フェアマインド認証ゴールド:環境だけでなく社会と経済への影響も考慮する選択肢。
今やどの業界でもそうですが、ジュエリー業界の多くも、責任ある活動、持続可能性、倫理的な調達に取り組むことの重要性に気づいています。
現在、大手ハイエンドジュエリーブランドから小規模なブランドまで、それぞれがそれぞれの方法でジュエリーにおけるサステナビリティーへの取り組みを積極的に行なっています。
そのサステナブルジュエリーの特徴の一つとして、
リサイクルされた金属を使用する、
というものがあります。
リサイクル素材の使用は、
産業界の環境負荷の低減への取り組みに対する方法の一つですよね。
リサイクル素材をサプライチェーンに組み込む利点としては、
⚫︎温室効果ガス排出量の削減
⚫︎地球資源の採取量の削減
⚫︎人権や環境侵害を助長しない
などが挙げられます。
また、品質を失うことなくほぼ永遠にリサイクルできるゴールド、シルバー、プラチナなどの使用は、
サーキュラーエコノミー(循環型経済)を構築するための役割を果たすという利点もあります。
ジュエリー業界は、10年以上前から責任ある加工・流通過程の管理、産地やトレーサビリティを示す場合に、リサイクルゴールドの使用を推進してきました。
今ある資源を大切にしながら環境に配慮して製品をつくる手段として、リサイクルされた金属の使用は確かに循環型でサステナブル社会のシステム構築へ貢献します。
しかし、
本当に倫理的で責任ある調達と言えるのか?
疑問に答えてみましょう。
リサイクル金属のトレーサビリティの限界
サステナビリティを考える上で、
やはり外せないのはトレーサビリティについて。
トレーサビリティとは、商品の生産から最終消費まで追跡できること。
商品がいつ、どこで、誰の手によって生産され流通したかを透明化するための仕組みです。
実は、リサイクル金属はリサイクルされる前の段階(原産地)までの追跡はほぼ不可能です。
一般的なトレーサビリティはサプライチェーンに沿って行うことができますが、一般的なリサイクル金属は、他の供給源から分別された証明書がない限り、その抽出条件について関連した主張をすることができません。
市場で「リサイクル金属」と呼ばれるものの起源は、最後の精錬所(金属リサイクル施設)までしか追跡することができないのです。
そこを踏まえて考えると、リサイクル金属は本当の意味ではトレーサブルとは言えないのが現実です。
例えばゴールドだと、リサイクルされたゴールドを取り入れるために一般的に使われる議論は、
というもの。
なので一見すると、リサイクルされたゴールドの使用は、エシカルジュエラーが鉱業の汚いイメージと縁を切るための唯一の解決策であるように見えます。
しかし、元々そのような採掘がされていたゴールドをリサイクルして使うことは、採掘の倫理的責任を果たすことにはならないということでもあるのです。
そもそもゴールドは発見以来一貫してリサイクルされている
ゴールドはあらゆる素材の中で最も安定的にリサイクルされている素材と言っても過言ではありません。ほとんどすべてがリサイクルされており、歴史的にも常にリサイクルされてきたのです。
さらには、リサイクルされたゴールドのほとんどはジュエリーに使われていることが分かっています。
つまり、ジュエリー制作においてリサイクルされたゴールドの使用は、実はすでに当たり前にされていたことです。
ブランドや企業として、消費者に知ってもらうためにそういった情報開示をすることは良いことですが、
いかにも倫理的な責任ある調達としてリサイクルされたゴールドの使用を特別に強みとして主張するには、グリーンウォッシュを疑ってしまいます。
ちなみに私たちの市場に入るゴールドは、
採掘から来るか、リサイクルから来るか
のどちらかです。
さらには、ゴールドが発見されて以来、捨てられたり行方不明になったゴールドは、わずか2%。
ゴールドは変色や腐食がないため、
これまでに採掘されたものすべて何らかの形で現存しているのです。
この驚くべき数字の理由は、
人々の環境意識にあるのではなく、
ゴールドの経済的価値にあります。
ゴールドには十分に価値があるため、
発見以来一貫してリサイクルされてきたのです。
このゴールドの大部分、約70%は個人の手に渡り高品質のものであるため、非常にリサイクルが容易です。
ジュエラーはゴールド採掘のマイナス面を抑制できない?
しかしながら、
工業用だけでなく、職人や小規模の鉱山でのゴールドの生産は、
資源の枯渇
広範囲な化学物質の使用
有害物質の排出
高いエネルギー消費
社会的懸念
など、
マイナスの影響を生み出し、非常に重要視されています。
そのため、
「リサイクルされたゴールドを使うことで新たに採掘されるゴールドの需要を減らし、いわゆる汚れたゴールドの悪影響というものを軽減することができる」
と主張するジュエラーもいます。
しかし、これは全て真実とは言えません。
実は、
ジュエリー産業でリサイクルされたゴールドを使用しても、ゴールドの採掘を抑制することには大して影響はありません。
ゴールドはお金を生み出すために採掘されるのであって、それ以外の何ものでもないのです。
別記事でも書きましたが、ゴールド=お金です。
ゴールドは国際通貨システムにおいて常に重要な役割を担っており、世界中で受け入れられています。
ゴールドは、銀行システムが機能しないときでも、現金に換えることができるのです。
このことからもわかるように、
そもそもゴールドは宝飾品のために採掘されるのではないのです。
さらには、製造に必要なだけのゴールドの在庫があることも分かっています。ゴールドの価格と埋蔵量によって採掘量が変わるだけなのです。
2020年、投資目的のゴールドの需要は47%に達し、宝飾品の38%を抜いて主要用途となりました。
2020年にCOVID-19のパンデミックによってもたらされた不確実性が、投資としてのゴールドの使用量が40%増加したことに大きく影響しています。
ジュエリー産業で採用されている主な基準では、加工スクラップをリサイクルゴールドの適格材料としているため、リサイクルも完全ではありません。
特に高級品では、50%以上のスクラップが発生する加工もあるため、採掘されたばかりのゴールドが、採掘後わずか数週間でリサイクル製品として導入される可能性があることを意味します。
このような鉱業分野の悪いイメージから、ゴールドの採掘を禁止し、既存の資源を再利用すればよいという声が上がるのは間違いないと思います。
しかし、
持続可能な開発は、環境だけでなく、社会と経済への影響も考慮されるものです。
ゴールドの採掘は開発の原動力でもあり、
困っている多くの人々に収入をもたらすまたとない機会でもあるのです。
つまり、世界中で1億5千万人が金の採掘に依存して生活していることを考えると、リサイクルされたゴールドのみの使用と限定してしまうことは、社会へのプラスの影響にはならないのです。
果たして、倫理的で責任ある調達とは?
社会と経済への影響も考慮したフェアマインド認証ゴールド
フェアマインドゴールドもまた、この業界で注目されているオプションです。
このARMでは、人権と環境に配慮し、有害な化学物質の削減に努めていて、労働条件の改善、インフラの整備に努め、鉱山の持続的発展の支援を行っています。
いわゆる公正に採掘・取引されたゴールドというものです。
フェアマインド鉱山には主に、
【組織開発】
【社会開発】
【環境保護】
【労働条件】
の4つの基準が必須の項目として成り立っています。
金の採掘をめぐっての危険を伴う労働環境のなかで、児童労働や強制労働、また化学物質の危険な取り扱いによる健康被害や環境汚染など、
各国で問題視されている問題を解決するためには、フェアマインド認証鉱山を増やしていくこと、積極的にフェアマインド認証ゴールドを使用することが大切になってきます。
フェアマインドゴールドは、
その基準や手法は、倫理的な労働条件や採掘条件を保証し、現在の産業で巻き起こっている違法行為や「汚い」慣習を排除しています。
また、採掘に依存しているコミュニティー(1億5千万人がゴールドの採掘に依存している)の生活にも貢献することができます。
職人によるゴールドの採掘は、全ゴールドの採掘量のわずか15%でありながら、世界で約1億人以上の人々の生活を直接支えているのです。
職人による小規模鉱山で採掘されるゴールド1キログラムは、50人の鉱夫に1年間の仕事を提供します。
この認証されたASMゴールドは、150年前のカリフォルニアのゴールドラッシュ時のように、何百万人もの人々にとって開発ツールであり、
それを必要とする人々に飛躍的な進歩をもたらすため、リサイクルよりも優先されてもいいかもしれません。
もちろん、このゴールドは今のところ数量が限られており、価格もかなり高くなっています。この追加コストは、採掘業者にとって最低限の適正価格を確保し、採掘組織にとっては割高になるためです。
また、専用のサプライチェーンを構築し、利用可能な量に応じたプロセスと専用の物流を適応させるために、すべてのサプライチェーン関係者が大きな努力をする必要があります。
もしジュエラーがこの公正に採掘されたゴールドを使う努力をせず、単にリサイクルゴールドを唯一の倫理的解決策とし続けるなら、
市場インセンティブを必要とするこの職人による小規模採掘分野に貢献しないことになり、
リサイクルゴールドだけという選択は、状況に向き合わず、止まらない採掘を無視するだけの行き止まりになってしまう日が来るのではないでしょうか。
さらに、リサイクルされたゴールドはフェアマインド認証されたゴールドとは異なり、採掘の時点まで遡ることができません。
つまり、汚れた採掘されたゴールドが「リサイクルされた」ゴールドとなり、加工くずのようにすぐに終わってしまうことを防ぐことはできないのです。
まとめ
持続可能社会のためにも、限りある資源のリサイクルは大変重要です。
しかしリサイクルされた金のみを使用することは、事実上、より責任ある行動をとるために市場のサポートを必要とする産業に進歩や発展をもたらしません。
環境だけでなく、社会と経済への影響も考慮した上で、
責任あるASMのゴールドを使用し、
足りない分をリサイクルゴールドで補うということができれば、
ゴールドの生産における問題解決に直接つながり、より倫理的で責任ある調達と言えるかもしれません。
今まで通りのリサイクル金属の使用に加え、そもそもの採掘方法を改善するためのプログラムにも貢献することで、環境や人権への悪影響を軽減できると感じています。
手作業による小規模採掘セクターで責任ある慣行を推進することは、世界中の鉱山労働者の労働条件と生活を劇的に改善する可能性があるからです。
ニュートラルなゴールドとして使用するという条件でリサイクルゴールドを使用すれば、より責任あるジュエラーであると言えるでしょう。
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