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世界一小さな芸術祭2023レポート④~石井理加再生への道〜

最近インタビュアーのゴン田中(通称ゴン)とよく会い世界一小さな芸術祭の話をする。私もゴンも公開クリエーションに何度か足を運んでおりそれぞれの進み具合を興味深くみている。
流石、世界一小さな、と銘打っているだけあってこの芸術祭が行われている事を知っている人は私の周りには勿論いない。そして知っている人がいるかどうかも怪しいところだ。ある種の優越感と疎外感を抱きながらも二人で盛り上がるにはもってこいのネタである。

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この日もゴンの家の付近にある私たちの行きつけである高齢の夫婦が昔から営んでいる町中華で話していた。主人と女将さんの気をつかってこない素っ気なさや蒸し鶏ピータンが絶品で、更にあまり客がそんなにいないというのが最高に気に入って、ゴンと会う時は大抵ここになる。顔を赤らめたゴンが生ビールを3杯目注文したところで唐突に

「石井理加さんにインタビューしてみたいんすよねぇ」

と言いだした。インタビューアーの血が騒ぎだしたのか‥でも少しいつもと様子が違う。
石井理加さんというのは世界一小さな芸術祭2023の参加者で、石井理加再生への道というタイトルの元、他のチームとは違い公開クリエーションという形をとらないで、noteに再生していく様子を文章で表現している。


新しい生ビールを勢いよく飲みゴンは続ける。

「どういう人なのか?ちゃんと会って話を聞いてみたいんです!」

ゴンの言わんとしてる事はわかる。ゴンはインタビュアーと名乗っている通り直接その人と向き合う事に重きを置いている。私も彼女の文章をとても興味深く読んでいる。ただ読めば読むほど彼女の様々な傷は私が考えているよりも大きいものだということにも気づく。



ゆっくり自分のペースで再生している最中にインタビューという形は乱暴だと私は感じてゴンに伝えた。ゴンは一気にビールを飲み干し

「僕はインタビュアーですよ、その人に肉薄したいんすよ!」

少し後気を強めに言い張るゴン、やはり様子がおかしい。しかしそれは傲慢だ。インタビューされる側の事を考えていない。肉薄される準備が出来ていなかったらインタビューされることが新たな傷になる可能性を秘めている。

「それはわかってますよ!だから僕だってその辺考えてちゃんとインタビューしますよ!」

苛立ってゴンは新たに頼んだハイボールを思いっきり飲んだ。実はゴンは酒があまり強くない。いつもは2杯位しか飲まないが今日はペースがおかしい。こういう時のゴンはきまって嫌な事が会った時だ。

「DM送って直接依頼します!インタビューさせて下さいって!うん!」

酔っ払った勢いでスマホをいじり始めたので思いっきり制した。彼女のペースで再生しているのに邪魔をするなと。

「どうせケイさんも僕のインタビューは面白くない、芯をくってないって思ってんでしょ、そうでしょ!お前が人の心を開かせられるわけがないって!!」

語気を荒げ、完全に酔っ払ったゴンの目が少し潤んでいる。

「みんな僕のインタビューなんて興味ないんすよ!分かってるよ!でも僕は僕なりにインタビューすることで近づきたいんすよ!だから‥」

また勢いでスマホをいじり始めたのでより力強く制した。投げやりになるなというメッセージを込めて。ゴンの目からみるみる涙が溢れてきて机に突っ伏して泣き始めた、そう泣き上戸なのだ、ゴンは。

他のお客さんはいなく店の主人と女将もテレビを見ている。こうやって放っといてくれるところがこの店の粋なところである。

泣いているゴンに向かって私は石井理加さんにインタビューをしたいゴンの気持ちが強ければ強いほどに自分のペースで再生中の彼女のペースがみだれてしまうという事、そしてその危険性をゆっくり伝えた。あそこまで開示できるだけでも勇気がいることなのでそれ以上踏み込むのは今はやめた方がいいと。そして最後にゴンのインタビューは私は好きだということもちゃんと伝えた。

テレビの音が流れている。どうやらバラエティ番組で様々なお笑い芸人が変わったネタをやっている。狩野英孝がギターで替え歌をやっていて単純に面白かった。

静かになったゴンの方を見ると、いつの間にか起き上がりテレビをみていた。狩野英孝をみて少し微笑んでいる。

店の主人にお会計をお願いしようとしたら

「‥‥ケイさんラーメン頼んでもいいですか?」

私もついでに蒸し鶏ピータンをもう一度頼もうとしたら

「あ、あ〜すいません‥やっぱりラーメン大盛りで‥」

うん、もう大丈夫だ。

酔っ払ったゴンを家まで送り、私は一人、缶チューハイを飲みながら帰途につく。たまには違う道で帰えろうと思い、いつもは通らない道へいく。そこには違った景色がひろがっていた。いつもとは違った景色が。

文 中谷計



チラシデザイン 吉田みずほ



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