【要約と学術的意義】アドルフ・ロース(伊藤哲夫訳)『装飾と犯罪―建築・文化論集―』

(1)要約
アドルフ・ロース(1870-1933)の『装飾と犯罪』を中心に、素材と技術、それに伴った目的を重要視する建築論をはじめ当時のウィーンやヨーロッパの街並みや建築文化の傾向、また彼の交友関係である芸術家たちとの交流の文章やエッセイが23項収められている。
ロースは『装飾と犯罪』において、装飾表現について強い批判を行う。例えば、パプア人における顔面の刺青は自分を飾りたいという欲求の表現であるとし、装飾を芸術表現の原始的なものとみなしている。しかしながら、その飾りたてたいという衝動は至極子供じみた、性的な衝動であると批判する。装飾は、新しい時代(近代)においては不要であり、それ事態が進歩と発展を妨げる要因として捉えた。そこで、文化の発展は日常にある建築や家具、道具などから装飾を取り除くことであると主張している。更に、「無装飾は強い精神性の表れである」と主張している。
また、他の論考『被膜の原則について』や『建築材料について』では、建築における材料の特徴を十分に活かし、建築の被膜はその材料の特徴を生かした処理の重要性を論じている。
(2)学術的意義
アドルフ・ロース(1870-1933)は20世紀ウィーンの建築家である。彼の設計した装飾を排除した建築は、近代建築の思想を代表する思想の建築家であるといえる。訳者のあとがきによれば、歴史主義的なウィーン街並みに対して、きわめて装飾を取り除いた<ロースハウス>(1908)の建設は、行政からストップがかかるなど問題現象となった。そのような背景をもとに「近代建築思考を尖鋭化していった建築家」として、彼の捉える近代建築思想をヨーロッパ各地で講演した原稿をエッセイ化したものが『装飾と犯罪』である。
「装飾は犯罪である」という過激な文言は、現在でも合理的・機能主義を主張するモダニズムや近代建築を論じるうえで論文や論考で多く引用されている。他にも使用目的に沿った素材と技術との関係について述べている建築論、19世紀のウィーンの人たちの生活や文化(ドイツ工作連盟、ウィーン分離)への批判するような内容もある。20世紀初頭のウィーンを中心としたヨーロッパの文化・生活の様子もロースの視点から知ることができる。

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