げんき200倍
私には、息子、娘、二人の子どもがいます。
二十二歳と二十一歳で、それぞれ大学と専門学校をなんとか卒業し、社会人としてバタバタ頑張っているようです。
二人がまだミルクとおむつが手放せない頃、ママが亡くなり、二人は写真でしかママの顔を知りません。
二人とも明るくてよく笑うので、いいところは全部ママに似ています。
息子は私と同じO型、娘はママと同じA型です。
血液型や星座を気にするのは、世界中でも特に日本人に多いという記事を以前読んだ記憶があり、なるほどそうかもなぁと思いました。
二人ともかなり大雑把なところがあり、少しくせっ毛なのは私に似ていて、心優しい性格はママそっくりです。
私の母がいつも、
「いたずらとか宿題をせんとか、そんなんは全部パパに似てるんやから、ばぁばに怒られたらパパに文句言いなさい!」
と言うので、私はぐうの音も出ません。
子どもが小学生の頃、担任の先生と毎日連絡ノートを交換していました。
学校での出来事や家庭での様子などを報告しあうことで、先生と信頼関係が築けたなぁと思っています。
特に息子の担任のK先生は、六年間のうちなんと四年間もお世話になり、連絡帳もかなりの量になりました。
子どもの行動や言葉、子育てに対しての考え方、家族の在り方、自分の性格や趣味の話など、内容は多岐に渡り、日によっては数ページになる時もあって、私も仕事から帰るとまずもの連絡ノートを開くのが日課でした。
ある日、子どもの性格の話題になった時、こんなやりとりがありました。
『先生、今日も一日お世話になりました。
確かにいろんな性格の子がいますよね。
うちもしゅんとわかなで大きく違っています。
しゅんはどちらかと言えばおっとりしていて、わかなはあれこれ考えるタイプです。この前、晩ごはんのあと海岸に散歩に行ったんですが、私はお酒を飲んでいたのもあって岩場でつい転んでしまい、あごをパックリ割る怪我をしてしまいました。
しびれていてその時は痛みはなかったんですが、服は血で真っ赤に染まり、それを見て初めて深い傷だと自覚しました。
わかなが、
「パパ、血がいっぱい出とる!じぃじとばぁばに知らせて来る!待っとって!」
そう言い残して走って行き、助けを呼んでくれました。
私は母の運転する車で病院へ行き、縫合してもらいました。
しゅんはと言うと、
「パパ、なんか血が出てるよ!」
くらいのテンションで、私が病院から戻っても、
「パパ大丈夫?痛くない?」
と顔をちょっと覗いて、アンパンマンを観ていました。
マイペースやなぁと、私は思わず笑いました。
考えてみると、わかなは普段から私が咳をしたり、薬を飲んだりすると、「パパ、大丈夫なん?」と心配してくれて頼りになります。
しゅんはいつもと同じのんびり屋で、あまり動じません。
私が仕事の疲労が重なり、この先どうしたものかと悩んでいる時期がありました。睡眠薬でも寝付けず、気持ちが塞いだりして吐き気に悩まされた時もありました。
子どもの前では元気でいたいのですが、ついついため息を漏らしていたり愛想笑いになっていたり、これじゃダメや!と、自己嫌悪に陥ったりもしていました。
機関車トーマスのおもちゃで遊んでいたしゅんが、
「パパ、どうしたの?なんかきつそうだよ?」
と聞くので、
「パパさ、お仕事で帰りが遅かったり朝早かったりとかで、いろんなことでちょっと悩んでるとたいね。」
と答えました。
「おやすみしたら?」
「そうやねぇ、でもあんまり休んだりしたらお仕事無くなってしまうし、しゅんとわかなにおもちゃとか買ってあげれんくなるよ。」
「おれ、なんもいらんばい!パパが家にいてくれる方がおれはよかもん!わかな!ちょっと来て!パパがきつい仕事行くのと、元気で家におるのはどっちがいい?おれはパパと散歩に行きたいしクワガタ採りにも行きたいけん、パパが家のおる方がいい!」
「あたしも!パパがおる方がいい。基地作ったり探検に行きたい!」
しゅんはいつもはぼーっとしているのですが、この日はわかなを呼んで来て小さな家族会議の議長になってくれました。
それをきっかけに私は現在の仕事に思い切って転職をし、今はとても元気で幸せです。
誰に似て頼りないのか頼もしいのか、同じ兄妹でもいろいろと面白いですよね。今日も長くなってしまい申し訳ありません。』
『連絡帳、いつもありがとうございます。
わたしもしゅんちゃん、わかちゃんのご家庭での様子が分かり、いつも助かっています。ご家族でのやりとりがとても面白く、時にホロリとさせられて、とても勉強になっています。
わたしも中学生の時に母を病気で亡くしました。
それからは父と祖父母に育てられました。
その後すぐに祖母が他界し、男手の環境で育ちました。子どもながらに父親の姿を見て、大変だろうなぁ、と思いました。
松本さんの毎日の連絡ノートを拝見していると、私の父も同じような気持ちで子育てをしていたんだろうなぁと、ふと考え、こんなんじゃ足りないとはわかっていたんですがいも焼酎をプレゼントしたところ、
「たまには麦焼酎ば持って来てくれ!」
と言われました・・
しゅんちゃん、クラスでは普段はおとなしく、おっしゃる通りかなりマイペースな性格だと思います(褒め言葉です)。
ですが音読や詩の朗読、劇の役などではとんでもない力を発揮してくれます。先日の童話発表会のクラス代表、学校代表の選考会の際、低学年代表は先生方審査員の中で満場一致でしゅんちゃんが選ばれたことは学級通信でお伝えした通りです。
ここ一番、自分の得意分野で本領が発揮出来るって、わたしはすごいことだと思って感心しています。
わかちゃん、いつもニコニコしていて本当に可愛らしいですね。
ろうかをすれ違う時、
「先生、今日の服似合ってて可愛い!」
と、声をかけてくれるんです。
その言葉が嬉しくて、一日笑顔で過ごせるんです。
しっかり者でおませさんで、ご家庭でも松本さんの支えになっているのではないですか?
わたしにも息子、娘がおりまして、同じような経験があり、つい笑ってしまいました。
息子は中学校でバスケをしているのですが、靴下もタオルもカバンに入れっぱなし、失くしたと思って買っては放置、買っては部室へと、いつかの掃除の時に二十足くらい持って帰った日には開いた口が数分間閉まりませんでした。準備も自分ではしません。
逆に娘は、わたしに似ずしっかり者で、まるで正反対です。
「ママ、教師ってまずは子どもの気持ちを考えないとダメだよ。お金もらうってそう言うことだからね!」
と言われた時は何も言えませんでした。
こんな呑気な息子ですが、たまに的確なアドバイスで精神的な介抱をしてくれます。
大きな決断に迫られるような場面で、ハッとする意見と解釈を言ってくれるので、助けられています。
わたしは、女の子は「常備薬」、男の子は「特効薬」だと思っています。
いつもそばで助けてくれる女の子、ピンチの時にこそ効果の現れる男の子。
うまくバランスが保たれているからこそ、お父さんも笑顔になれるんじゃないでしょうか?
わたしの方こそ、いつも長文になってしまい申し訳ありません。』
子ども達が大きくなった今でも、思い出のたくさん詰まった先生との連絡ノートは私の大切な大切な宝物です。
熊本地震の時も、段ボールの中で泥だらけになって光っていました。
そして決してお店では買えない常備薬と特効薬のおかげで、私は今日も明日もあさっても、元気いっぱい、200倍です。