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論文の要約

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アート系の論文の要約、学術的意義を自分でまとめています。
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2023年5月の記事一覧

【要約と学術的意義】ゴットフリート・ゼムパー(河田智成編訳)「建築芸術の四要素」『ゼムパーからフィードラーへ』

(1)要約
『建築芸術の四要素』(1851)は、ゼンパーによる古代ギリシャ建築のポリクロミー調査研究と、建築物を原始時代に作られた構造までに遡り、建築を成り立たせる要素を4つに分類した建築論となっている。構成は、Ⅰ「概観」、Ⅱ「ピュティア」、Ⅲ「科学的根拠」、Ⅳ「推論以上のもの」、Ⅴ「四つの要素」Ⅵ「応用」からなる。そのうちⅠからⅣまでの前半はポリクロミー表現の調査研究。後半部のⅤ〜Ⅵは建築の四要

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【要約と学術意義】谷川渥「ジャンルの解体」『表象の迷宮 : マニエリスムからモダニズムへ』

(1)要約
谷川は本稿において、絵画や彫刻の境界が流動化し、名称と実態がますます乖離してきているように見える事態を「ジャンルの解体」と定義し、彫刻と呼ばれるジャンルが、絵画は純粋化や自律性を目指していった動向に比べ、逆にジャンルとして拡張され、曖昧になったと主張している。それは、グリーンバーグやフリードの指摘するフォーマリズムを擁護したモダニズムの思想を逆説として現れた現象として捉えることできると

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【要約と学術的意義】高階秀爾『20世紀美術』ちくま学芸文庫(1993)

(1)要約
高階は『20世紀美術』において、20世紀以降の美術作品は「実験的」であると定義している。かつて20世紀以前の美術作品では、様々な要素が調和し組み合わせられてひとつの秩序を作り出していく世界観に基づいていた。しかし古典主義崩壊以降、統合されていた様々な要素が「分離」し、その要素を「強調」し、芸術作品の「純粋性」を求める傾向にあるという。
一章では「オブジェとイマージュ」と題し、絵画はそも

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【要約と学術的意義】アドルフ・ロース(伊藤哲夫訳)『装飾と犯罪―建築・文化論集―』

(1)要約
アドルフ・ロース(1870-1933)の『装飾と犯罪』を中心に、素材と技術、それに伴った目的を重要視する建築論をはじめ当時のウィーンやヨーロッパの街並みや建築文化の傾向、また彼の交友関係である芸術家たちとの交流の文章やエッセイが23項収められている。
ロースは『装飾と犯罪』において、装飾表現について強い批判を行う。例えば、パプア人における顔面の刺青は自分を飾りたいという欲求の表現である

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【要約と学術的意義】藤井匡「隠喩としての装飾:伊藤誠の彫刻の表面」

(1)要約
本論の目的は、全体像を把握することが困難な伊藤誠の彫刻を、その彫刻の形態と表面の剥離の問題から論じることでその困難さを明らかにすることである。

伊藤誠自身の彫刻を「一見何がなんだかわからない物」を目的としている。しかし、その目的は新しい造形を作り出すことではなく、鑑賞者の視線の変化によって得れる造形の特徴である。このような作品は、伊藤の作品においてメッシュを使った彫刻作品に現れる。そ

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【要約と学術的意義】阿部美由起「ゴーフリット・ゼンパーの素材概念」『美學』第51巻4号(204号)2001年3月31日刊行

(1)要約
本稿では、19世紀の建築家ゴーフリット・ゼンパー(1803-1879)の素材概念についての考察を行なっている。ゼンパーの建築思想において、素材は非常に重要な要素として位置を占めていている。例えば、「目的に応じた素材と技術」によってできる建築や芸術が彼にとって理想のものとしているのだ。

このゼンパーの素材を重要視する視点は、美術史家アロイス・リーグルらによって「唯物論的」であると言われ

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【要約と学術的意義】浅井麻帆「1890年代後半のウィーン分離派とゴーフリット・ゼンパー」

(1)要約

本稿では、1890年後半に建築家オットー・ヴァーグナーをはじめとしたウィーン分離派が、1850−70年代に活躍した建築家ゴーフリット・ゼンパーからどのように影響を受けていたか考察するものである。
筆者は、ヴァーグナーの名言「建築の唯一の主人は必要(芸術は必要のみに従う)」は、もともゼンパーからの発言だったということを指摘し、ヴァーグナが所属したグループの分離派がどのように影響を受けて

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樋田豊次郎「器物の構造」『「かたち」の領分:機能美とその転生』東京国立近代美術館(1998)

本稿の構成

1 実用と芸術表現の往還
2 装飾品への変貌
3 道具への還元
4 器物は昨日と美を併せもつという認識
5 変貌と還元の補完関係
6 要求の質的差異
7 コノテーションを帯びた要求
8 擬自然化される器物

(1)要約本稿は器物が古代から現代に至る歴史の中で、どのように捉えられてきたかを考察する物である。器物は、それ自体が芸術作品や装飾品であり、更に実際に日常で使用される道具である。

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【要約とメモ】渡辺文「芸術人類学のために」『人文学報』第97号(2008年8月)

1 はじめに
2 芸術論の変遷
3 芸術人類学の展開
 3-1 文化相対主義
3-2 本質主義
3-3 機能主義
3-4 マテリアルカルチャー論
4 考察
 4-1 芸術人類学批評
 4-2 芸術人類学の展望
5 おわりに

(1)要約

本稿は、「芸術」の議論が人類学にとてどのような点において正面から論じ難い領域であり続けたかを理解し、今「芸術人類学」を低所するための基盤を作る

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【要約】山口恵理子「特集 装飾論の展開とその可能性」『文化交流研究』筑波大学文化交流研究会編 pp33-45(2013)

(1)要約

本稿は、紀要『文化交流研究』の特集「装飾論」におけて寄せられた装飾にまつわる先行研究を紹介しているものである。著者がゼミにおいて取り扱った、ゼンパー(1860−63)、リーグル(1893)、ヴェルド(1895)、ロース(1910)、ペヴスナー(1936)、ヴォリンガー、ブーエ(1979)、そしてゴンブリッチ(1979,2006)、ロジャーフライ(1910,1917)の思想から装飾論を

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