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カニ【ショートショート】

「ママぁ、かにに刺された」
三歳の友樹は、蚊に刺されたと言えない。
「かににじゃなくて、蚊に刺されたでしょ」
洗い物をしながら声をかける。
「ちーがーうー、かにに刺されたー。かーにーにー」
笑っていたので放っておいた。蚊に刺されて何がおかしいんだろう。下の子が泣いている。オムツかな。忙しかったので、笑い声が癇に障った。
「友樹、勇樹みてやって」
「だめだよママ、カニさん喋ってるもん」
またカニ。かにじゃなくて蚊なのに。この子やっぱり同い年の子と比べて言葉が遅い気がする。
「友樹、蚊でしょ!蚊はもういいから!」
苛々して声を荒げてしまった。
「ちーがーうー!ママみてー、カニさんいるのー」
怒りをぶつけられ、友樹は泣きそうになっている。
「何が違うの!カニなんかいるわけないでしょ!」
怒りながら友樹のそばへ行く。
居た。カニが。
「え?なんで?カニ?」
どこから入ったんだろう。ドアも窓も閉まってるはずなのに。
「あー、ご婦人、ちょっと聞いてくれないか」
「は?」
声がする。友樹のじゃない。おじさんのような声だ。
「宇宙船に帰りたいんだが、どこにあるかご存知ないかね?」
「は?」
何?どこから聞こえるの?
「ご婦人!」
カニがハサミを振り上げた。
そんな…。私、頭がおかしくなった?カニが喋っているように見える。
走って風呂場へ行き、洗面器を取ってきた。
そうだ、割り箸!キッチンで割り箸も持った。
割り箸でカニを掴み、洗面器にぽいっと入れた。
「おお、宇宙船まで連れて行ってくれるのかね」
また何かが喋っている。ますますカニが喋っているように思えたが、気にしないことにした。
「友樹、すぐ戻るから外に出ちゃだめよ」
サンダルをつっかけて外へ出た。
道路を渡って用水へカニを放った。
「うわあー、何をするー!」
叫び声が聞こえた。カニは流れていった。
ホッとしてうちへ戻る。
「ママー、カニさんは?」
「知らないわよ!」
いけない。ついカッとなってしまった。
最近疲れているのかもしれない。

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昔弟が、「かににさされた」と言っていたのを思い出して書きました☺

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