ありさ

海外のとある国に住んでいます。ブログは実話もフィクションも含めた小説です。どの記事を読…

ありさ

海外のとある国に住んでいます。ブログは実話もフィクションも含めた小説です。どの記事を読んでいただいても完結するようになっています。どうぞお楽しみください。

記事一覧

母の指輪

今年の一時帰国では、私は母の宝石と着物をもらって帰ろうと決めていた。いつも身軽に旅行するのが身上の私としては珍しく、大ぶりのスーツケースで日本に帰ってきた。中身…

ありさ
4年前
17

恋愛体質

アリサって恋愛体質だよね、とディアナが言う。 それは違う。私だってディアナたちのように、長続きするリレーションシップが築きたいのだけど、それがうまくいかないから…

ありさ
4年前
3

目ん玉

我ながら、私は人を信じやすい。っていうか、イマイチ鈍いんじゃないだろうかと自分が心配になる時がある。この国にいると、言葉の壁も手伝って、しょっちゅうからかわれた…

ありさ
4年前
6

懺悔、懺悔。

人に言えずにいたこと。 それは、夫とインターネットで出会ったということだ。 正確には某SNSで声をかけられた。そんな出会い方だとバレたら、みんなに、そりゃビザ狙い…

ありさ
4年前
5

離婚と遺言

私は夫とはまだ離婚が成立していない。 日本と違ってこの国では、離婚するためには裁判所を通さなくてはいけない。キリスト教徒にとって、婚姻というのは、日本人以上に神…

ありさ
4年前
9

愛されたいだけなのだ。

私は震える手で電話を取った。Cの番号を鳴らす。出ない。 彼がすぐに電話になんて出ない奴だってのはよくわかっている。メッセージ送ったって、返事が返ってこないどころ…

ありさ
4年前
5

それは突然の。

ドアを開けたその向こうには、夫が立っていた。 午後5時。人通りも車通りも多かったが、あたりは薄暗くて、その小柄な男が夫だと気づくまでに数秒かかった。 彼だと気が…

ありさ
4年前
5

母の指輪

今年の一時帰国では、私は母の宝石と着物をもらって帰ろうと決めていた。いつも身軽に旅行するのが身上の私としては珍しく、大ぶりのスーツケースで日本に帰ってきた。中身はスカスカ。帰りに着物を入れて帰るつもりだったから。

母は去年の秋から介護付き老人ホームに入っている。60代半ばで病気をしてから、母はずっとどこかが痛いと言っていたが、どこも悪いところは見つからず、様々な病名がついた。自律神経失調症、とい

もっとみる

恋愛体質

アリサって恋愛体質だよね、とディアナが言う。

それは違う。私だってディアナたちのように、長続きするリレーションシップが築きたいのだけど、それがうまくいかないから、男を取っ替え引っ替えしているように見られるだけ。でも私はそんなにもてないし、シングルの期間だって長い。なんだったら、ディアナの友達の素敵なスペイン人の男性を紹介してもらいたいくらいなのに。

「だけど私はマイケルと出会ってなかったら、ず

もっとみる

目ん玉

我ながら、私は人を信じやすい。っていうか、イマイチ鈍いんじゃないだろうかと自分が心配になる時がある。この国にいると、言葉の壁も手伝って、しょっちゅうからかわれたり、かつがれたりする。日本にいた時もこういうキャラだったっけ。もう思い出せないけれど、かつがれるのは日常茶飯事だから、もう気にしない。っていうより、親しい友人たちが目をキラキラさせて食い入るように話してくるときは、だいたいからかわれてるんだ

もっとみる

懺悔、懺悔。

人に言えずにいたこと。

それは、夫とインターネットで出会ったということだ。

正確には某SNSで声をかけられた。そんな出会い方だとバレたら、みんなに、そりゃビザ狙いで近づいてきたんだと後ろ指を指されても仕方ないだろう。

だから、言えなかった。

私も心のどこかでは、ビザ狙いかもしれないと薄々気づいていたのかもしれない。でも、信じたかった。いや違う。信じられなくても、君と結婚したいという彼の言葉

もっとみる

離婚と遺言

私は夫とはまだ離婚が成立していない。

日本と違ってこの国では、離婚するためには裁判所を通さなくてはいけない。キリスト教徒にとって、婚姻というのは、日本人以上に神聖な結びつきだと取られているんだろうと思うことがある。何と言っても、離婚には理由が必要なのだ。

理由を作るために、この国ではほとんどのカップルが2年別居する。2年間の別居は離婚の理由にはなるけれど、実際には別居しなくても、理由さえ作り上

もっとみる

愛されたいだけなのだ。

私は震える手で電話を取った。Cの番号を鳴らす。出ない。

彼がすぐに電話になんて出ない奴だってのはよくわかっている。メッセージ送ったって、返事が返ってこないどころか、何日も読んでさえくれないことだってある。

でも。さすがに今日は出て欲しかった。電話の向こうで大丈夫だよって言う彼の声を聞きたかった。しつこく鳴らすが、やっぱり出る気配がなく、諦める。

心臓のばくばくはまだ止まらない。誰かの声が聞き

もっとみる

それは突然の。

ドアを開けたその向こうには、夫が立っていた。

午後5時。人通りも車通りも多かったが、あたりは薄暗くて、その小柄な男が夫だと気づくまでに数秒かかった。

彼だと気がついて、何かの反射のようにドアを閉めたが、思い直した。

せめて半年ぶりにぬけぬけとやってくる、その理由くらい聞いてもいいかもしれない。口のうまい彼に丸め込まれるのではないか、とか、ひょっとしたら刺されるのではないか、とか、いろんな考え

もっとみる