見出し画像

イタリア郷土料理のお話・フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州

今回は、イタリア最北東に位置するフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州について、見ていきます。

レシピ集でも、いくつか郷土料理をご紹介していますので、
併せて、理解を深めていきましょう。

******************

1)フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州
  (Friuli-Venezia Giulia)について

画像1
イタリア
(赤色:フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州)
フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州
「イタリア地方料理の探求(柴田書店)」より、引用

州都:トリエステ(Trieste)
イタリアの北東部に位置し、北はオーストリア、東はスロベニアに接し、
南は、トリエステ湾(海)に面しています。
南北に長く、内陸部には、平野が広がり、
その北に、アルプス山脈の一部・カルニケ山が雄大な姿を見せてくれます。

海に面している地域は、比較的温暖な気候ですが、
北へ行くほど、一年を通しての気温差が激しくなり、
雨も多く、冬は、かなり寒くなります。

2)州都:トリエステについて

紀元前時代は、イストリア人が定住。
(トリエステから西に位置する三角形の地域が、イストリア半島)

古代ローマ帝国の支配下に入った後、多くの民族、国家の支配を、
代わる代わる受けますが、中央ヨーロッパと接し、地理的にも重要な拠点でもあったため、貿易港として、時には軍事港として、自治権の一定部分を保持しながら発展していきました。

第一次世界大戦までは、オーストリア=ハンガリー帝国の重要な交易港として栄え、当時の食文化や、建築物が、今でも、色濃く残っているのも魅力のひとつです。

トリエステのカッフェ文化は、とても有名で、
18世紀頃には、店内で政治の密談や、亡命の手続き等を秘密裏に行ったりと、社交場としても、大きな役割を担っていたとか。

第二次世界大戦後、イタリア領として返還されて、現在に至ります。

映画を愛している街でもあり、映画祭も、度々、開催されています。
実際に、トリエステのカッフェに立ち寄った時に、地元の方々と、
宮崎駿監督の「ジブリ映画」の話で、盛り上がりました。
北野武監督の映画も、イタリアで人気です。

トリエステを代表する街並と言えば、まず、この運河を思い浮かべます。

画像6
トリエステの大運河
(Canal Grande)

高台からも、トリエステの街の様子を見てみましょう。

画像4
画像5
お城(Castello)から、トリエステ湾を眺めて

そして、この本を思い出す方も、多いと思います。

画像3
須賀敦子さんが書かれた「トリエステの坂道」


私も、須賀さんの本を読んでから、トリエステを訪問。
より充実の滞在となりました。

この本にもあった「ウンベルト・サバ書店(Libresia Umberto Saba)」にも、訪れました。

画像30
ウンベルト・サバ書店
(Libresia Umberto Saba)

画像8
メインストリートにある、ウンベルト・サバ氏の銅像
(Statua di Umberto Saba)

今でも、地元の方々に愛されている、詩人ウンベルト・サバです。


******************

トリエステ以外にも、訪れたい街があります。
美しい広場が有名な、第二の都市・ウディーネ(Udine)

画像9
ウディーネのリベルタ広場
(Piazza della Liberta`)


モザイク画で有名な大聖堂がある、アクイレイア(Aquileia)

画像10
アクイレイア大聖堂内
(Basilica di Aquileia)


トリエステの対岸にある、小さな海辺の町・ムッジャ(Muggia)。
地元の方に薦められて訪れたのですが、この街の雰囲気が、堪らなく好きでした。

画像11
ムッジャの魚屋さん
(Pescheria Comunale)


その他の、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州滞在記は、
下記から、ご覧頂けます。


******************

3)フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア料理の特徴

海側では、海の幸もありますが、肉、チーズも、よく食べられています。
とうもろこしの栽培も盛んで、粉を使ったポレンタも、メイン料理に添えられています。

パプリカ、クミン、シナモン等の香辛料を料理に使うのも特徴です。

支配下にあった国家、民族の影響を受けているので、ヴェネト料理(州都・ヴェネツィア)にも似ています。
また、オーストリア、ハンガリーのテイストも入り、異国情緒溢れる味わいの料理も多く、この2つの国がルーツの菓子類も魅力的です。

白ワインの産地としても有名です。
近年では、単一品種で造られた白ワインが、日本にも入ってきています。

イタリア全土で飲まれている有名ビール会社・モレッティ社
日本でも有名なイリーコーヒーも、トリエステで創業された会社です。

それでは、それぞれ、見ていきましょう!

******************

① 肉料理、加工品

画像19
生ハム(サン・ダニエーレ産)
(Prosciutto di San Daniele)

中央部にあるサン・ダニエーレ村(San Daniele)は、生ハムの名産地。
日本でも、有名なパルマ産の生ハムとともに「生ハムの双璧」と呼ばれています。
パルマ産は、やや塩味が強いのが特徴、
サン・ダニエーレ産は、甘みがあるのが特徴です。

どちらも美味しいのですが、個人的には、サン・ダニエーレ産の甘みが
好きです。
トリエステ滞在最後の日には、スーパーで100gを購入し、堪能しました。


画像12
トリエステ名物・ブッフェ
(Buffet)

いわゆる、ボッリート・ミスト(Bollito Misto)
北イタリアで、良く食べられている「茹で肉の盛り合わせ」です。

牛肉、豚肉の様々な部位を茹でた肉類を、マスタードソースや、
ハーブとにんにくを効かせたグリーンソース(サルサヴェルデ)をつけて
食べます。
トリエステでは「ブッフェ」という名で、親しまれています。


画像21
仔牛のスネ肉のロースト
(Stinco di vitello)

骨付きのスネ肉を、丸ごと炭火で、じっくりと焼き、切り分けて頂きます。
時間をかけて焼き上げるので、軟らかく、ジューシーに仕上がり、
抜群の美味しさ。
他の州でも、食べられている料理です。


画像29
グラーシュ&クヌーデル
(Gulasch&Cunudel)

ハンガリー起源の、ドイツ、オーストリアの伝統料理のひとつ。
牛肉を煮込む時に、パプリカや、クミンなどの香辛料を使うのが特徴で、
オーストリア領であった名残のドロミテ料理、フリウリ料理でもあります。


画像24
ランバシッチ
(Rambasicci)

イタリア版ロールキャベツ。
香辛料パプリカを加えるのが特徴です。
これも、ハンガリーの影響と言われています。


② 魚料理

トリエステ湾、ヴェネツィア湾で獲れる豊かな海の幸が食べられています。
ヴェネト料理と、とても似ているなというのが、私の印象でしたが、
その中でも、違いを明確にするために
「イストリア半島の流れを汲むお料理(La Cucina Istriana)」と銘打って、
お料理を提供しているレストランもありました。

画像22
ズスキのラビオリと手長海老のトマトソース
(Ravioli di branzino con salsa di pomodoro e scampi)

イストリア料理(La Cucina Istriana)」と書かれていた一皿。
本当に、本当に、美味しかったです。
ただ、特徴は?、ヴェネト料理との違いは?と聞かれると、正直、答えるのが難しいです。

「ヴェネト料理(ヴェネツィア料理)」として、出てきても、違和感はないですし、その違いは、分からなかったのですが、
イストリアを起源に持つ方々、海側地域の方々の「誇り」。
それが、現在の「イストリア料理」を支えているのではと、思いました。


③ ポレンタ

画像23
いかの煮込み・ポレンタ添え
(Totani in umido com polenta)

トスカーナ州だと、パンと一緒に食べられるであろう「いかの煮込み」。
ここでは、とうもろこしの粉を練ったポレンタが、添えてありました。
日常的に、パンよりも、ポレンタを良く食べる方も多いそうです。


④ チーズ料理

画像25
地元チーズ・モンタズィーオの前菜
(Antipasto di formaggio , Montasio)

画像26
チーズのクレープ
(Crespella di formaggi)

イタリアの「山のチーズ」として有名なモンタズィーオ(Montasio)
元々は、モッジオ・ウディーネ修道院の僧によって、ひっそりと造られていたチーズでしたが、モンタズィーオ山の住民に造り方が伝えられ、段々と、広がっていきました。

加熱すると、トロリと溶け、お料理にも多用されています。


⑤ お菓子

オーストリア、ハンガリーの影響が、特に、色濃く残っています。
「どれを食べても、本当に美味しい」というのが、訪れた時の印象です。

画像17
プレスニッツ
(Presnitz)

ナッツ類、ドライフルーツ等の餡を包んだ焼菓子。
月桂樹の王冠のような、ぐるりと巻いた形も特徴です。


画像18
グバーナ(Gubana)

ナッツ類、ドライフルーツ等の餡を包み込んだクリスマス時期のパン。
現在では、一年を通して、作られています。

画像13
ザッハトルテ(Sacher)

チョコレートケーキの王様と呼ばれる、オーストリアの代表的なケーキ。
トリエステで食べたこのザッハトルテも、ドロミテ(Dolomiti)で食べたのも、本当に、美味しくて、感動したのを覚えています。


画像16
レモンのケーキ
(Torta di limone)

イストリア料理店で、食べたこのケーキ。
イメージしていたレモンケーキとは違い、想像以上の美味しさで嬉しくなったのを覚えています。

甘酸っぱい木イチゴのジャムに、チョコレート、ナッツ等々、いっぱいの味わいが詰まっていて、それを、レモンが、上手に包み込んでいる感じ。
異国の香りがしました。
このあたりが「イストリアの味」なのかもしれません。


⑥ ワイン

白ワインの名産地です。
ムッジャ(Muggia)で、量り売りをしている酒屋さんを発見!
嬉しくなりました。

画像20
ムッジャの街の酒屋さん
(Enoteca a Muggia)

イタリア各地にワインの名産地は多く、ワインショップ、エノテカも多くありますが、町の酒屋さんで、お客さま各自が、空瓶(空のペットボトル)を持ってきて、ワインを入れてもらうと言う「量り売り」をしているお店は、
珍しいです。

ワイン樽の抜栓をすると、保存が効かない分、店側は、早く売り切らないといけない。
買う側も、早く飲み切らないといけない。
「量り売り」が成立しているのは、よりワインが身近である地域なのだと
実感しました。


近年、日本にも、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州産のワインが、
入ってきています。

画像30
フェルナンダ・カペッロ社の白ワイン2種
( Fernanda Cappello Sauvignon  /   Fernanda Cappello Chardonnay )

この地域で、単一ぶどう品種で造られているのは、ちょっと珍しいそうで。
ちょうど、この記事を書いている時に、お世話になっている酒屋さんに、
お勧め頂きました。
飲むのが、楽しみです。


⑦ ビール

画像27
モレッティ・ビール
(Birra italiana:Moretti)

イタリア全土で飲まれていて、日本でも知られているモレッティのビール
19世紀中頃に、ウディーネ(Udine)で創業しました。

根強いワイン文化が続く、イタリア。
創業当時から、長い間、苦戦を強いられていましたが、1990年代に入ってからは、消費が伸び、現在は、イタリアビールシェア No.1の座を守っています。

近年は、南イタリアでも、小さな造り手さんが拘って造る、美味しい地ビールが生産されるようになり、ビール人口も増えてきているなと、感じています。


⑧ コーヒー文化

17世紀後半から、国境が近い街・トリエステならではの、カッフェ文化が育まれていきます。

画像30
アンティコ・カッフェ・サン・マルコ
(Anrico Caffe` San Marco)

老舗店のひとつ「アンティコ・カッフェ・サン・マルコ」。
この奥にあるトイレに行く途中、現在は、使われていない広いスペースが、ありました。
19世紀頃、社交場として賑わっていた時に、そこで、秘密裏の対話がされていたのかもしれない。
ふと、そんな事を思ったりして。


画像15
カッフェ・アッフォガート
(Caffe Affogato)

バニラアイスに、エスプレッソコーヒーを注いだデザートです。
トスカーナに住んでいた時は、バールで、市販のカップのバニラアイスを購入し、注文したエスプレッソを注いで食べていました。

こうやって、お店で食べるのは初めて。
美味しかったです。

トリエステに本社を置く「イリー・カッフェ(illy Caffe`)」。
日本でも、有名ですね。

トリエステで滞在していたホテルの朝食には、イリーのカップが使われていて、デザイン性もあり、気に入ってしまいました。

画像28
エスプレッソ用カップ
(illy espresso)

トリエステの街で、イリーのカップを探して、購入。
このブルーのカップは、ホテルスタッフからプレゼントして頂きました。
料理教室でも、活躍しているカップ達です。


☆イリー(紹介ページ)


******************

いかがでしたか?
フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州は、国境に接しているのもあり、
違う雰囲気、文化を持っている、とても興味深い地域です。
この記事を書きながら、機会をつくり、また訪れたいなと思いました。

引き続き、イタリアに関する情報を、様々な形で、お伝えしていきますので、どうぞよろしくお願いします。


マガジン「オフィスアルベロ・レシピ集~neo~」で、既に、ご紹介していますので、是非、ご覧ください。


*******************

最後に
 ~これまでの「イタリア郷土料理のお話」~


続きをみるには

残り 0字
料理教室17年目。(料理の仕事30年) 毎月、レシピ4記事(水曜日 or 木曜日予定)+ α(不定回数:レシピ&食材&食文化等について)を掲載。 購読後は、2020年1月からのマガジン内の「無料記事」は、全てご覧頂けます。

※ 新フォーマットに合わせて、初期の頃の記事を、順次調整中。見えやすく読みやすくしていきます。 料理脳を鍛えよう! レシピは、料理の謎解…

お読み頂き、ありがとうございます。 サポート頂ければ、心強いです。