【要約と学術的意義】高階秀爾『20世紀美術』ちくま学芸文庫(1993)

(1)要約
高階は『20世紀美術』において、20世紀以降の美術作品は「実験的」であると定義している。かつて20世紀以前の美術作品では、様々な要素が調和し組み合わせられてひとつの秩序を作り出していく世界観に基づいていた。しかし古典主義崩壊以降、統合されていた様々な要素が「分離」し、その要素を「強調」し、芸術作品の「純粋性」を求める傾向にあるという。
一章では「オブジェとイマージュ」と題し、絵画はそもそも三次元であり現実のものであるオブジェを二次元の平面にイマージュとして表現したものと定義し、印象派、キュビズム、ダダ等の作品からオブジェとイマージュの分離を考察する。二章では、「構成と表現」と題して、主題とモチーフの造形性に着目した動向を、抽象表現主義、フォーマリズムの作品から考察。第三章では「新しい芸術」と題し、アンフォルメルやアクションペインティングの展開に分化された様々な要素の統合を試みる特徴を指摘。第四章ではこれまでの流れを踏まえて、1960年代以降のポップアートやオプ・アート、フルクサスなどの作品を考察している。
(2)学術的意義
高階秀爾(1932-)は西洋美術を専門とする美術史家である。本書では20世紀に派生した美術動向と作品の分析を行い、現代美術に受け継がれる「実験的」な要素を考察するものである。これまでに20世紀美術の動向において、グリーンバーグをはじめとした純粋性や自律性については多く論じられてはきたが、「分離」と「強調」という要素からの分析は他に類を見ない論考である。20世紀美術における印象派、キュビズム、ダダ、シュルレアリスム、抽象表現主義、アンフォルメル、アクションペインティングなどのそれぞれ固有の特徴をもつ動向を、「分離」と「強調」という共通した特徴として捉えることができる。
また、多様な表現が溢れる現代美術の多元性を理解するうえでも重要な考察である。20世紀美術における作品の実験性は、発行された93年から現在に至るまで現代美術においては依然として色濃く感じられるからだ。本書における分離と強調の絶え間ない差異化、そして作家それぞれの葛藤と実験性の試み、作家同士の影響によって延長上に現在の美術があることを理解することができる。

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