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ショートショート

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2020年5月の記事一覧

妖精は朝もやに佇む【ショートショート】

妖精は朝もやに佇む【ショートショート】

夜通し夢中になってゲームをやっていた。ふと時計を見ると、4:20を指していた。
まあいいや、今日は学校も休みだし。
もうすぐ夜が明ける。せっかくだから、朝の爽やかな空気でも吸おう。
窓を開けて深呼吸していたら、人影が見えた。
夜明け前の空気の中、それが幽霊に見えてビクッとした。が、よくよく見たら、隣のお姉さんだった。あ、気づいたみたいだ。
「一緒に来ない?」
お姉さんがこちらを見上げて言った。

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米の神様【ファンタジー ショートショート】

米の神様【ファンタジー ショートショート】

我が家の米は冷蔵保存だ。
ひとり暮らしなので大抵一合炊いて、朝と晩の分がある。昼は会社の近くで外食だ。
冷蔵保存であれば大丈夫かとは思うが、念の為、唐辛子成分の入った虫よけを入れている。そろそろ効果が薄れる頃なので、換えを買ってきた。
冷蔵庫を開け、米の入ったタッパーを開けたときだった。
「わしに何か用かの」
タッパーの縁に、白い着物を着た髭の長いおじいさんが立っていた。もちろんおじいさんと言って

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虹【ファンタジー ショートショート】

虹【ファンタジー ショートショート】

今日は変なお天気だった。
車を運転していたら、おひさまが出ているのに、土砂降りの雨が降っていたのだ。天気雨なんてかわいいもんじゃない。
角を東に向かって曲がった。
すると、目の前に大きな虹があった。歩いてでも着けそうだ。
幸いこの辺りは雨はやんでいる。
公園を見つけて、そこの駐車場に車を停めて、虹まで歩いて行くことにした。

子供の頃聞いた話だと、虹はラムネでできているらしい。ぽりぽり食べると色ご

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これは恋愛だったのか【恋愛 ショートショート】

これは恋愛だったのか【恋愛 ショートショート】

目が覚めると15時。そこから軽いものを食べ、またうとうとする。そして夕飯を食べ、お腹いっぱいになってまたうとうとする。そして眠りすぎたせいで眠れなくなり、眠剤を飲んでやっと眠りにつくのは、空が白んできて小鳥の鳴き声が聞こえてからだ。
こんな生活が、もう一生続くんじゃないかと思うような、暗いトンネルの中にいた。
そんなとき、ヤツとの出会いがあった。
友達の一人が、日本中を揺るがすような大きな地震があ

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ハムスター【ファンタジー ショートショート】

ハムスター【ファンタジー ショートショート】

不思議な夢を見た。
僕は夢の中で猫を3匹飼っていた。
それが気づくと3匹ともハムスターになっていたのだ。しかもそのうち1匹はシャム猫の柄に。夢の中の私は、シャム柄のハムスターに疑問を持たず、ハムスター3匹もいるなんて、世話が大変だ、とあたふたしていた。
目が覚めた僕は、そんな柄のハムスターなんているわけないと思いながら、念の為インターネットで調べてみた。
すると、いたのだ!
『ハムスター、シャム柄

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バターチキンカレー【ショートショート】

バターチキンカレー【ショートショート】

5月になると、夏日が続くようになった。
こう暑いと、スパイシーなものが食べたくなる。
ふと、若い頃旅行したタイのことを思い出した。
そうだ。タイ料理でも食べに行ってみるか。

「いらしゃませー」
店員の片言がいい。入り口には仏像が飾られ、書棚にはタイ語で書かれた本や、タイの観光地を紹介する写真集が立てられていた。
いいね、店内に入っただけで外国気分が手に入った。
平日のためか、昼時だというのに、ほ

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傘を買いに

傘を買いに

駅前のアーケード街に、古い傘屋があった。店の名がカタカナで、サカイダ傘店と書いてある。
デパートへ行った帰り、その店の前を通ると、可愛らしい緑のカエルの傘が開いて飾ってあった。
とても小さいので、多分幼稚園くらいの子が持つ傘だ。目の部分が上にピョコンと飛び出している。
傘は念の為二本持っているのだが、一本壊してしまったので、新しいのがほしかった。
新調していくことにした。

「ごめんください」

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カニ【ショートショート】

カニ【ショートショート】

「ママぁ、かにに刺された」
三歳の友樹は、蚊に刺されたと言えない。
「かににじゃなくて、蚊に刺されたでしょ」
洗い物をしながら声をかける。
「ちーがーうー、かにに刺されたー。かーにーにー」
笑っていたので放っておいた。蚊に刺されて何がおかしいんだろう。下の子が泣いている。オムツかな。忙しかったので、笑い声が癇に障った。
「友樹、勇樹みてやって」
「だめだよママ、カニさん喋ってるもん」
またカニ。か

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ロングヘアーストーリー②【恋愛 短編小説】

次の月曜日の朝、スクールバスを待ってたら、ぎょっとする顔が見えた。例の美容師だ。
近くに住んでるのかな。バスに乗るのかな(普通のバス停にスクールバスが停まるのだ)。私は顔を合わせないようにほかの乗降客に紛れようとした。しかし。
「おはよう」
わ、私に声…かけてるよね…。
「お、おはようございます」
「土曜日は…」
「わーっ、ちょっと待って、ちょっと、あっちいきましょう!」
近くのベーカリーカフェま

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