マガジンのカバー画像

エッセイ

45
今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。
運営しているクリエイター

#芸人

「帰省」

「帰省」

もうどれくらいライブに出ていなかっただろう。舞台に立つ感覚が鈍っているというよりも、自分が舞台に立っていたことが想像できないような感覚だった。
中学時代からの友人が、地元の寝屋川で開催する朗読ライブにゲストという形で声をかけてくれたのだが、必要なものは全部分かっているのにそれが一つも手の中に無いような心理状況で、何から始めればいいのか順番さえ選べずにいた。

だからといって感覚を戻すために、

もっとみる
「ナンパの極意」

「ナンパの極意」

東京では梅雨明けが宣言され、いよいよ夏も本番を迎えようとしている。花火大会も、夏祭りも、海開きも、制限を設けないのは4年ぶりとなり、コロナ禍という未曾有の事態を乗り越えて迎える夏は、きっと上昇を続ける気温と共に熱狂的な季節になるのではないだろうか。
BARの営業終わりに恵比寿の駅前を歩いていても、そこら中を飛び交う声がいつもより軽やかで高らかに響いている気がした。女性達は露出度の高い装いでステ

もっとみる
「怪談みたいな・・」

「怪談みたいな・・」

僕がバーテンとして立つ店までは家から電車で二駅分あるのだが、雨が降ってるとか荷物が多いなど、特別な理由がない限りはなるべく歩いて行くように心掛けている。徒歩で四十分以上かかるが運動を目的とした場合はそれぐらいが丁度いい。

先日いつものように家を出発し、BARの最寄にあたる二つ目の駅近くの横断歩道を渡っていると、向かって来る人波の中から「難波さん!」と声をかけられた。顔を上げると昔ライブで一緒

もっとみる
「放物線」

「放物線」

思いがけぬ展開で始まった学童生活だったけれど、それは僕が想像していたような最悪なものではなく、とても楽しい時間になった。
学童には同級生の児童ばかりではなく、四年生や五年生という年上の児童が数人通っていて、とくに二つ上のシモッコと、三つ上のフジイ君は、僕を弟のように可愛がってくれた。

いま思えば、きっと二人が僕のわがままを聞いてくれていただけなのだが、同じ歳の児童よりも、僕の言っているこ

もっとみる