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短編小説

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【短編】みしんちゃん

【短編】みしんちゃん

お日様がてっぺんにあった時
河原の方からたくさんの子供の笑い声が聞こえてきて、とっても楽しそうで、わたしは水面から顔を出した。

また“水切り”してる。
平らな石を上手に川面に投げると、石が水面をピョンピョン跳ねながら進んでいく。何回跳ねてから沈んだのかをみんなで数えて、たくさん跳ねさせた子が勝ち。
みんなでよくやっている遊び。

いいな。いいな。わたしもやりたい。一緒にやりたい。

わたしは川か

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たりないひとり

たりないひとり

夕焼けの中
みんなおうちに帰ろう
今日もたくさん遊んだから
おなかペコペコだね
「夕御飯は何かな?」
たのしみで 小走りになる川沿いの道
ひとりひとりにひとつずつの
長く伸びた影
あたりまえのように 明日もあるからさ

 でもね
 でもね

 わたしだけ影がない
 わたしだけ影がない
 誰かに気付かれたら恥ずかしい

 わたしの御飯が待ってるおうち
 どこだっけ?
 忘

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【短編】僕達の巡りの旅

【短編】僕達の巡りの旅

「雪が…見たい…なぁ…」
じいちゃんは僕を見てそう言った。
それから
「あれに…」
ベッドの上で重そうに腕をあげて、震える指でなんとか、湯呑みを指差したんだ。
病院の10階にあるじいちゃんの病室の窓からは、雪で真っ白な山は見える。
でも窓越しじゃなくて、僕に持ってこさせて目の前で見たいらしい。
「お父さん、外は晴れているけど寒いのよ。この窓から見え…」
「わかった。行ってくる。」
お母さんに止めら

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キキ*アオイトリ

キキ*アオイトリ

ぼくは おなかが すいていたんだ

なにか たべるもの ないかなあって
まちの こうえんに きたよ
でも こうえんには ぼくみたいな鳥が
いっぱいいてね
のこってる たべものが みつからなかった

そうだ
にんげんが なにか くれないかな

なにか くれそうな にんげんは どこだ

あのひとたちは くれるかな

おおきいひと ふたり
ちいさいひと ふたり

ぼくは よにんで

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変わる  Ver.note

変わる  Ver.note

また今日を乗り越えて、この部屋に帰り着いた。

ドアを開けると薄明るい夕暮れが、少し荒れた部屋を静かな陰影で彩っていた。
私が居ない時間はこの部屋のすべてがスリープしていたのでしょう。

蛍光灯はまだつけなくてもいい。机に雑多に重ねた書類が起動してしまう。
鞄を下ろす。持ちなれた丈夫なグレーのビジネスバッグ。
見た目に惹かれて衝動買いしたけど、これは正しい買い物だったな。
品良く正しくフォ

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【短編】とある豊穣の庭に捧ぐ

【短編】とある豊穣の庭に捧ぐ

この石の階段を登ると、居心地の良い庭がある。
私への、私の命への、ただ一つのご褒美。
それは
世界
という言葉そのもの。

++

自然のままの深い緑と、太陽の陰をまとったせせらぎの上には
近代的で合理的なコンクリートの橋がかけられていた。
この無粋なコントラストは見慣れたら案外気にならないものだが、
見慣れてしまいたくないと思う。
透明なせせらぎの中の小さなカニが吐く泡や
雨の度に形を変える岸の

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