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子の日本語で、人の出世をジャマしたかもしれない話

やはり言語というものは、
日常に溶け込んでこそ体をなしていくものだとつくづく思う。

うちの娘は生後9ヶ月で日本を離れて、
息子はイギリス生まれ。

日本で生活をしたことがない。

だから、いくら日本語を机上で教えても、
人に接しないとわからない事もある。

例えば、『敬称』。

日本語の場合、呼び捨ては失礼。
お友達には「ちゃん」、
大人には「さん」をつけなさい。
でもお手紙は「」やな。

「母さんと母ちゃんの違いは?」

んー、mumとmummyくらいの差かな。
でも他所よそでは「うちの母が」と言いなさい。

とまぁ、
勉強としてではなく、実際にその時々で言われた方が、ピンとくるようである。

だから、日本人の集まりには極力顔を出し、
自宅にも招いたりしていた。



イギリス在住の日本人ママ友


学者さんもいれば、
大学勤務のサバティカルで短期滞在の人、
研究にきた女医さんもいて、
店を開いた人もいる。

英国貴族に嫁ぎにきた人もいれば、
ペンキ屋さんに嫁いだ人もいる。

「思いきって買っちゃった」トカゲ皮だか、ヘビ皮だかのスカートが、うちの中古車と同じ値段だった、日本企業の駐在奥さんもいれば、普通の生活をされている駐在奥さんもいた。

境遇は違えど、『日本人』をくくりとし、
浅くも深くも、いろんな人とお付き合いした。


そういえば昔、日本人の集りで誰かが、
某日本企業の駐在帯同たいどう妻会のことを話していた。

「夫の役職の順に座る。
下から2番目の奥様はエプロンを持参。
トップの奥様が独り言で『イタリアンが食べたいわー』なんてつぶやこうものなら、すぐにそのエプロン組が手配するのよー」

そう聞いて当時は震えたが、
本当にそんな世界があったのだろうか。



駐在家族とのBBQ


家族ぐるみで1番仲良くしていた駐在ママ宅にBBQに呼ばれた時のこと。

当時、息子は3歳、娘が9歳くらいだったか。


お宅に到着し庭に回ると、

渋いおじさまがデッキチェアーで、
ゆったりワインを飲んでいた。

そして、そのおじさまを囲むように、男性が10人ほど立っている。

前回の飲み会で、猿の全身タイツを着ていたママ友のご主人が、ピンクのポロシャツのえりなんか立てて気取っている。

同じく前回カッパのタイツを着ていた駐在のお仲間達も、「はっはっ」とやたら大げさに笑っていたが、目が笑っていない。

そして、どんな人にも関西弁で突っ込むあのママ友が、変な標準語で料理をすすめていた。


な、何事や…

聞くと、本社から出張でこられた役員さんをこのBBQに招いてみたら、なんと来てくださり、みんな心の底からからビビっている、と。


そう言われて、そのおじさまを再度見ると、
名だたる大企業の役員というだけあって、
オーラがビロビロに出ていた。


「帰るわ」

と引き返そうとすると、

「いやいやいや。アンタらみたいな賑やかな家族がおった方がいいねん。しんどいねん。頼む!」と言うママ友。

えー…


「あ、ただ。アンタんとこの息子は気をつけてな。自由人やから」

前回、テンションが上がった息子がタンバリンを頭にかぶって抜けなくなり、
救急騒ぎになったことを言っている。


大丈夫です、私が見ていますからと、
娘が親指を立てた。


しょうがない。

腹をくくって家族でビロビロオーラに挨拶に行った。

そのおじさまは、丁寧な口調で穏やかながらも、眼光が鋭く、軽口を許さない空気をまとっていた。

なんだか、えらいロイヤル感…




「そうだ。これ召し上がりませんか」

役員さんは、高級そうなマカロンを差し出してくださった。

それをおずおずと、一つ取り
「…(あり)がと」

と言った息子。


すると娘がすかさず、

「あ、息子くん。『ございます』でしょ?
『ありがとうございます』と言いなさい。
お母さんにいつも言われているでしょう?」


私は、うんうんと笑顔で頷く。

日本語はきちんと教えておりますの。
オホホホと胸中で高らかに笑った。


すると娘が続けて、

「ほら!
おっさんにありがとうございますって。

ほら早く、おっさんに言いなさい


娘は凛として、

「おっさん。どうもありがとうございます」

と、深々とお辞儀をしながら言った。


それを、顔面蒼白の私と、

白目の友人夫婦とその部下達、

そして、涙を流しながら手を叩いて大爆笑している夫と、


三者三様で見つめていた、初夏の昼下がり。

時が止まったような気がした。


さん」はついてたけれども、娘よ…

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