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絶対写真論ー解説

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自身初の書籍「絶対写真論ーアルゴリズム・オブジェクトとしての写真へ」について、各チャプター毎に本書を紐解いていきます。
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【絶対写真論】アフターワード

【絶対写真論】アフターワード

このあとがきは本書のみであり、修士論文時には記していない内容である。それは、本書を書くに至った「動機」の部分を書いておきたいと思い、書籍化するにあたって追加した章だ。

いまでこそ、写真は撮る必要はないとまで言い切るまでになっているが、実のところかつて私は写真専門学校に通っていたことがある。

時は2005年。就職する気もなくとりあえず当時の学部(理学部)→大学院へと進んではみたものの、また1年後

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【絶対写真論】Chapter11 エピローグ

【絶対写真論】Chapter11 エピローグ

本章は本書のまとめであるとともに、今後の展望を示している。まずはこれまで提示してきた「絶対」とは何をもってして「絶対」と述べたのかを明言している。

参照としたのはカジミール・マレーヴィチが提唱した『シュプレマティズム(絶対主義)』である。

マレーヴッチの作品は抽象表現主義の先駆けとして世間一般的には位置付けられてはいるが、実際のところマレーヴィチが目指していたのは抽象表現なのではない。

彼が

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【絶対写真論】Chapter10 リカーシブ・コール

【絶対写真論】Chapter10 リカーシブ・コール

リカーシブ・コール(Recursive Call)とは再帰呼び出しと呼ばれるプログラム処理のひとつであり、呼び出された関数のなかで再度自身の関数を呼び出すものである。

なかでもフラクタル図形と呼ばれる、繰り返し同じ図形が延々とループする幾何学的な関数がある。その大半はフランスの数学者ブノア・マンデルブロによって理論化されている。

本章で示した写真は撮影はおろか、元となる画像データさえも使用して

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【絶対写真論】Chapter9 レラティビティー

【絶対写真論】Chapter9 レラティビティー

本章では、これまで美術史やアート史において幾度となく取り上げられてきた「時間」をテーマにして制作を行うということが目的としてあった。

写真においてもシャッタースピードや表象するイメージなど、時間の概念は切り離すことができない重要なパラメータのひとつである。

しかし、そもそもが時間に対する誤解が生じているのである。

時間とは過去→現在→未来といったように、一方向にのみ進むものとして信じられてい

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【絶対写真論】Chapter8 Truth / Lies

【絶対写真論】Chapter8 Truth / Lies

真実(Truth)と虚偽(Lies)。

photographが「写真」と邦訳されたことによって、写真とは真実を写すものであると今なお信じられている傾向が強い。

写真とはその語源のように「光で(photo-)」「描く(-graph)」技術なのであり、制作者によって創造される「イメージ」にしかすぎない。

そのため、撮影者の心情や思いなどの感情は写真には表象しない。写真をみて何かを想起するのは、鑑

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【絶対写真論】Chapter7 デジタライゼーション

【絶対写真論】Chapter7 デジタライゼーション

レンズから入光した情報をイメージセンサーで電子変換し、装置が認識可能な電気信号に翻訳する。デジタルカメラは実空間の情報を文字通りデジタル化することによって、最終的な画像を生成している。

その際たる分野が天文写真である。宇宙望遠鏡によって得られた数値情報を分析(解析)することによって、われわれが目にする宇宙の壮大な写真を生成している。

ただし、表層する色彩は数値変換アルゴリズムによって得られた結

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【絶対写真論】Chapter6 オートマチゼーション

【絶対写真論】Chapter6 オートマチゼーション

本章では、ある写真共有サービスに焦点を当て、現代における写真表現の動向を探っている。

着目したのは「ファウンド・フォト」。主に撮影者が撮影した写真ではなく、蚤の市などで売られているアマチュアが撮影した写真を利用する。制作者はこうした写真を編集することによって新たなコンテクストを与えて提示する、写真表現のひとつである。

ファウンド・フォトという呼称の起源は今も明らかになってはいないが、研究を進め

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【絶対写真論】Chapter5 トランス・ディメンション

【絶対写真論】Chapter5 トランス・ディメンション

本章では、写真における「次元」について考察している。これは、M1のときに研究していた次元を踏襲した内容となっている。

芸術と次元との関係性。ルネサンス期における正確な線遠近法による3次元空間の2次元(平面)化から、キュビスム・未来派による4次元の表現。絵画のキャンバスという平面上で、いかに次元表現を拡張できるかが、これまで追求されてきた。

この芸術と次元とのコンテクストを踏襲し、さらなる高次で

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【絶対写真論】Chapter4 マルチ・レイヤー

【絶対写真論】Chapter4 マルチ・レイヤー

写真におけるレイヤーとは。馴染みがあるのは、Photoshopなどを用いる際、元画像の上にトーンカーブやレベル補正といった調整レイヤーを重ねていき、最終的にレイヤーを結合することによって1枚の「写真となる」。

銀塩写真におけるフィルムは、フィルムベース層を基底に、ハレーション防止層、乳剤層、保護層といった複数の層によって構成されている。

印画紙も同様に、ベース材(紙)の上に吸着層や光沢層などの

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【絶対写真論】Chapter3 デジタル・ディスラプション

【絶対写真論】Chapter3 デジタル・ディスラプション

デジタル・ディスラプションとは「創造的破壊」と呼ばれる現象で、デジタル化によって既存のシステムが破壊され、新たなシステムが創造される現象を指す。

まず取り上げたのは「自炊」、すなわち書籍のデジタル化である。効率よくデジタル化するためには物理的な「破壊」、つまり書籍を裁断することによってデジタルデータが獲得可能である。

では、写真のデータはどのような「創造的破壊」が行われているのであろうか。本章

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【絶対写真論】Chapter2 オリジナリティ

【絶対写真論】Chapter2 オリジナリティ

この章で着目したのは、オリジナル性である。

アートにおいて、いまやありとあらゆる表現はやりつくされている、という前提がある。それでもなお、アートにおいてオリジナリティ(独創性)が問われてはいるが、現代においてのオリジナリティとは同様の表現(方法)であったとしても、アーティストの「解釈」が独創的かどうかが問われている。

キー・パーソンはやはり、マルセル・デュシャンであろう。美術から芸術へとシフト

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【絶対写真論】Chapter1 プロローグ

【絶対写真論】Chapter1 プロローグ

本章の序論、すなわちこの本の方向性を決める内容としてなにが適切かと考えた。

1番のキモは「写真」である。語源は「光で(photo-)」「描く(-graph)」=「photograph」を、「写真」と邦訳されたことが諸悪の根源である。

江戸時代の蘭学者大槻玄沢は「蘭説弁感」(1788)で、カメラ・オブスクラを「写真鏡」と邦訳した。
(参考:吉本秀之「日本におけるカメラ・オブスクラ=写真鏡」)
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