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バターチキンカレー【ショートショート】

5月になると、夏日が続くようになった。
こう暑いと、スパイシーなものが食べたくなる。
ふと、若い頃旅行したタイのことを思い出した。
そうだ。タイ料理でも食べに行ってみるか。

「いらしゃませー」
店員の片言がいい。入り口には仏像が飾られ、書棚にはタイ語で書かれた本や、タイの観光地を紹介する写真集が立てられていた。
いいね、店内に入っただけで外国気分が手に入った。
平日のためか、昼時だというのに、ほかに一組しか客がいない。遠慮せずに窓際の四人がけテーブルに座った。
ランチメニューがあったので見た。
カオマンガイは知ってる。確か鶏肉の料理だ。カオマンガイとライスとサラダにテザートまでついて、1000円ちょっとか。ほかのメニューも大体そんな値段だ。
ガイヤーン?なんの食べ物だ。なんか強そうだな。戦艦ガイヤーン。はは。パッタイ。ははは。これは武術の師匠だな。老師パッタイ。
言葉遊びに満足し、改めてメニューを見渡すと、カレーがある。そうか、タイにもカレーがあるのか。
「すみません」
「はーい」
「この、バターチキンカレーください」
「はーい、待ってくだサイ」
待つ間、店の片隅にある、販売コーナーを見ることにした。
ココナッツミルクに各種スパイス、トムヤムスープの元、タイ語の書いてあるビスケット。販売コーナーは、ぐるっと奥まで回っていて、思ったより広かった。ここで買い揃えた材料で、立派なタイ料理のフルコースが作れそうだった。
「お待たせしまシター」
お、来たか。
カレーだ。日本のカレーとは違うが、インドカレーとどう違うんだろう。カレーは銀色の小さなボウルに、サフランライスは別の皿に盛り付けられていた。インド料理方式だ。
サラダから食べてみるか。うむ、おいしい。キャベツや人参の千切りに、アジアっぽい爽やかなドレッシングがかかっている。
どれ、カレーを一口。ぱくり。

その瞬間、私は喧騒の中にいた。右手には…どうやら果物屋が。マンゴー、パパイヤにジャックフルーツ、ドリアン。南国のフルーツが軒先に所狭しと並んでいる。
左手には、何か飲み物を売っているみたいだ。タピオカか?
そして私が立っているのは…なんと線路の上だった。と、思った瞬間、左右の店舗が、バタバタと店先のものをしまい始め、プォーンという警笛が聞こえた。
で、電車が来る!
驚いて私は口に残っていたカレーをごくりと飲み込んだ。

目を白黒させ、周りを見渡すと、そこは元の店なのだった。
私は、右手にスプーンを握りしめたまま、立ち上がっていた。
「お客サン、大丈夫?」
店員が怪訝そうな顔をしている。
「あ、ああ、大丈夫…大丈夫だ」
なんだったんだ、一体。ただカレーを食べただけだというのに。
そして私はあの場所へ行ったことがあった。あれはタイだった。

私は店を出るとき、店員に言った。
「ごちそうさま。タイの景色が目に浮かぶような料理だったよ」


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最近、孤独のグルメにハマっているので、それ風味の書き方になりました(;・∀・)


先日、ぶくおさんに教えてもらったレシピでカレーを作りました!


作ったカレーの写真をただアップするのでは面白くないな、と思い、小説を書いてみました☺


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