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Alaska Quest

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アラスカ無人地帯での1ヶ月キャンプ
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帰るんだ

 北極圏を出る。1ヶ月前に来た道を、今度は出発した街までまた自転車で引き返す。1日分の食糧を残して目指すのは400km先。途中で食糧を補給できる場所はない。小川が何ヶ所かあったので、水は確保できる。

 これは、おれが当時、若さゆえにどんなに愚かであったのかを綴ることで、同じ思いをしないよう今後の教訓として記すもの、自分への戒め、つまり反省文である。

 それにしても来た道を帰るのは楽しくない。も

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食い物は400km先

食い物は400km先

 人間は何も食べずとも、水だけで1ヶ月前後は生きられるらしい。断食のギネス記録は、382日間だそうで、記録保持者の英国人男性は、その間で125kgの減量に成功したらしい。普通の人だったら跡形もなくなってしまうくらいのダイエットである。インドにはそれを遥かに凌ぐ、80年間飲まず食わずだと主張する強者のおじいさんがいると、まことしやかに囁かれている。皆が寝静まった後で、こっそりカレーを食べるおじいさん

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火を焚き、水が沸く

火を焚き、水が沸く

 無人地帯に入ってからもう2週間、人と喋っていない。人の声を聞いていない。車や電車の走る音も、TVやラジオから流れる音声も、部屋の壁に掛けてある時計が刻むチクタクも。日本での生活から考えると、なかなかの異常事態である。

 うるさいと思っていたあの雑音たちは、日常を日常らしく脚色するためには、意外と必要だったのかもしれない。綺麗な音だけが聞こえる世界では、もはや綺麗な音はただの音で、雑音がなければ

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北極圏で森を彷徨う。

北極圏で森を彷徨う。

 野生の動物と対峙したことがあるだろうか。おれは何度かある。北海道で、アフリカのサバンナで、そしてアラスカの森で。不意に動物に出くわすと、一気に心拍数があがる。狩りをしていた時代の本能というか、DNAが反応するのであろうか。相手がムースのような自分の数倍でかい生き物だと尚更そうだ。たぶん恐いのだ。自然への畏怖に似た感情が湧き上がる。

 太陽に安堵してから数日後、筋肉痛も解消され始め、この生活に早

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世界にもし屋根が無かったら

食糧が尽きた。人間が住む町まであと約200kmか。このボロい自転車で最低2日はかかるな。2日か...2日くらい飯無しで行けるか。なんか70年断食しているインド人がいるとか聞いたことあるし。水は川の水を飲めばいい。
 意外とおれの脳は、こういう命に関わるようなピンチの時は冷静でいてくれるらしい。
 いや待て、それよりどうしてこうなった。

 アラスカの大地に足をつけたのは約1ヶ月前の9月初旬。夏の終

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アラスカ、アラスカ

アラスカ、アラスカ

 21歳の夏、おれはアラスカの北極圏まで自転車をこぎ、無人地帯で1ヶ月ほど1人でキャンプをしていたことがある。

 
19歳から20歳にかけて世界を放浪し、2012年に無事帰国。本当にイベントフルな一年であった。一泊数百円の宿で寝、一食数十円の飯を食らい、時に様々な不条理に、また時には様々な誘惑に耐えながら、自分で考えて生活し、計画し、移動し、地球を一周して帰ってきた。

 毎日が非日常であった。

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