ロングヘアーストーリー②【恋愛 短編小説】

次の月曜日の朝、スクールバスを待ってたら、ぎょっとする顔が見えた。例の美容師だ。
近くに住んでるのかな。バスに乗るのかな(普通のバス停にスクールバスが停まるのだ)。私は顔を合わせないようにほかの乗降客に紛れようとした。しかし。
「おはよう」
わ、私に声…かけてるよね…。
「お、おはようございます」
「土曜日は…」
「わーっ、ちょっと待って、ちょっと、あっちいきましょう!」
近くのベーカリーカフェまで引きずっていった。
「はあはあ、すみません。うち男女交際禁止で、他の子に見られたらマズイんで…」
「だけど、それじゃあこんなとこ見られて大丈夫なの?」
「…兄!兄が急に用事できたことにします!」
「ほんとかなあ、そんなんでうまくいくもんかねえ…」
なんて言いながら、男はちょっと面白がっていた。
「で、何たのむ?」
「私ユズソーダ」
「じゃあ俺はアイスコーヒーにしようかな」
ちゅーっ。一息で半分ほど飲み干してしまった。
「ふうう……。で、なんでここにいたんですか?」
「いや、店長に聞いたら、朝は君の学校スクールバスで有名だから、バス停だろうって来たんだけど」
店長のおしゃべりめ。
「というか君だよ君。土曜日なんでこなかったの?待ってたんだよ」
やっぱり。待ってたんだ。
「……だって…恥ずかしかったから」
「は?」
男が聞き返す。そりゃそうだろう。高校生がデートの一つくらいで逃げ出すほど恥ずかしいなんて、思いもよらないだろう。
「私だって…気になってたけど、だってお母さんにもいってなかったし…」
「ぶっはははは」
「は?」
なんか今度は大笑いされた。
「そっかごめん。とんだお子ちゃま誘っちゃったわけだなー。ははは。そりゃあ困ったよな。うんうん、ごめんね」
「はあ」
「そういや名前言ってなかった。俺、安延慎吾。君は?」
「私は竹村みどり…て、私、ごめん、急がないと遅刻しちゃうの、多分スクールバス行っちゃったから、タクシーで行かないと…普通のバスあんまりなくて」
「俺、送ってやるよ、何時に付けばいい?よし、9時か。なら、クロワッサンでも食べていけば?」

カフェから美容院は目と鼻の先で、駐車場まで車を取りに行ってくれた。
車はちょっとカッコイイ変わった車だった。
「車?MR2っていうんだよ。まあ、珍しいって言えば珍しいかな」
「俺、この辺最近来たからあんまり知らなくて、学校、ナビ入れるね…へー、聖マリア女学院」
「なんか昔長ーいリボン腰に巻いてたんでしょ」
「ええ、自転車にリボン引っかかって危ないからってので、廃止になったみたいです」
「ふーん。スクールバスって言うから遠いのかと思ったけど20分もあれば着くねー」
「そうなんです。うちは近い方で。すごい子彦根からとか通ってますよ」
「へえー、そんな由緒正しい学校なんだね」
「いやあまあ、そんなんでもないんですけどねー…あ、この辺で大丈夫です!ありがとうございました!」
「あ、待った、ケータイ教えて」
「ああ、はい、これですー」
「じゃ、ありがとうございましたー」
ちょっとギリギリになったので、走って教室へ入った。なんとか間に合った。

先生が来るまでの少しの間に話しかけてくる、鬱陶しいやつがいた。女子校ならではのやつだ。
「ねーねー、さっきの人に送ってもらったのー?彼氏ー?結構年上じゃなかったー?」
同じバス停だから一部始終見てたらしい。
うざ。そう思って無視していたら、先生がきた。

授業が終わり、部活が終わっても、今朝のことは誰にも喋らなかった。喋らないというよりは、今までの自分の行動範囲には起こりようがなかったので、どう説明したらいいのか分からなかった。
帰りにもしかして迎えに来てるんじゃ…と少しドキドキしたが、彼と彼のMR2の姿はなかった。少し寂しくなったけど、ケータイ聞いてあるし大丈夫。
は?大丈夫って何?私、安延さんと連絡とりたいってこと?
わかんない、わかんない、わかんない…。帰りのスクールバスの中で、わかんないを繰り返して帰った。

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