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短編小説集

19
短編小説、増幅中。
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#短編

泪眸サーカス

泪眸サーカス

 名前の無い移動式サーカス。テントは、赤と白いの縞々で、老いぼれたライオン一匹と疲れた道化師、嘗ての夢。
 今、テントはベルリンの郊外、小さな遊園地の隣にしんなりと潜んで居る。静。二十二時、開幕。
 ピエロの呼び声とオルゴールの音楽が流れたら、サーカスの始まりだ。客は疎ら、それ位が良い。チケットが折られ、レッドレルベットの簡易席に座ったら、いざ開幕の刻。
 「さあさ、この世は陳腐な夢だ!遊んでおゆ

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少年の為の小さな海

少年の為の小さな海

 緑、飛ぶ虹彩。刺すやうに。見る。
 ソラスは立ち尽くしていた。港。船着き場に船は一艘も無い。海は白ばんで、たおやかに息をしている。
 少年と呼ばれる時間は幾ほどだろうか。13歳。新浜中等学校の二年、夏、七月。未だ、ソラスはただ少年でしか無く、青色だった。
 爪が伸びている事に気づく。僕は生きて居るやうだ。気持ち悪い。
 齧り、爪など剥ぐこゝろ。生など、嗚呼なんと醜い!コンクリートに仰向けて、空に

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縞々シマウマ殺し

縞々シマウマ殺し

 縞々、変な名前。今日はカフェラテを飲んだ。買って貰った奴。
 僕は縞々。⓪歳のつもり。
 零才児が何を考えて居るか、もう忘れて仕舞ったけれど、多分ゆめのやうな事だろう。胎内デアルとか、前の人生、宇宙!
 コルクボードが貼ってある。何故?お洒落なのだろうか?理解しかねる。
 TVはリサイクル。いつもの事。
 吐き気がする。これもいつも。慣れたよ。簡単に云えば、諸々詰まらないのだ。
 カレーかポテチ

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名前と、それから

名前と、それから

 僕には名前がない。
 古い何処かの軍のコオトと、白いシャツ、目立たないやうに継ぎ当てしたズボンにこれも古いブーツ。伸びて目に掛かる髪。ノオトとペンと音の外れたギター。
 それが僕の外形を成す物だ。けれどそれは僕の総てでは無い。
 例えば、雨漏りの滴の音階を名前にしても良い。レシ、ド。
 例えば、君が眠る前の最後の言葉を名前にするのも素敵だ。アスハ。
 好きに呼んでくれて構わない。
 とにかく、僕

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僕と君

僕と君

 無音。
 僕。
 それ、若しくは君。
 此処は大きなおおきな湖の畔に立つ灯台の一等高い部屋で、僕は窓際にぼおと座っていた。
 見ていた。
 部屋は灯台の上部の空間を仕切って、リノリウムを敷いただけの円形で、外に開く窓が一つある。
 窓には時折、梟の爺さんがやって来る。
「やあ、なにか美しいことは?」
それが口癖だ。広げると壁を覆い尽くしそうな羽根を持っていて、とても歳を取っている。
 それ以外は

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