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『天使の翼』第12章~吟遊詩人デイテの冒険~

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サンス大公国の秘密警察機関SSIPのデビルハンター捜査に巻き込まれたデイテ、シャルル、ローラの一行は、指揮官クラレンス少佐の計らいでハイアンコーナまでパトロールエアカーに同乗させ…
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2023年11月の記事一覧

『天使の翼』第12章(10)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(10)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 エアカーのあった辺りの湖面に水蒸気がもやいでいる。
 わたしは、今やがたがたと震えていた。自分の意志では抑えられない。
 ――証拠隠滅。いかにもSSIPらしい荒っぽいやり方。これで何もなかったことにする訳だ……せっかくシャルルが助けてくれたのに、わたしは何て馬鹿だったんだろう。『後片付け』が終わるまでは、隠れていなくてはならなかったのに。
 やがて姿を現したのは、予想通り単なる惑星内飛行機械では

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『天使の翼』第12章(9)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(9)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 最後の瞬間、わたしは、湖面に向かってダイブした。泳いで岩の陰に入る。岩と岩の間から空を窺った。
 その時にはもう、空飛ぶ物体の発する不吉な音は相当大きくなっていた……見られなかったろうか……わたしは、不安と恐怖に小刻みに震えている自分に気付く……
 早くどこかへ行ってくれ、というわたしの願いもむなしく、未だ姿の見えない物体は……恐ろしく巨大な何かは、わたしが息をひそめる岩場のほとんど直上で停止し

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『天使の翼』第12章(8)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(8)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ……この状況からして、前席にいた二人、フラージュ少佐とその副官は、死んだか、相当の重傷……いずれにしても、シャルルにこの二人を助け出す余力も時間も、さらに言うなら理由もなかったはずで……だとしたら……無事だったSSIPの隊員が二人の体を持ち去ったか、既にSSIPの救援隊が一度来ている!
 わたしの頭は、ようやく回りだした。
 (SSIPが、この墜落機を放置する訳がない!)
 わたしは、身震いとと

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『天使の翼』第12章(7)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(7)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 こんな時なのに、わたしの五感は、水がとても冷たく、そして、とてもきれいに透き通っているのを意識した。水底の茶褐色の砂利がはっきりと見える。薄い茶褐色、濃い茶褐色が斑になって、どこまでも遠浅に続いている……靴底に感じる砂利の感触……
 わたしは、息絶え絶えとなって、ガラスのないエアカーのドア枠に取り付いた。……機体番号から、わたしの思い込み通り、乗ってきたSSIP機と知れる……
 じゃぶじゃぶと湖

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『天使の翼』第12章(6)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(6)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 他に人工物、人影は見当たらない。空を見渡す。何も飛んでない……
 わたしは、もうしばらく待ってから、矢も楯もたまらず、エアカーに向かって走り出していた。わたしは、狭まった視界の中で、全身、自分自身の荒い息遣いと地面を蹴る靴音に包まれた。
 わたしは、どうかしていた。死を連想させる不安がパニックを起こしたのか……。わたしがシャルルに助けられたのだとしたら、あの沈みかけたエアカーにシャルルが乗ってる

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『天使の翼』第12章(5)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(5)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 窪地の縁の少し手前まで来て、遥か遠く万年雪を頂いた連山が視界に入ってきた。記憶通り。
 風の音しか聞こえない。
 わたしは、思い切って縁の上に頭半分目から上だけ出した。
 …………
 一つだけ、墜落前の記憶と違う。
 50メートルほど先に、かなり大きな湖が広がっている。波が立っているのか、連山の上の太陽の光がまばゆく乱反射している。
 わたしは身を乗り出した。
 ――逆光の中、湖岸からさほど遠く

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『天使の翼』第12章(4)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(4)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 そして、歓喜がわたしをおそった。――シャルルだ!シャルルに違いない。わたしを助けた彼は、わたしを茂みに隠して、周囲の偵察に行っているのだ!
 (シャルルの配慮を無にしてはいけない)
 わたしは、用心深く行動することにした。SSIPの連中は相当やられていたけれども、全滅とまではいってないだろうし、増援部隊が来るに違いない――いや、もう来ているかも知れない。デビル・ハンター達だって、わたし達のような

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『天使の翼』第12章(3)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(3)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 一陣の風が砂埃を舞い上げた。夕方というほどではないが、陽がだいぶ傾いてきたようだ。とにかく寒い。
 わたしは、改めて自分の身なりを見直した――その時のわたしはとても混乱していて、物事の優先順位を主体的に考えられるような状態ではなかった――。わたしのヘビー・ローテーション、お気に入りの黒のコート、旅人の頼もしい味方、全天候型のごつい黒のブーツ……そして、ラプラスの宇宙港にあったジーンズ屋さんで買っ

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『天使の翼』第12章(2)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(2)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしが最初に考えたのは、近くに誰かいないかということ――敵であるSSIP,シャルル、ローラ……そしてデビル・ハンター……
 わたしのいる低木の茂み――半径3標準メートル程のごく小さいもの――は、砂地の窪地にあった。窪地のふちは、風化した砂岩で……つまり、わたしは、あそこまで這い出していかなくては、周囲を観察することはできない。少なくとも今見える範囲には誰もいないし、倒れてもいない……エアカーの

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『天使の翼』第12章(1)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(1)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 狂信者にとって、人生とは死に至る待合室に過ぎない。その者にとっては、待合室の扉の向こうに待っている死こそが、全価値である。

 大多数の人間は、善人でも悪人でもない。もっとも鋭利な善と悪に出会えるのは、天才か狂気の中である。
(第一王朝期の神学者)

 わたしの頭の中は、いつの間にか空っぽになっていた。嫌なことも、つらいことも、とにかく心の負担になるようなことはすべて忘れた状態で目を覚ました。

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