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アラスカ、アラスカ

 21歳の夏、おれはアラスカの北極圏まで自転車をこぎ、無人地帯で1ヶ月ほど1人でキャンプをしていたことがある。

 
19歳から20歳にかけて世界を放浪し、2012年に無事帰国。本当にイベントフルな一年であった。一泊数百円の宿で寝、一食数十円の飯を食らい、時に様々な不条理に、また時には様々な誘惑に耐えながら、自分で考えて生活し、計画し、移動し、地球を一周して帰ってきた。

 毎日が非日常であった。もはやこれが日常なのか?非日常が日常?なんやこれ、と小さな脳が慌てだしたので、即座にすべてを頭の片隅にある"楽しい思い出フォルダ"に入れておいた。

 決まりきった道を進む人生にするのはやめようと、無理矢理そのレールから外れるために、大学を休学してまで行った海外であったが、そこから何かを得たのかと言われれば、閉口せざるを得ない。当時は友達にそう聞かれたら、「ん、あぁ、世界は広くて狭いぜ?」と、よくわからない回答をしていた気がする。


 当方、それまで海外経験のない19歳。道中危険なことが尽きず、往々にして悪人たちから逃れ、村人に助けられたりなんかしながら、命からがら歩みを進めるという冒険チックなイメージが少なからずあったために、実際の海外生活とのギャップに少し拍子抜けしたのかもしれない。



 今考えてみれば当たり前なのだが、外国で生活する日本人はたくさんいるし、もとよりバックパッカーなんて、何十年も前から好奇心にまかせて旅の情報を積み重ねてきているのだ。話す言葉が変わるくらいで、国内旅行をしているのと大して生活スタイルは変わらない。せいぜいたまにするヒッチハイクがちょっと旅感を演出していたのだが、たいていは他の旅行者と同じくバスや鉄道で移動し、宿のある町で滞在していた。

むむむ

そう思い返していたら、小さな脳が再び焦りだした。

結局これもバックパッカーというレール上を走っているだけなのか?世界一周旅行など、何百、何千人もの人が経験している。人とは違う道を、と言いながら結局また同じような道を...

クゥー。

なんなんだこのどこにでも現れるレール。そもそもレールってなんだ?人生なんて一方向にのみ進む時間軸の中での出来事。全部が同じレールの上を進むのは必然?外れることなんてできないのか?いや待てよ、軸が一つとは限らない、これはおれの脳が作り出す単なるパラドックス?あ、あれ?いやパラドックスてなに?

 人生とは何か、生きる意義とは...なんていう哲学的なことを考え始めると、おれの脳は軽いバグを起こし、いつもは考えることをやめざるを得ないのだが、この時は半分白目になりながらも、さらに一歩踏み込んで考えた。よし、レールのない場所だ。誰もいない場所、そして誰も行ったことのない場所に行ってみよう。


 無限に大自然の広がる荒野が頭をよぎった。どこやこれ?ぼんやりと浮かぶその情景を頭に留めながら必死に思い出す。でかいシカ、映画で見たな。Into the wildだ。でかいクマ、本でも読んだ。星野道夫だ。あ。アラスカか。
ボーッと考えていたせいで、開けっぱなしになった口が乾いていた。

次の日、アルバイトで貯めていた10万円で航空券を買い、アラスカへ飛び、北極圏の無人地帯で1ヶ月キャンプ生活をすることにした。

続く。

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