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「アトリエシムラ」ーストールから吹きこぼれる命の色。

<編集:記事執筆>
京都外国語大学 国際貢献学部
グローバル観光学科2回生
佐武ほのか


今回はわたしたちは紙面の「クール・モダン・スタイル」をテーマにコーディネートに取り入れた「色合わせストール ロスコー真紅と金茶」を制作・販売している。ブランド「アトリエシムラ」さんに取材。嵯峨野・大覚寺近くにあるアトリエシムラの工房を訪れ、代表の志村昌司さんにお話を伺いました。

嵯峨野にある工房近くの風景

人間国宝・志村ふくみの色を、次世代へと継承するために。

 アトリエシムラは紬織(つむぎおり)の人間国宝・志村ふくみさんの草木染めと手機(てばた)で作られた着物と、そこに流れる思想を体現し、次世代へ引き継ぐために生まれた染織ブランドです。
志村ふくみさんは滋賀県近江八幡に生まれ、両親の二人は医院を営みながらも民芸作家たちと親しく関わり、「民藝」という新しい美の理念に共鳴していたため、芸術と教育が常に結びついた環境で過ごされました。1956年に柳宗悦の勧めで染織の道に入った志村ふくみさんは、織物に関わるようになりました。1990年には農村の手仕事だった紬織を「芸術の域に高めた」との評価で、紬織の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。

お話を伺ったアトリエシムラ代表の志村昌司さん

志村ふくみさんと娘さんの洋子さん、そして孫の昌司さんが2013年に芸術学校アルスシムラを立ち上げるきっかけのひとつが、2011年東北地方を震源とする東日本大震災とそれによって引き起こされた福島第一原発での事故でした。その危機をきっかけに、今の科学技術や文明社会の持っている危うさが露わになってしまったのです。基本的に自然を痛めつける形でしか今の人間の活動はできていないとアトリエシムラの代表でもある志村昌司さんは語られました。それを修正するためのヒントが草木染めや手織りなど、自然に対する「畏敬の念」をベースにするものなのです。自然や染織に関わる彼らがこの時代に何ができるのかということに真剣に考えた結果、2016年に染織の具体的な実践の場として「アトリエシムラ」が設立されました。

植物の色をいただくことは、植物の生命をいただくこと。

植物の生命から頂いた色で染めた糸

ストールには、「糸の魔術師」と呼ばれる大正紡績の近藤健一さんとアトリエシムラさんとでオリジナルの糸を開発するところからスタートしています。大正紡績の契約農家のもとでオーガニック栽培された最高級の綿「アルティメイトピマ」を35%、絹65%を混紡し、「85番手の双糸加工」という細糸になっています。コットンと絹の特徴を生かしつつ、そのバランスがとれたものに仕上がっているのです。

こうして開発された特別な糸を、100%植物から抽出した天然の染料を使う草木染めの技法で、植物から生命の色をいただき、染め上げます。植物の状態や気候などによって色にも変化が生じるため、現れる色はつねに一期一会。植物からいただいた生命の色と向き合いながら、手仕事でひとつひとつ丁寧に染めの作業を繰り返していくことで、自分たちも想像していない色に出会うことができるのです。もちろん化学染料を使えばもっと効率的な染めはできますが、植物の本来の色、素材の良さを活かすということに注目し、いただいた色の中でデザインをするのです。そういう意味では人間より植物の方が上位にあるという世界観。我々がどう生かしていくかということが重要になってくるでしょう。

今回使われている染料の原料となる植物は「蘇芳(すおう)」と「玉ねぎ」。あざやかで深みある赤が、蘇芳の色です。蘇芳はインド原産のマメ科の植物で、飛鳥時代にはすでに日本に輸入され、貴族など高貴な人々に好まれた希少な染料だったそうです。なんとなく植物の色というと花の色をイメージするのですが、じつは花から色がとれる植物は少なく、その多くは木の幹や枝、根などを沸騰させたお湯で煮出すことで、植物の中に潜んでいた色を抽出するのだそうです。蘇芳も木の芯材や小枝を細かくしたチップを煮出して染液をつくります。
いっぽう玉ねぎは皮を使い、同じくお湯で煮出します。色は「金茶」というそうで、金色のような黄色のような薄茶色のような複雑な色。こうした色に微妙な揺れが現れるのが草木染めの最大の魅力だと言えるのではないでしょうか。

日本の伝統的な草木染めと、西洋の抽象画との邂逅。

「色合わせストール — ロスコ 真紅と金茶」

このストールの名は「色合わせストール — ロスコ 真紅と金茶」といい、ロスコシリーズのひとつです。ロスコというのは、マーク・ロスコというアメリカ人の画家のこと。あるとき、志村ふくみさんの着物を見たアメリカのギャラリストが「これはロスコの描く絵と同じ世界だ」と驚いたというエピソードがあり、そこからの絵にインスパイアされて作られたストールだから、その名がつけられたのだそうです。デッサンではなく色彩の面で形を見せるロスコの技法と、色で形を象っていく志村ふくみさんの染織の思想に共通性を感じたそうです。

手で染め、手で織られたスカーフを身に纏い、その温もりを感じてほしい。
アトリエシムラでは染めも天然染料による草木染めを手仕事によって行われていますが、織りも手機を使った手仕事によって、ひとつひとつ織り上げられています。機械を使えばもちろんキッチリ正確なものが、効率的かつスピーディーに、そして安価にできます。しかし人の手仕事によって生み出される揺らぎと、そのゆらめく波長から醸された温かみや愛着。このプロセスを経て作られた衣料にしかない優しく包み込むような優しさや肌ざわりは、まさに何ものにも替え難い体験になるのです。

このストールは着物はほしいけれどなかなか手が出ない、といった人に向けたもので、気軽に身につけやすいアイテムとして生み出されました。ファッションというとやはりヨーロッパのハイブランドに目を向けてしまう人が多いかもしれませんが、日本にもともとあるような伝統工芸や植物の色彩世界にもっと興味を持ってもらえれば、と志村昌司さんは考えています。そのためにも、アトリエシムラは草木染めのワークショップなトークイベントなどで若い世代に対しても積極的な情報発信を行っています。
今回のわたしたちのコーディネート企画をきっかけに、海外の人にはもちろん、わたしたちと同世代の日本の若者たちにも、アトリエシムラのストールのことや、草木染めならではの優しい色、手機織りの軽やかな風合いについて、知ってもらう機会になればいいなと思います。


店舗情報

アトリエシムラ

京都本店
住所:京都市下京区市之町251-2壽ビルディング2F
Tel:075-585-5953
営業時間:12:00~18:00 
定休日:水曜日・木曜日(祝日の場合は営業)
●公式サイト:https://www.atelier-shimura.jp
●instagram:https://www.instagram.com/ateliershimura/
●Facebook:https://www.facebook.com/ateliershimura

●X(旧 twitter):https://twitter.com/ateliershimura

東京・成城
住所:東京都世田谷区成城2-20-7
Tel:03-6411-1215
営業時間:11:00~17:00
定休日:水曜日・木曜日

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