【要約と学術的意義】ゴットフリート・ゼムパー(河田智成編訳)「建築芸術の四要素」『ゼムパーからフィードラーへ』

(1)要約
『建築芸術の四要素』(1851)は、ゼンパーによる古代ギリシャ建築のポリクロミー調査研究と、建築物を原始時代に作られた構造までに遡り、建築を成り立たせる要素を4つに分類した建築論となっている。構成は、Ⅰ「概観」、Ⅱ「ピュティア」、Ⅲ「科学的根拠」、Ⅳ「推論以上のもの」、Ⅴ「四つの要素」Ⅵ「応用」からなる。そのうちⅠからⅣまでの前半はポリクロミー表現の調査研究。後半部のⅤ〜Ⅵは建築の四要素の分類である。
前半部の建築におけるポリクロミー表現の調査研究では、古代ギリシャ建築がさまざまな芸術活動の協働によって高度なポリクロミーが建築全体を覆うようにあったということを科学的な証明を試みている。
また後半部では、彼は構造を4つの要素、炉、土台、囲い、屋根に分類している。まず焚火をおこすための炉を中心として、土台、囲い、屋根が形成されているプロセスを考察している。それぞれの四要素から、炉は陶芸、金工、土台は石工、屋根には木工技術が対応して発展した原技術であるという。また、囲いについては、更に壁面、壁体という特徴に分類した。壁面は織物の構造、壁体の原型を土台から立ち上げられる石造である。
(2)学術的意義
ゴーフリット・ゼンパー(1803-1879)は19世紀の建築家であり、建築史家である。
『建築芸術の四要素』におけるポリクロミー研究、建築を四要素に解体し技術と関連して述べる起源への眼差しは、彼の思想の基盤となるものである。例えば、前半に取り扱うポリクロミーは、『様式論』における「被膜論」の核となる原型の論考として考えられる。被膜論とは、建築の壁面、構造などの被膜における素材と表現(目的)との関係を考察するものである。また後半部の「建築の四要素」における囲いと、対応する織物、職工技術の着目眼は、「様式論」でさらに装飾との発展につなげている。彼は、装飾文様を芸術の根源とみなし、織物の構造から作られる文様をその根源とした。この主張はダーウィン進化論の影響が強い時代に様々な人たちに支持を得た。更にこの論に対して、アロイス ・リーグルは『美術様式論』において装飾を素材や技術の制約から乗り越えていくものとして<芸術意志>を説くなど、美術史における影響も強い。

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