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イタリア郷土料理のお話・ピエモンテ州②~ お菓子 ~

前回、ピエモンテ州の郷土料理について、お話させて頂きました。
今回は、ピエモンテ州のお菓子に注目します。

まずは、地理的復習から、始めましょう!

1)ピエモンテ州(Piemonte)について


イタリア (紫色:ピエモンテ州)
ピエモンテ州
「イタリア地方料理の探求(柴田書店)」より、引用

州都:トリノ(Torino)
イタリア北西部に位置し、
西はフランス、北の一部は、スイスに隣接している州。
面積は、シチリア島に次ぎ、イタリア2番目の広さです。

「山の麓(pedemonte=ピデモンテ)」という意味から名付けられ
山岳部、丘陵、平野部がある起伏に富んだ地形、
四季の寒暖、一日の寒暖差も大きい地域です。

州都トリノは、イタリア王国(サヴォイア家)時代の首都で、
イタリア統一運動の拠点、1861年統一時の核として、
重要な役割を果たした場所でもありました。
海には面していませんが、
食材の宝庫・ランゲ(Langhe)地方もあり、魅力的な地域です。

旅行記(北部)からも、豊かなピエモンテ州の様子を見て頂けます。



2)ピエモンテ郷土菓子の特徴

ピエモンテ菓子を語るにおいて、必ず出てくるキーワードが「サヴォイア家」。
イタリア統一運動後、1861年成立したイタリア王国(首都:トリノ)の王家として君臨した家系です。

イタリア最後の王家が残した王宮文化は、食についても然り。
宮廷料理として、今もあり、ことのほか、ドルチェ(デザート)を愛していたと言われ、「サヴォイア」が名前の由来になっている菓子類がいくつもあります。
(後述します)

トリノは、チョコレートが有名な街です。
また、土地が豊かなランゲ地方から生まれたドルチェも多くあります。
広大な丘陵地には、ワイン用のブドウ畑が広がりますが、その他にも、
ナッツ類、特に、ヘーゼルナッツの栽培が盛んです。

また、放牧や畜産業も有名で、菓子作りには欠かせない良質な卵、乳製品が流通しています。

チョコレート、ナッツ類、卵、乳製品等を使った様々な郷土菓子、
それが、ピエモンテ郷土菓子の特徴です。

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① トリノ発祥のチョコレート「ジャンドゥイア」

州都トリノ(Torino)にあるチョコレート店「カファレル(caffarel)」が、
19世紀中頃に、作り上げたものが、ヘーゼルナッツを贅沢に練り込んだ
チョコレート「ジャンドゥイア(Gianduia)」。

当時、ココア豆は、非常に高価であり、少量しか入手できなかったため、
そして、原価を下げるために、ローストしたヘーゼルナッツを粉末にして、
チョコレートに加えることにしたのです。

ヘーゼルナッツ(nocciola)
ジャンドゥイア(Gianduia)

ねっとりと柔らかい食感のチョコレートは、口の中で溶けていき、ヘーゼルナッツの旨みと風味を、感じることができます。

今では、製菓食材のひとつとして扱われている「ジャンドゥイア」。
お菓子店(Pasticceria)や、レストラン(Ristorante)などで、ジャンドゥイアを使った様々なドルチェが作られています。

ジャンドゥイアのロールケーキ
(カファレル)

このチョコレート店「カファレル」は、日本にも3店舗出店しています。

そのうちの2店舗がある神戸。
北野本店では、生ケーキも扱っていて、店内の喫茶スペースで食べることが出来ます。

カファレル北野本店
生ケーキが並ぶショーケース


ランゲ地方・アルバ(Alba)で食べたジャンドゥイアのムース
こちらも、とても美味しくて、感動したのを覚えています。

ジャンドゥイアのムース(アルバにて)
(Musse` di gianduia)


エスプレッソコーヒーに、ホットチョコレート、生クリーム、コーヒーリキュールを加えた、ホットドリンク「ビチェリン(Bicerin)」も、トリノ名物です。

ビチェリン(トリノにて)
(Bicerin)


② 特産のヘーゼルナッツを使って

特産のヘーゼルナッツ(nocciola)の粉を混ぜ込んだ焼き菓子もあります。
まずは、「ノッチョーラ(Nocciola)」。
その名の通り、ヘーゼルナッツのケーキで、作り方も、大きさも、様々。
ピエモンテ州発祥ですが、他の地域でも作られています。

私が働いていトスカーナ州のホテルでも作っていました。
素朴な焼き上がりのケーキだったので、見た目を華やかにするために、
マジパンでコーティングするのが、このホテルのノッチョーラでした。

ノッチョーラ(Nocciola)
(2000年トスカーナ州モンテカティーニ・テルメのホテルにて)


忘れてはならないのが、貴婦人のキスという名の「バーチ・ディ・ダマ(Baci di dama)」。
ヘーゼルナッツ(粉)を加えた半円形上のクッキーで、チョコレートを挟み、
チュッとキスをしているようにくっつけたものです。

親指ぐらいのものから、手のひらサイズのものまで、大きさも様々。
訪れる町々で、見つけるのが楽しくなる焼き菓子のひとつでした。

手のひらサイズの、バーチ・ディ・ダーマ (アルバにて)
(Baci di dama di Alba)


③ アーモンドにまつわる菓子

アーモンド(mandorla)も多用されています。
前述の「バーチ・ディ・ダマ」も、アーモンド(粉)で作るレシピもあります。
そして、ピエモンテ州からイタリア全土に伝わり、作り続けられているアーモンド菓子も多いです。

皮付きアーモンド
皮付きアーモンドプードル、 皮なしアーモンドプードル
マラスキーノ & ブルッティ・マ・ブォーニ(アーモンドプードル使用)
( Maraschino & Brutti ma buoni )

ブルッティ・マ・ブォーニ(Brutti ma buoni )。
「形が悪い(ブルッティ)、しかし(マ)、美味しい(ブォーニ)」という意味の焼き菓子で、アーモンドプードル、もしくは、アーモンドのマジパンを使い、形を悪く作る焼き菓子です。
味も、大きさも様々。
イタリア各地で、見ることができます。


大人のココアプリン「ボネ / ブネ(Bonèt)」。
アマレッティ(Amaretti)」というアーモンド風味のカリカリクッキーを砕いて加えるのですが、そのクッキーの食感と風味が、なんとも言えず、
癖になるプリンです。

ボネ ~ アマレット風味のココアプリン ~
(Bonèt)


では、「アマレッティ(Amaretti)」とは、なんぞや。
アーモンドをすり潰しながら、卵白、グラニュー糖を合わせた生地を焼いたもの。

ビスコッティ・アマレッティ(biscotti amaretti)

マカロンのひとつとして食べられているアマテッティクッキーは、
そのまま食べても美味しいですが、砕いて、ココアプリン・ボネに入れたり、
菓子食材のひとつとしても、親しまれています。

アマレッティは、ヴェネツィア発祥であるとか、アラブからシチリア経由で伝わったとも言われていますが、なぜか、ピエモンテ地方菓子として紹介される機会も多いです。
もちろん、イタリア全土で食べられていて、日本にも輸入されています。

ちなみに、イタリア語の辞書には、下記の通り書かれています。

amaretto  ・ほろ苦い(形容詞)
         ・マカロン(名詞)、アーモンド風味のリキュール(名詞)

アーモンド風味のリキュールと言えば、こちら。
ディサローノ・アマレット(DISARONNO  Amaretto)」です。

ディサローノ・アマレット(イルヴァ・サロンノ社)
(DISARONNO  Amaretto)

あんずのエッセンシャルオイルから造るアーモンド風味のリキュールは、
ミラノから北西30kmにある街・サロンノ(Saronno)発祥で、
街の名のまま「Di~(~の)Saronno(サロンノ)」が、品名となっています。

このリキュールを使い、アーモンド風味にするデザートも多いです。


④ 卵・乳製品をふんだんに使って

放牧や畜産業も盛んなピエモンテ州は、美味しい卵、乳製品から作られる
お菓子もあります。

その代表格が、日本でも、イタリアンドルチェの定番となっている
パンナコッタ(Panna cotta)です。

生クリーム(Panna)を煮て(cotta)作るデザートは、とてもシンプルですが、最近流行りの軽やかなもの、そして、昔ながらの、どっしりした食感のものなど、様々な味わいのものが作られています。

パンナコッタ・カラメルソース
(panna cotta alla salsa di caramello)


モンテ・ビアンコ(Monte Bianco)も、有名です。
日本で知られている「モンブラン(Mont Blanc)」は、栗のクリームがたっぷりかかっているケーキですが、イタリアのモンテ・ビアンコは、少し違います。
フランスとの国境に位置するヨーロッパアルプスの最高峰「モンブラン」、
(イタリア語では「モンテ・ビアンコ(Monte Bianco)」)に模して、
泡立てた生クリームを、たっぷりと使い、雪山に見立てて、仕上げます。

モンテ・ビアンコ(写真・奥のケーキ)
(チョコレート専門店・カファレル神戸北野本店HPより、写真・引用)


先日、カファレル北野本店に伺ったのも、実は、このモンテ・ビアンコを
写真素材として使いたく、購入する目的もあったのですが、
残念ながら、この日は、ショーケースに並んでいなくて、その代わりに、卵菓子のひとつ「キャラメル・ブリュレ」を購入してきました。

キャラメル・ブリュレ


クレームブリュレ(Crème brûlée)」は、フランス菓子のひとつ。
イタリア全土でも、よく食べられているデザートですが、
サヴォイア王家の食卓にも並び、愛されていたと言われています。


⑤ 宮廷・サヴォイア家から生まれた菓子

ドルチェ・ダ・クッキアイオ(Dolce da Cucchiaio)」と、しばしば呼ばれるデザートがあります。
スプーン(Cucchiaio)で食べるデザート(Dolce)のこと。
その代表的なデザートが、「ザバイオーネ(Zabaione)」です。

ザバイオーネ (フィレンツェ郊外にて)
(Zabaione)

サヴォイア家の食卓から生まれたこのデザートの材料は、たったの3つ。
卵黄、グラニュー糖、マルサラ酒(酒精強化ワイン or 甘口ワイン)
これらを鍋に入れてよく混ぜてから、湯煎にかけ、ゆっくりと加熱しながら、
さらに混ぜ合わせて、ふわふわに仕上げます。

これが、本当に美味しいのですよね。
ひと口、ふた口程で、十分に満足できる濃厚なスプーンデザートです。

ザバイオーネも、今では、イタリア全国区。
デザートに添えるソースとしても、よく登場します。
私は、フィレンツェ郊外のアグリトゥーリズモで、マンマが作ってくれたザバイーオーネ(上記・写真)が、本当に美味しくて、記憶に残っています。


英語名は「フィンガービスケット(finger biscuits)」。
イタリア語では「サヴォイアルディ(Savoiardi)」と呼ばれている
バニラ風味の軽やかな食感のビスケット。
これも、サヴォイア家で、長年、愛されて、食べられていたと言われています。

サヴォイアルディ(Savoiardi)


そのまま、カリカリっと食べても良いですし、前述のザバイオーネを食べる時に、スプーン代わりに使っていたとも言われています。

皆さまご存知のイタリアンドルチェの代表格「ティラミス(Tiramisù)」にも、使われています。

ティラミス 
(Tramisu`)


泡立てた卵白と砂糖を加えた生地を、低温のオーブンで、ゆっくり焼き上げた「メリンガ(Meringa)」。

メリンガ(Meringa)
(2000年トスカーナ州モンテカティーニ・テルメのホテルにて )

起源は、

 18世紀初め、スイス北部のメリンゲン村(マイリンゲン:Mellingen)で
  菓子店を営んでいたイタリア人のパティシエが作り、売り出したのが始まり。
 19世紀初めに、ナポレオン軍が大勝したお祝いに
  ピエモンテ州のランゲ地方・マレンゴ村(Marengo)で、作られた。
 18世紀、ポーランド王スタニスワフ1世レシチニスキが、
  フランスのロレーヌ公として在位していた時に、宮廷で作られ、
  食べられていた。

等々、諸説ありますが、現在は、ピエモンテ州をはじめ、イタリア各地で親しまれている焼き菓子です。

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ピエモンテ州のお菓子についてみてきましたが、いかがでしたか?
もちろん、まだまだ、私が知らない郷土菓子もあると思いますが、日本でも、馴染のあるものあります。
食べる機会がありましたら、是非、ピエモンテ州に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
そんな、ひと時の参考にして頂けたら、嬉しいです。

今後も、引き続き、イタリアに関する情報を、様々な形で、お伝えしていきます。
どうぞよろしくお願いします。

ピエモンテ州の郷土料理、その他の、ピエモンテ州滞在記は、下記から、
ご覧頂けます。


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マガジン「オフィスアルベロ・レシピ集~neo~」からも、イタリア料理を楽しんで頂けます。
是非、ご覧ください。

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最後に
 ~これまでの「イタリア郷土料理のお話」~

☆ヴァッレ・ダオスタ州


☆ヴェネト州


☆リグーリア州


☆フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州


☆ウンブリア州


お読み頂き、ありがとうございます。 サポート頂ければ、心強いです。