恋愛体質

アリサって恋愛体質だよね、とディアナが言う。

それは違う。私だってディアナたちのように、長続きするリレーションシップが築きたいのだけど、それがうまくいかないから、男を取っ替え引っ替えしているように見られるだけ。でも私はそんなにもてないし、シングルの期間だって長い。なんだったら、ディアナの友達の素敵なスペイン人の男性を紹介してもらいたいくらいなのに。

「だけど私はマイケルと出会ってなかったら、ずっと一人だったと思うよ。あんたはもてないって言う割には、次から次へと彼氏ができるじゃん。やっぱり恋愛体質だよ」

次から次へと、と言うわけでもないのだが、そう、私にも一応彼氏ができる。でも、できてもちっとも嬉しくないのは、私が妥協で選んでいるからだろう。

自分でもわかっている。どこかで何かをすごく恐れているということを。好きな人を深く好きになって傷つきたくないのだろう。嫌になった時にいつでも別れられるように、こちらがのめり込まなくてもすむような人ばかりを選んでいる。すごく好きな人には言いたいことが言えなくて、いい関係が築けない。そんなことを思って、自分が言いたいことを言えるような人ばかりを選んでいる。結局は、自分の言いなりになる彼が情けなく思えて、別れてしまうのだけど。

どうしてそこまでして彼が欲しいのか。それは、恥ずかしいからに違いない。いい年をしてまだ独身でいる自分のことを、多分、周りの人が想像もつかないくらい私は恥じていた。6年前の婚約破棄はこたえた。親にも会わせ、日本の友達にも会わせ、イケメンだと話題になった彼をすごく誇りに思っていた。だけど、本当の私たちの毎日は、決して楽しいものではなかった。私はもっと楽しいことを一緒にしてくれるパートナーが欲しかったのに、彼は仕事と家の往復の毎日。美味しいものを美味しいって一緒に食べられる人がいいと思ってたのに、食品アレルギーが多く、普通のものはほとんど食べられない彼。食べるものに困るからと一緒に旅行にも行けない。今思うと、彼に対する思いやりが足りなかったとも思うが、パートナーと一緒にやりたいと思っていたことは、彼とは一緒にできなかった。それでもいい、彼と2人で人生を生きていこうと心を決めたのに、彼は家を出て行った。

私は愛というものをわかっていないのかもしれない。でも誰が何をわかっているのだろう。最近離婚したサマンサは、オンラインデーティングを始めた。美人で親しみやすくて話好きの彼女は、とにかくモテる。彼女の基準はシンプルだ。連絡をちゃんとくれる?趣味が同じ?会いたいタイミングが同じ?そして何より顔と体が好みかどうか。彼女にとって恋愛って、生活に潤いをもたらす、余剰の時間だっていう位置付け。楽しい時間が一緒に過ごせるかどうかが彼女の基準で、そこは譲れないのだという。逆にいうと、楽しい時間が一緒に過ごせさえすれば愛が芽生えるのだろうか。婚約者との日々を振り返る。私たち、楽しい時間を過ごせていただろうか、それとも喧嘩して拗ねている時間の方が長かっただろうか。一緒にできること、一緒に見る景色、一緒に食べるもの、そういう「共有できるもの」があまりにも少なかったから、私たちの心は離れてしまったんだろうか。

誰とでも気兼ねなく話ができて、楽しい時間を過ごせるサマンサに比べると、私はどこまでも不器用な気がする。好きでもない人と一緒に時間を過ごすのは苦痛だけど、一緒に時間を過ごさないから、その人が好きかどうかもわからないのだ。オンラインデーティングって矛盾している。というより、私には向いていない。ディアナに向かって私は呟いた。私、恋愛したいけど、全然相手がいないのよ。どこに行ったらあんたのマイケルみたいに、誠実な人に出会えるの?ディアナは全く心配していない様子だった。「去年だって相手がいないって言ってたのに、いつの間にかBと付き合ってたじゃん。今度だってちゃんと誰かと出会うよ」

そうなんだろうか。Bは、10年来の友人だった。昔、Bは恋愛対象外と決めたのに、何を血迷ったか、考え直してしまったのだ。有頂天だったB、それと対照的にどんどん元気が無くなって行った私。対象外と決めるにはそれなりの理由があったのに、それを都合よく忘れてみたりしたのだけど、やっぱり見過ごすことはできなかった。私は強い男が欲しかった。完全に私の尻に敷かれたBは、私の靴を舐めろと言ったら舐めただろう。そんなBと別れた後、男友達は彼のことを「Door mat」だと呼んだ。残念ながら、それは本当。だけど、だけど、私のせいなのだ。強い男が欲しいと言いながら、自分の思い通りにコントロールできる恋愛を望んでいたのだ。私の願いは矛盾している。だから、叶わないのだと自分でもわかっていた。そして、矛盾する自分をどうすることもできずにいた。

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