マガジンのカバー画像

すれちがう人々

5
玄川阿紀と人生が交錯した人について書いた記事をまとめました。
運営しているクリエイター

記事一覧

親友だったあの子

親友だったあの子

「私たち、距離を置いたほうがいいと思う」

一昔前の恋愛ドラマでしか聞かないような台詞を、言われたことがある。正確には、私宛の手紙に書いてあった。手紙の送り主は、10年間お互いのことを「親友」と呼び続けたRだった。

Rとの出会いは、4歳まで遡る。同じ幼稚園に通っていて、年少のときに同じクラスだった。Rが言うには、私たちは「最初の友達」だったらしい。先生が「お友達と遊びましょうね」と、それぞれ一人

もっとみる
父

父は、長い間ゆるやかな鬱だった。

いや、「だった」と書くと「完治した」ような表現になってしまうので、語弊があるか。父の身体は父のものだ。私には、それがよくなっているのか、よくなっていないのか、はっきりとはわからない。

最初に父が鬱と診断されたのは、私が子どもの頃。父は、働き盛りの40代だった。

___

「お父さんね、鬱なんだって」

と、母から聞かされたのは、私が小学生の頃。当時、父が「眠

もっとみる
世界でいちばん優しい人

世界でいちばん優しい人

ほーちゃんがいなくなって、無情にも一年半が過ぎようとしている。数少ない私の大切な友達であるほーちゃんは、世界でいちばん優しい人だった。

___

初めてほーちゃんと話した日のことは、もう覚えていない。

ほーちゃんは、私と同じ薙刀部に所属していた悠(はるか)のクラスメイトで、私は悠を介して彼女のことを知った。ほーちゃんは「穂乃香(ほのか)」という名前で、悠が「ほーちゃん」と呼んでいたので、私も「

もっとみる
「なんだ、せっかく夏休みも会えると思ってたのに」

「なんだ、せっかく夏休みも会えると思ってたのに」

高校受験を控えた、中学生最後の夏だった。

給食のお膳を片付けている最中、同じクラスの男の子――便宜上、以下からY君とするけれど――に「夏休みの講習、来るよね?」と聞かれた。

夏休みまであと少し。彼が話しているのは、今朝申し込みが締め切られた学校の夏期講習のことだろう。7月の後半と8月の前半・後半に英・数・国の三科目の補習を行うらしい。

お盆とお箸をそれぞれステンレスの食器カゴに戻す。箸と箸が

もっとみる
私のたったひとりの、おじいちゃん

私のたったひとりの、おじいちゃん

映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』で、病魔に冒された母がフォレストに言ったセリフ。“死”という言葉を使わずにそれを表現することで、フォレストの心の負担にならないようにしているとかなんとか。英語の授業で先生が教えてくれた。

「おじいちゃんが亡くなりました」と母からメールが送られてきた時、その無機質な文字を目で追いながらこの一節を思い出していた。

「とうとう、おじいちゃんの番が回ってきたんだ」と

もっとみる