西郷

昼間鈍行(6)山陽本線、とりとめナイの回

2019年2月28日
13:20 都内某所

東京は上野で友人と飲んだあと、西郷隆盛から清潔感を司る脳の部位をもぎ取って半年放浪させたみたいな風貌のオヤジが、ハサミで自分の頭髪をジャキジャキと刈りながら目の前を通った時は「ああ、とんでもないところに来てしまった」と上京を嘆いたものだ。生まれたての雛は目の前のものをとかく親と認識するらしいが、上京したてのぼくは目の前の隆盛をとかく都内に多数存在すると誤認した。

またある日、電車で立ってスマホをいじっていたらタダナラヌ気配を感じ、ぼくの第6感が「やばい」と警報を上げた。と言うのも、ぼくの顔とスマホの間に顔を入れてTwitterの画面をギャン見しているひょっこりはん風の男がいるのである。ここまで大胆にスマホの画面を盗み見られたことがなかったのですっかりぼくは気が動転し、「ひょっこりするところ、間違ってますよ…」と視線で伝えてみるが、後頭部のつむじしか見えないから何も伝わる訳も無い。人間のつむじほど無情極まりないパーツはあるまい。「お前の話は一切聞かぬ」という断固たる意識というものを感じる。全国の親御さんは子供が駄々をこねたら、突如として眼前につむじを見せ、無言でじっとしたら良い。

左様か、と仕方なくぼくは開いていたTwitterをそっと閉じ、作戦を変えることにした。覗き見るのはスマホの画面に面白そうなものが表示されているからだ。ぼくはそう思うと、スマホに映るGoogleの検索画面に「社会契約論」と入力した。さっきまでどこぞのアカウントが投稿していた猫動画などが流れていた画面には、今やひたすらルソーの政治哲学が書き連ねられている。「クリスマスプレゼントだ」と渡された袋をワクワクで開けたら児童書が入っていた時の絶望感に近かろう。あ、これはぼくの実体験です。(10才)

もはや模様か何かにしか見えないWikipediaの画面を延々と垂れ流し続けること3分、彼はついにひょっこりを諦め、竹橋の駅に消えていった。

とまぁこのように見てきた不思議な人を挙げれば実際キリがないだろうが、人間というものは結局グラデーションなのだから、目くそ鼻くそを笑う鎖から脱することなどできるはずもない。せいぜい目くそと鼻くそが握手できたら万々歳と言うべきだろう。

何が言いたかったかと言うと、山陽本線車内のボックス席で、一心不乱に小さな手帳にびっしりと文字を書いている男の横には気味わるがって誰も座らないということだ。さっきも50代くらいのご婦人が、ちらりとこちらをのぞいたかと思ったらどこかえ消えてしまった。ぼくは孤独な鼻くそである。

(鼻くそばかりのnoteでごめんなさい。)

2015年8月19日
13:11 山陽本線 車両

下関では壇ノ浦を見学した後、日清戦争の講和条約である下関条約を締結した料亭を見学した。正確には、料亭に隣接している資料館を見学した。つくづく歴史的事件に何かと縁のある土地である。ただ、乗ろうと思っていた電車までの時間があまりなかったのと、後から入ってきた中国人観光客団体の暴力的ショッキングカラーの服装に気圧され、早々に資料館を後にしていた。

今は、広島県は厳島神社に向かうべく山陽本線に乗って暇を潰している。厳島神社のある宮島までのフェリーがでる宮島口駅まで、おおよそ2時間程度電車に揺られていかねばならない。

もちろん教科書でしか見たことのない海上に浮かぶ美しい鳥居や神社を自分の目で見てみたかった、というのもあるが、せっかく壇ノ浦に行ったのだから、時代を少し遡って平家最盛期の遺構を見にいくのもオツだと思った。それに青春18切符があれば宮島までのフェリーに乗ることができるから、活用しない手はなかった。

山陽本線は福岡県北九州市門司駅から兵庫県神戸市神戸駅をつなぐ路線である。中国地方の瀬戸内海側を通ると聞いていたので、行きのフェリーで見られなかった島々溢れる瀬戸内の海を見られると期待に胸を膨らませていたものの、下関を出てからというものひたすら陸地の上をガタゴトとやっており、なんだか地元に走る八高線沿線の景色を思い出した。

ちなみに、中国地方日本海側を通る路線は山陰本線と呼ばれている。陰と陽の2線が中国地方の代表的な鉄道路線と言うのはなんとも洒落た名称で、いい年をして中二心をくすぐられる。14歳の男子は「陰陽」の字面が大好きだ。なんか強そうだもん。

しばらく走ると昼間だというのに乗客は数える程度となり、駅も無人駅が増えていった。特にやることもないので、停車中は無人駅ホームに敷かれた砂利の数を数えてみたりする。人間、暇が高じると何をしでかすか分かったものではない。砂利を数えるなどという空虚な行為に及んだのは後にも先にもこれっきりである。とは言え砂利数えも3駅目となった時、流石にこの状態が残り1時間弱も続くと気づき、気が狂いそうになったのでこうしてメモに一心不乱に文字を書き綴るに至った。

そういえば、まだ今晩の宿を取っていないことに気づいた。バッテリーを節約するため電源を切っていたスマートフォンをカバンから取り出し、広島市内で今日泊まれるところを探す。金も無いのでカプセルホテルなどを泊まり継ごうと思っていたが、今日くらいはベッドで大の字になって寝たいと思って一泊5,000円くらいのビジネスホテルを予約した。エンジンの振動のない夜が待っている。

暇に加えて今朝5時起きだったのもあって、急に眠気に襲われた。しばらく寝ても問題ない程、目的地はまだ遠い。

ぼくはメモを閉じ、眠ることにした。山陽本線の揺れが、妙に心地良かった。

***

(目が点になった。)



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