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「もも」と呼ぶ君を想う

TikTokに前にあげたリールをアップしていたら、桃の花を描いた動画が出てきたので、それも投稿した。

桃の節句の日に描いた桃の花は、会えないあの人へのバースデーメッセージだ。「もも」は私たち二人を繋ぐ、不思議なキーワードでもある。

彼の誕生日は桃の節句。
私は彼から、「もも」って呼ばれていた。

私が今の名前じゃなかったらつくはずだった名前であり、はじめて夜の世界に入ったときの源氏名でもある「もも」は、彼と出会った時にアプリで使っていた名前だ。

彼は私の本名を知っているが、それでもずっと「もも」と呼び続けた。

「もも」

私はあの二人の部屋で、「もも」を長いこと演じていた。

いつも余裕があって、お金もあって、料理も掃除も前から好きで
優しくて彼よりずっと大人で
完璧な女の「もも」を。

もちろん、全てうそではなかった。

料理も掃除も好きだし、でも昔から好きだったわけじゃなく元夫にモラハラを受けていてやらなければいけなくて身についたものだった。

お金があったのは夜の仕事もしていたからで、彼はそれを随分長い間知らなかった。実際は、自分の事業もうまくいってなくて。

この部屋に彼といれば、
私は完璧な大人の女の「もも」でいられる。

そうありたいと願っていた。

でも、
彼と過ごすうちに偽りの部分がほんものになった部分もある。

料理は一緒につくって、美味しいって笑って本当に大好きになった。

掃除も、彼がすぐ散らかすからこうやったら綺麗になるかなって考えながらしていたら、毎日ぴかぴかになることが嬉しくなって、それは今でも継続していて今の自分の家もとても片付いていて心地いい。

同棲をやめたあと、
自分の隠していたこと、知ってほしくないことを全部伝えた。

一人の時間が増えたときに、自分を愛すように意識するようになり
偽りだった「もも」を少しずつはがしながら
私自身とももの切り離してた部分をくっつけるように
自分らしさを取り戻してきたように思う。

「もも」は作り上げたものなんかじゃなくて、
自分の中で存在していた人格なんだと思えるように
肯定できるようになっていった。

あの人が愛してくれていたのは「もも」で
本当の私じゃない、、、と思っていた。

でも、そうじゃなく
ちゃんと私だったんだと思えるようになった。

離れてから、自分の色々なことを伝えてからも、彼は暫く関係を切らずにいた。ちゃんとありのままの私を愛してくれていたと、実感できる時があった。


桃の花を描く動画には大塚愛の「桃ノ花ビラ」をBGMにしていた。大塚愛は昔からとても好きだったが、この曲だけはなぜか聴いたことがあまりなかったから、なんとなく、TikTokをあげた時にきちんと聴いてみた。

ゆらゆら舞うこのあたたかい日は
あなたと出会った日のように
ゆらゆらゆらゆらゆらゆら
思い出を届ける
きっときっと 来年もその先も
ここで待ち合わせして
きっときっと…わたしを届ける
小さな体で ギリギリまで背伸びして
貴方の頬にやさしくキスをする
どれほど愛しいと思ったんだろう?
涙が出るくらい
大切に思い続けてる
どれほどまた会えると思ったんだろう?
ももの花びら 手のひらからこぼれるたび
あなたを感じるの
桃ノ花ビラ/大塚愛

ぞわっと背筋が凍るくらい、私の心情のようだった。
私はこの間クリスマスツリーをひとり眺めながら、ツリーにまざりあう白い息を見つめながら、彼が呼ぶ「もも」の声を、探していた。

いつもなにかあるとすぐ「もも、もも」って。
私を呼ぶあの人が、本当にいとおしくて
本当に恋しくて、

甘えたい時には「ももちゃん」って言って、なにかをおねだりしてくるの。

眠っている時にこっそりスーパーにでかけたら、起きて私が居なくて
びっくりしたのか、帰ったら「もも、どこにいたの」って探してた。

「もも」だったあの頃の私には戻りたくはない。
自暴自棄で、自分を愛さずに、なんの夢も持っていなくて、彼に依存ばかりして泣いていた、あんな私にはなりたくはない。

でも私、あなたが呼ぶ「もも」をまた聴きたいよ。

低くて、でも優しい声でいつも私を呼ぶ「もも」って声を、
あの頃の私をさがす彼みたいに私は、ずっと探してる。

キラキラ光るツリーに、流れる「諸人こぞりて」を聴きながら
私はひとり、この世界に取り残されたような感覚になって
きっとあの時あの場にいた人達とはぜんぜんちがう世界にいて
そこからぼうっと、傍観していた。

優しいあの声が、聴きたい。
あの人に、会いたい。

そんなことを思いながら、こころを昇華しようと絵を描いた

ゆらゆらと舞うももの花びらは
随分と前に散ってしまっているのに、
私の心にはまだ傷跡を残しながらも、煌めいたままでいる。


山口葵

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