われているようです。
また、つわりは、先に述べたように妊娠に伴う生理現象あることから、具体的な治療は行われず、安定期になりつわりが治まるまでの間は、辛抱強く我慢を続ける、といったケースも少なくないようです。
6.鍼灸によるアプローチ
「つわりは鍼灸で治療できるのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、つわりの症状も鍼灸で治療可能な症状の一つです。
その効果は、世界保健機関(WHO)も認めています。
参考リンク:公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会
一般的な投薬治療では、つわりによる嘔吐症状を飲み薬などにより抑えます。
投薬による治療を受けている方の中には、『いつまで薬を使い続ければよいのか』『薬を使い続けるのは不安がある』『薬を飲むことで嘔吐が悪化してしまうため薬を飲むことができない』『薬により胃腸が荒れてしまい食欲がなくなってしまった』『胎児への影響が心配になる』と考えていらっしゃる方も多いかもしれません。
一方、鍼灸治療によるつわりの治し方は「症状が起こっている原因」を正すことによって、つわりの症状を治めていきます。
東洋医学的には、「体質、食事、疲労、ストレスなど、何らかの原因で胃腸の動きが悪くなり吐き気をひきおこして、つわりの症状を発症をする」と考え治療にあたります。
ここでは、さまざまなつわりの症状の中から、『3.つわりのタイプ』で紹介をした、吐き気の症状をとりあげ、東洋医学的に分類をして、原因をわけて見ていきたいと思います。
6-1.胃腸の働きの弱まりを原因とするもの(脾胃虚弱 胃気虚と胃陽虚)
妊娠をする前から、お腹をこわすことが多い・胃もたれをしやすい・食が細いなど、胃腸にトラブルを抱えている人に多いタイプです。
胃の働きは、口から摂取した食べ物を胃の中に取り込み、消化により細かくして、それを体内のさらに下のほうへ臓器へ送り込んでいくことにあります。
その胃の働きが、妊娠をすることにより影響を受け、上手く作用しなくなるのです。
妊娠をすると、月経が止まり、身体の中の老廃物としての余分な血液や水分(いわゆる、経血やおりもの)を身体の外に出る機会が失われます。
また、血液は、子宮の中の胎児の発育のための栄養として必要とされるため、下腹部(子宮)に集まりやすくなります。
さらに、月経がとまり身体下部の循環が停滞することから、本来下方向へ向かうべき胃腸の運動方向を含め、体内全体の循環方向が上向き(本来と逆方向)へ働きやすくなります。
胃腸の弱さがもともと体質にある人は、このような逆方向への動きが、胃腸が丈夫な人に比べておこりやすくなります。
結果、胃に食べ物が入りにくくなるばかりか、入った食べ物が逆方向へ向かい、食べるとすぐに吐き気をもよおし、口から出てくるようになります。
西洋医学のタイプ別で紹介した『においづわり』は、匂いを嗅ぐ行為により感覚が働いた結果、胃が反応して動き出して、本来と異なる方向へ胃の中の食べ物を押し出すことにより、つわりの症状がおこっていると考えることができます。おなかがすいたなぁという空腹感を感じはずが、胃からの逆上してくる感覚がおこることで吐き気となってしまうわけです。
このタイプの特徴には、食べるとすぐに吐く、嘔吐が頻繁におこる、腹部の膨満感がある、元気がない、倦怠感がある、しゃべるのおっくう、眠気がある、といった症状があります。
6-2.腹の冷えを原因とするもの(胃陽虚・胃寒)
もともと腹に冷えを感じやすい体質の人に多いタイプです。
腹に冷えを感じやすい人は、胃腸が冷えていることが多く、胃の動きが弱まって余分な水分や老廃物を胃の中に停滞させやすくなります。
そして、先にご紹介したのと同様、妊娠中は体内の全体の循環方向が上向き(本来と逆方向)へ働きやすくなることから、不消化物や水様物を口から嘔吐するようになります。
このタイプの人の特徴には、寒冷により嘔吐がつよくなる、水様物を嘔吐する、腹の上部あたりに冷えを感じやすく痛む、暖いものを好む、倦怠感がある、手足に冷えを感じる、横になりたがる、顔色が蒼白い、といった症状があります。
6-3.体内老廃物がたまりやすいことを原因とするもの(痰飲)
西洋医学のタイプ別で紹介した、『唾液つわり(よだれつわり)』に該当するタイプです。
妊娠前から、刺激の強い物、脂っこい食べ物、甘い物、生もの、水分を摂りすぎる傾向が強い場合、摂取したものの老廃物や水分の余りが生成されやすくなり、胃の中に停滞して、体外に排出されづらくなります。
そして、先にご紹介したのと同様、妊娠中は体内の全体の循環方向が上向き(本来と逆方向)へ働きやすくなることから、たまった老廃物を唾状の物質として嘔吐するようになります。
このタイプの特徴として、水様性・粘ばりけのある白色泡沫状のものを嘔吐する、頭のふらつき、めまい、動悸、息切れ、悪心、胸が張り苦しい、食欲不振、口の粘り、味がない、等の症状をともなうことが多いです。
6-4.胃の動きが亢進することによるもの(胃熱)
妊娠前から、刺激の強い物、脂っこい食べ物、甘い物、生もの、水分を摂りすぎる傾向の人に多いタイプです。
こういった食べ物は、胃に対しての負担が大きく、消化することで胃の活動が増すことから過剰な熱を生み出します。
その熱の一部が体外へ出ようとして体内の上方向に動き、口から吐き気となって排出されてきます。
このタイプの特徴としては、普段から腹に熱さを感じやすい、食後の嘔吐が強い、いらいらしやすい、口が渇きやすい、顔面が紅潮しやすい、冷飲を好む、便秘しやすい、などの症状があります。
6-5.心身の緊張によるもの(肝熱)
妊娠中は、新しい生命が体内に宿り、身体にとっては大きな変化となります。
また、妊婦自身の体調変化、胎児の発育、将来の生活のことなど、様々な心配事が増えて精神的に不安定になりやすくなります。
精神的なストレスから気持ちがピーンとはった状態が続くことで、おのずと身体も緊張しやすくなり、感情的になったり・イライラしやすくなったりしてきます。
こうした心身の過緊張状態が続くことで胃腸の正常な運動がを妨げられ、つわりの症状をひきおこします。
先にご紹介したのと同様、妊娠中は体内の全体の循環方向が上向き(本来と逆方向)へ働きやすくなることから、上半身が熱しやすく、気分も高揚しやすくなります。その結果、イライラしやすくなったり、カーッとなったり、泣きたくなったり、情緒不安定な状態がおこりやすくなります。
妊娠前から感情的になりやすいタイプの人は、妊娠することにより情動が一層激しくなる傾向にあるようです。
このタイプの特徴は、いらいらしやすい、怒りっぽい、げっぷが良く出る、酸っぱい、苦い水様物を嘔吐する、食べるとすぐに吐く、頭のふらつき、めまい、口臭、口が苦い、胸脇痛、などの症状を伴うことがあります。
6-6.嘔吐をくりかえすことを原因とするもの(胃陰虚)
頻繁な嘔吐を繰り返し、水分が摂取ができない、食べることができない状態が続くことで、胃の中の潤い成分が不足します。
胃は渇き、動きがさらに弱まって、食欲の低下や水分摂取もすすまなくなります。
いわゆる、つわりによる悪循環により、つわり症状が深刻化しているケースです。
このタイプの特徴は、口の乾き、尿量の減少、便が固い、吐き気を催すが何も吐けない、などが症状としてあります。
7.鍼灸治療でつわりが改善した症例
次に、鍼灸治療でつわりが改善した症例をご紹介したいと思います。
一度の施術で使うツボは1つで、施術時間は休憩含めて1時間程度です。
なお、鍼をする前には、予め、詳しく問診をする必要があり、症状だけでなく、他にもある様々な身体の症状(随伴症状といいます)、その人の体質や体格、その時の体調、施術をする時の季節、天気なども考慮する必要があります。
その上で、その人の身体全体の状態(脈、舌、顔色、身体の熱冷のかたより、身体の緊張、手足ツボの反応など)から、トータル的にみて、最も原因にふさわしいツボを選び鍼灸の施術をします。
そのため、症状や原因が同じでも、その時々で使用するツボも変えることが必要となります。
また、妊婦の治療に際して気を付けなければいけないことの一つに、胎児の健康を守る、ということがあります。
そのためには、過剰な刺激はさけることが重要であり、使用するツボと刺激量には最新の注意をはらいます。
また、状態によっては、刺さない鍼を用いたりお灸を使用するなど、やさしい刺激による治療を行うこともあります。
【患者】30代後半女性、専門職(接客、デスクワーク)、身長16Xcm、体重5Xkg。
【初診】201X年9月XX日
【主訴】においづわり、吐きづわり
【問診】
これまで大きな病気はなく育つ。体型は普通体系。食欲は人一倍あり、食欲旺盛、胃腸のトラブルはこれまでなし。
20代より、現在の職業に就く。精神的なストレス負荷(緊張感)を常にともなう専門職で、一日にいくつもの打ち合わせをする機会がある。
30代後半、妊活を初めてまもなく月経が止まり、むかむかとした吐き気を感じ始めて、妊娠したことに気づく安定期に入るまでは周りには隠しながら仕事をしたい、仕事に影響を出したくないと思い、仕事をしながらつわりを治療方法として、鍼灸で何とかならないかと思ったことから来院をした。
【初診時の症状】
・むかむかが悪化する時間帯は夜中であり、夜間にむかむかで目がさめる。
・むかむかにより、食欲不振となり、食べ物を食べることができない。
【妊娠5週頃以降の症状】
・むかむかが悪化して、実際に食べ物を嘔吐することが出てくる。
・嘔吐した後、口に何かを入れている時、物事に集中している時は、症状が楽に感じる。
【診断と治療方針】
仕事などで周囲に気づかいをしないといけない緊張した状態が続き、身体が過緊張状態になることから胃腸の動きが悪くなり、緊張から解放される夜中の時間帯に、一気につわりの症状がおきやすくなった、と考えられる。
従って、身体の緊張をとりながら、胃腸の働きをよくするように処置をする。
また、胎児の発育にとって必要な陰血が不足するようであれば、適宜、それらを補う処置を加える。
【日常生活での注意点】
・身体の緊張をとり循環をよくするように、軽い散歩をする。
・信頼できる人に妊娠していることを打ち明け、協力を仰ぐ。
【経過】
初診後より、吐き気の症状が改善する。
仕事は休むことなく継続をする中で、つわりには波があり、途中は吐きづわりになることもあったが、鍼灸治療を行うことでなんとか仕事をしながら安定期にこぎつけ、無事出産へと至った。
8.まとめ
今回はつわりについて、症状ごとのタイプや原因、治療方法について解説をしました。
東洋医学においても、つわりに対する治療が可能なことはご理解いただけたでしょうか。
今回はここまでとなります。最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。
それでは、鍼灸でからだも心も元気になりましょう!
鍼灸 あやかざり
千葉駅5分 完全予約制 女性と子ども専門の鍼灸治療院
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