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『天使の翼』第12章(7)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 こんな時なのに、わたしの五感は、水がとても冷たく、そして、とてもきれいに透き通っているのを意識した。水底の茶褐色の砂利がはっきりと見える。薄い茶褐色、濃い茶褐色が斑になって、どこまでも遠浅に続いている……靴底に感じる砂利の感触……
 わたしは、息絶え絶えとなって、ガラスのないエアカーのドア枠に取り付いた。……機体番号から、わたしの思い込み通り、乗ってきたSSIP機と知れる……
 じゃぶじゃぶと湖水に洗われる車内……砕け散ってフロント・ガラスのなくなった前の窓から、車のノーズを越えて増幅した波が入ってくる――
 わたしの視線は、前席二つのヘッドレスト、そしてパネルに飛び散ったどす黒い血糊にくぎ付けとなった。……血に絡まった髪の束のようなものも……
 後席はきれいだ!
 誰もいない。

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