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「むす美」ー心を「むすぶ」美しさ

<編集・記事執筆>
京都外国語大学 国際貢献学部
グローバル観光学科3回生
木幡美月

ライフスタイルが急速に変化し、和から洋中心の生活になっていった。そんな時代の流れと共に、何かを包んで持ち運ぶために使っていた「ふろしき」が次第に使われなくなった。しかし「ふろしき」は、ただ「ものを包む布」ではないことをみなさんはご存知だろうか。そこには先人から受け継がれた日本の「美」が詰まっている。

2月中旬、三条通にあるふろしき専門店『むす美』京都店にインタビューに伺った。店内に一歩足を踏み入れると、そこはまるでギャラリーにいるようにカラフルで、とてもワクワクした気分にさせてくれる。天井からモビールのように吊るされているものや、タペストリーのように壁に貼られているもの、また異なる結び方で作られた風呂敷バッグが並べられているなど、白を基調とした明るい店内にはさまざまな色・形の風呂敷が展示してあって印象的だ。そんな素敵なお店にお伺いし、むす美の広報担当でアートディレクターでもある山田悦子さんにインタビューをさせていただいた。

「むす美」の変遷

むす美は、山田繊維のブランド名であり店舗名でもある。1937年に京都で創業した山田繊維は、ふろしき製造卸売業として商いを行なってきた。1994年に東京人形町に東京営業所を設置。時代の流れとともにふろしきの需要が減っていく中で、雑貨類等の商品も増やしながら事業を拡大していった。しかし、3代目にあたる山田芳生社長となり、あらためて本業である「ふろしき」の価値を伝えることを志し、ふろしき専門の店舗を展開することを決意。1,300年にわたって受け継がれてきた「ふろしき文化」を、現代の暮らしやファッションに合ったスタイルで提案する拠点として、またお客様との接点となるアンテナショップとしての新しい試みをスタートした。

ギャラリーのような店内

2005年、人形町にあった営業所を原宿に移転し、一号店である「むす美 東京店」をオープンした。無名から始まったふろしき専門店「むす美」。当初は少数派であるふろしきのヘビーユーザーがお客様だった。そんななか、来店したお客様に、どんなふうに使っておられるのか、またどう使いたいのか、お客様の声やご要望をひとつひとつ丁寧に拾い上げていった。すると、ふろしきを長く愛用されているからこその工夫やスマートな使い方があることもわかってきた。メーカーである山田繊維が店舗を構え、ユーザーの方たちと直接コミュニケーションを取る環境を得たことで、学べた多くの気づき。それを「むす美」のノウハウやスタイルに取り入れていった。また自分たちが直接お客様に販売することで何のために必要とされ、どんな商品が求められているのかという情報もつかめるようになった。そして、その情報やノウハウは、法人のお得意先に提供、共有することで「ふろしき文化」は過去のものではなく、生きた文化として大いに活用できることを広く知っていただくことにも繋がったと感じている。

2017年、ついに創業の地である京都に「むす美 京都店」をオープン。どのようにしたらお客様が喜んでくださるのか。どうやったら見やすく、わかりやすく、買い求めやすく、興味を持ってくださる店内にできるのか。東京店オープンから約10年。試行錯誤を繰り返し培ってきた「むす美スタイル」というものがカタチになってきたのも、京都店オープンに踏み出せた理由の一つであったと山田さんは当時を振り返る。

「むす美」のこだわり

新商品の開発会議では、お客様のニーズを第一に考える。その際に大切にしているのも、やはり店頭スタッフや営業等からお客様の声を意識して拾い上げることが多い。単なる四角い布と思われがちなふろしきだが、実は使い方によって多種多様な表情を見せてくれる。たとえば全く同じデザインであっても、タペストリーのように広げて見る時と、モノを包んだ時、バッグにした時では見え方がまるで異なる。広げた時と包んだ時、それぞれのデザインがどうなるかまでを想定しデザイン・構図を考える必要があるのだ。また、素材面でも商品のコンセプや使用シーンに合わせて、環境に配慮したオーガニックや再生ポリエステルといったエコ素材や、機能性を重視した撥水加工などさまざまな切り口で開発している。このように時代を反映させてたくさんの人に喜んでもらえるようなデザインを生み出している。

広げた時と包んだ時の印象の違い

ふろしきにはさまざまなサイズがあるが、基本的には、約68~70cmが一番ポピュラーなサイズサイズ。ギフトを包んだり、カンタンなバッグにも。約45~50cmの小さいサイズは、お弁当包みやギフトラッピングに用いられることが多く、絹の場合はふくさ使いも可能。約100cm前後の大判は、バックを作ったり部屋のタペストリーにしたりできる。撥水加工の施されている大判のふろしきは、羽織ってレインコートのように用いることもできるなど、サイズによって用途も広がり、使い方も多様なふろしきだ。

「むすぶ」ことの意味

ふろしきの象徴的な「結ぶ」という行為は単にものを包むために行っているのではない。「むすぶ」ということには深い意味がある。「むす」という言葉の音には万葉の頃から意味があった。相違うものが交わることによって生まれる「生命(いのち)」を「むす」という音で表現している。「むすぶ」以外の言葉では「息子(むすこ)」「娘(むすめ)」に「むす」という音が含まれている。お父さんとお母さんが出会って結ばれたから生まれた男の子、女の子という意味を持つ。ふろしきは「むすぶ」からこそバックとして、ラッピングとして形をとどめ、そこに人の思いが宿っているとも考えられる。

「むす」は生まれる命、「美」はふろしきに詰まっている日本人の美意識をイメージした。「むす美」という名前にも、単にふろしきがものを包み、結ぶというだけでなく、人と人とを結び、みなさんの喜びにつながっていけばという思いが込められているのだろう。

ふろしきの魅力

ふろしきには、その人その人の楽しみ方、使い方があり、使いこなせるかはその人次第なのが何よりの魅力である。ファスナーやボタンは取り付け位置があらかじめ決まっており、それに伴い、とめる位置も決められてしまっている。しかしふろしきの結び目の位置は自分で決めることができるのだ。上手に使いこなすようになるまでにはすこし時間はかかるが、逆に使い慣れてくるとすごく便利で使い勝手が良いのだ。その人のスタイルで、その人の生活に合うふろしきの取り入れ方を見つけてほしい。

また海外に行かれる方や海外から来た人との交流が多い人こそ、日本の誇りとしてふろしきを知っておいた方がいいと思う。たとえばなにか贈り物をする際にショッピングバッグではなくてふろしきに包んで、ふろしきごとプレゼンとすると、そこから「どうやって包んだの?やってみて、教えて」と、より深いコミュニケーションが生まれる。ふろしきの包み方をひとつ覚えておくだけで、どんな人とも気軽で楽しい文化交流が始まるはずだ。

実は、ふろしきのような「包み布の文化」は世界中にある。しかし、ここまで「包み」「結ぶ」ことにアート的な要素があるのは日本独特だといっても過言ではないだろう。シンプルで洗練された機能美と、日本人特有の器用さと細やかさ、そして思いや心を大切にする感性が宿っているのだと感じた。長い時間をかけてここまで伝えられてきたものだからこそ、先人が残してくれた文化を、後世に伝えていく責任があると、山田さんは話してくれた。

今回お借りしたアイテム

チーフ 伊砂文様 両面 梅 アカ/グリーン

和装でも洋服でも合わせやすいリバーシブルの梅柄。同柄を同位置で、布の裏表で違う色で染めるというのは、とても難しく、熟練の高度な技術を要するとのことだった。シリーズの中でももっとも特徴的で日本人だけでなく海外の方にも人気のあるデザインで、日本らしい文様でありながらモダンな柄であることからもロングセラー商品となっている。

これまで何気なく目にしていた風呂敷。ただ単にものを包む布だという認識だった私にとってすごく便利でかわいくてしかもエコだというとても現代的なアイテムだったことを今回の取材を通じて学び、フレッシュな驚きを感じた。みなさんも自分に合った自分だけの風呂敷の使い方を見つけてみてはどうだろう。


店舗情報

住所 〒604-8111 京都市中京区三条通堺町東入桝屋町67
電話番号 075-212-7222
営業時間 10:00〜19:00
定休日 年中無休(夏季・年末年始は特別休業あり)
●公式サイト:https://www.kyoto-musubi.com 
●Instagram  https://www.instagram.com/furoshiki_musubi/?hl=ja 
●Facebook  https://www.facebook.com/furoshiki.musubi
●X(旧twitter)https://x.com/musubi_yamada?s=21&t=SxrgduavR9a4a1dA7dUChQ



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