タイサル!第16話「タイ生活の必需品、プラクルアンとは?」
こんにちは、ひよっこ研究員の豊田です。今週末は霊長類学会があって更新タイミングが難しいので、フライング気味で金曜の夜に配信することにいたしました。イレギュラーですみません。
さて、前々回と前回は、2週に渡って仏教文化とサルたちの関係を書きました。
今週は、タイ仏教つながりで「プラクルアン」について書きます。
プラクルアンとは?
プラクルアンとは、一言で言ってしまえば日本で言うところのお守りです。タイの仏様や高僧、高僧を象徴する動物、縁起の良いものなど、様々なモチーフがあります。材質も、金属製や粘土製などさまざまです。小さな立体像であったり、プレート型だったり、コイン型だったり、形も多様です。有名な高僧が製作し祈祷したものは高価で、特に古い物や数量限定などになると、資産そのものというくらい高額な値が付きます。お金で売買されますが、正確に言うと、プラクルアンはお寺から「お借り」してくるものです。「買って」くるものではありません。
こちらはチャチュンサオ県の有名なお寺、Wat Sotorn Wararam Woramahaviharnからお借りしてきたプラクルアン。フレーム入り。
ちなみにこのプラクルアンはNHKロケの時にも身に着けていましたが、ネットで「陰キャがイキったペンダントつけてる」的なdisりを喰らいました。私が陰キャであることは認めますが、これはイキったペンダントではなく、厳かなるプラクルアンであります。書き込んだ人は無知を反省し全仏教徒に謝罪しなさい。
プラクルアンは粗末に扱うことはできません。日本のお守りのように、カバンにぶら下げるなどという人はいません。身につける際はネックレスに通して首から提げるか、クリップで胸ポケットあたりに付けます。地面においたり足を向ける方向においたりしてはいけません。頭より高い位置で保管するのが一般的です。持ち歩く際にカバンの中にしまっている人もいますが、そういう人はカバンを地面においたりすることはありません。
タイ人はほぼみんな、何らかの形でプラクルアンを持っているのではないでしょうか。おそらく、鼻に突っ込んでメンソールを吸うヤードムと呼ばれるものと並んで、タイ人の持ち物のトップ3に入ると思います。
こちらはチャチュンサオ県にあるピンクガネーシャで有名なWat Saman Rattanaramからお借りしてきたもの。グリンという、中に珠が入っていて振ると音がするタイプのプラクルアンです。身につけるには、この形に合うフレームを探さなければなりません。
タイ生活の必需品
私がこのプラクルアンに興味を持ったのは、タイ人がみんな身につけているのを見て真似したかったことがきっかけでした。バンコクから調査地までの道中にあるお寺や、広域調査などで訪れた先のお寺など、いろんなところに行ってはプラクルアンをお借りしています。正確な個数は把握していませんが、ちょっと前の記録だと仏像含めて150以上を所有しています。どのプラクルアンにも思い出があり、眺めているとお借りした時の情景が思い起こされ、タイに居るような気分になるので、たまに現実逃避のためひとりでプラクルアン鑑賞会をします。
私のタイ生活において、このプラクルアンは重要な役割を担ってくれていました。いろんな人との縁を結んでくれたり、危機から救ってくれたりしました。
私的ご利益①タイ人コミュニティに溶け込める
私の調査地はタイの田舎です。外人が観光に来るようなところではないため、私は明らかに異質な存在でした。街に出て買い物をしていると、色んな人からジロジロ見られることもしばしば。
しかし、私がプラクルアンを首から提げているのを見ると、みんな急に表情が変わり、「どこのプラ?」と聞いてきます。それが会話のきっかけになって屋台のおばちゃんと仲良くなり、唐揚げをおまけしてもらったり、果物をおまけしてもらったりしたことがあります。タイ人にとって大切なプラクルアンを外国人の私がつけていると、それだけで受け入れられる感があります。特に、その人が信仰している高僧のプラクルアンを身に着けていると、仲間意識が生まれます。
私が最近毎日身についけているプラクルアンはこちら。ナコンパトム県にあるWat Rai Tang Tongからお借りしてきたもの。タイでも縁起が良い動物とされる亀の型。このお寺には巨大な亀に乗った高僧の像があり、ご利益は「宝くじに当たる」とかなんとか...
私的ご利益②信頼関係構築の証になる
プラクルアンは値段の多寡・製作の年代を問わず、タイ人にとってとても重要なものです。大切な人にはプラクルアンを贈ることがありますが、よく知らない人や、丁寧に扱ってくれる保証のない人には絶対に贈りません。よって、タイ人からの贈り物でプラクルアンを贈られるようになると、その人とちゃんと信頼関係が構築できたんだなーという実感をもたらしてくれます。
私は2017年に博士研究を終えて帰国する際、調査地で私の身の回りの世話をしてくれていたおじさんとおばさん夫婦から、学位取得頑張って!とプラクルアンをいただきました。
頂いたものがこちら。調査地があるペッチャブリー県のお寺発行のもの。仏陀が2重になっています。
学位をとって戻ってきた2019年の調査の際には、新年の挨拶に訪問した保護区長さんからも、数量限定というプラクルアンをいただきました。
こちらはサルの神様、ハヌマーンを模した金属製のもの。ハヌマーン好きの区長さんらしいチョイス。
私的ご利益③空港での危機を救ってくれる
私は見た目が怪しいからか、パスポートコントロールや税関窓口で、高確率で止められます。日本で止められるとなすすべもなくキャリーケースを開けるしかないのですが、まぁ怪しいものは運んでいないので別に問題ないです。が、タイ入国の際にそれをやられると、ちょっと勘弁して欲しいと思うわけです。カバンを開けられ、チェックすると見せかけて高額な調査機材を盗まれる可能性がないわけでもないので、できれば何事もなく通して欲しいわけです。
ある時、私はバンコクの空港の税関で足止めを食らった事がありました。理由は、荷物の中に一眼レフ2機、望遠レンズその他5本以上、ビデオカメラ2台、PC2台などなどと調査機材をバッチリ詰め込んでいたため、ジャーナリストか報道関係者ではないか?と疑われたせいでした。私は研究者ビザを発給されていましたし、タイ当局からの調査許可状もIDカードも持っていたため、それを提示して調査道具だと主張しても、「なんでこんなにカメラがいるんだ?」と許してもらえず、目的外入国で連行されるか?と思ったくらいでした。
その時、職員のひとりが私のプラクルアンに気が付きました。「仏教徒なのか?」と聞かれたので、「タイで言うところの仏教徒ではないけれど、日本人だし仏教は馴染みが深いし、タイのプラクルアンは好きだ」と答えました。取り外して見せると、その職員も同じ高僧のプラクルアンを持っており、お互い見せ合いっこが始まりました。私がとっさにタイ語で「スワイカップ(きれいですね)」と相手のプラクルアンを褒めたら、そのままプラクルアン談議に。気づいたらカメラの件は無罪放免になっていて、無事に税関を出ることができました。
私の最初のプラクルアンにして、空港事件から救ってくれたプラクルアンがこちら、タイ南部の有名な高僧ルアン・プー・トゥアッドをかたどったもの。人気の高僧で、信者も多いです。プラフレームに亀裂が入ってしまったため今は身につけることなく保管しています。タイに戻れたらフレームを交換したいと思っています。
入管で呼び止められて尋問を食らうような経験は(今のところ、タイでは)この一回限りですが、パスポートコントロールで足止めを食らうことは毎回のごとくです。入国審査官の中には「研究者ビザ」というものを見たことがない人が結構いて、入国審査でちょっとした質問攻めを喰らいます。その時にプラクルアンに気づいてもらえると、場の雰囲気が和みます。
他にもご利益はたくさんありますが、全部紹介していると長くなってしまうので、この辺で。
ちなみに、実際にタイ人が主張するご利益とは、
・乗っていたヘリコプターが墜落したが自分だけお守りのおかげで死ななかった
・交通事故にあったがお守りを車に乗せていたので無傷で済んだ
・お守りを借りた直後に買った宝くじが当たった
などです。ローカルニュースになったり、お寺がこうしたエピソードを看板や横断幕にして宣伝していたりします。
プラクルアンは奥が深い
タイではプラクルアンの真贋を精査する人がいますし、希少なものや数量限定版プラクルアンのカタログ・情報誌も売っています。私も興味を持って立ち読みしたことがありますが、タイ語が読めない上に、チェックポイントも何も、そもそも知識がないため、何がなんだかさっぱりでした。
日本でもプラクルアンを通販で買うことができますが、本物なのか偽物なのか不明ですし、ついている値段もそれ相応なのかどうか怪しいので、本当に興味のある方はご自身でタイに行ってお寺から直接お借りしてくるか、確かな人から情報を得て勉強することをおすすめします。
私はいつも以下のサイトを読んで、プラクルアンの勉強をしています。
この方のブログは日本語でプラクルアンについての情報が書かれているので、少しでも興味のある人はブックマーク推奨です。この世界の奥深さを垣間見ることができます。
ここで販売されているプラクルアンはみな本物ですので、「これは!!」と思うプラクルアンに出会われた方はお迎えするのもいいかもしれません。フライターグのバッグのように、プラクルアンもどれも一点物です。出会えるかどうかは運とご縁次第です。
いまだ日本でプラクルアンを首から提げたお方に出会ったことはありませんが、愛知・岐阜近辺でプラクルアンをつけたヒゲ男は高確率で私ですので、そっと見守ってください。
さて、次週からは夏休み企画を始めようと思います。
告知をお楽しみに!
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タイサル!シリーズ過去の配信アーカイブはこちらから↓
連載コラム「タイでサル調査!研究奮闘記」配信開始のお知らせ
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n28a1dc0c9402
第1話「海外調査の生活拠点」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n985accf6fef3
第2話「調査地で楽しむタイ料理!食事編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n5444528ab0bb
第3話「シャワーも命がけ!?お水事情その①」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nf5bcd9a17bc1
第4話「シャワーも命がけ!?お水事情その②」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n7c4f68bf12d1
第5話「シャワーも命がけ!?お水事情その③」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n56d26d529251
第6話「泥水との激戦を終えて」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n375ca4ab7be2
第7話「調査生活のオトモ!タイの犬たち」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n7968f75aea75
第8話「その日のことはその日のうちに!調査の1日のルーティンワーク」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nfdac8fac1ec6
第9話「忘れ物確認ヨシ!調査時の装備について」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n4fef7eb2e320
第10話「写真へのこだわり」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/na4da37e13e8d
第11話「誰だ誰だかわからない!個体識別の話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n1648bde20bab
第12話「ゲシュタルト崩壊!全頭識別への道」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n24c3478ea661
第13話「サルたちの名前の付け方の話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nb6a8e6119ced
第14話「タイの仏教文化とサルたちの関係について」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n9a7a6814730d
第15話「タンブン行為で私が心配していること」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nd1360f5568af
番外編の過去の配信アーカイブはこちらから↓
私論:「ココナッツモンキー」は動物虐待なのか?
https://note.com/arctoidestoyoda/n/ne6add28fc064
遺跡の街ロッブリーに住むカニクイザルの歴史
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n1679cb4029b2
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