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【絶対写真論】Chapter9 レラティビティー

本章では、これまで美術史やアート史において幾度となく取り上げられてきた「時間」をテーマにして制作を行うということが目的としてあった。

写真においてもシャッタースピードや表象するイメージなど、時間の概念は切り離すことができない重要なパラメータのひとつである。

しかし、そもそもが時間に対する誤解が生じているのである。

時間とは過去→現在→未来といったように、一方向にのみ進むものとして信じられているが、量子レベルでは時間は退行する(逆戻りする)ことが実験によって観測されている(参照:https://www.nature.com/articles/s41598-019-40765-6.pdf)。

また、時間とは一定の間隔で経過していると信じられてはいるが、僅かな高低差が生じていることによって、時間経過に差が生じることをも実験によって明らかにされているのである(参照:https://www.wired.com/2010/09/ordinary-relativity/)。

つまり、時間は一方向でも、一定に進むものでもないのである。これは、物理の法則における時間パラメータ「t」とは、進行(+t)も退行(-t)もどちらの場合においても成り立つのだ。


では、こうした時間の経過を可視化するにはどのようにしたらよいだろうか、と私は考えた。小学校のときに習う「はじき」。速度=距離/時間。移動距離を経過時間で除することによって、その速度が分かる。

そこで、身近な事象でありながら普段気付きはしないことはなにであろうと考えたときに行き着いたのが、地球の自転であった。これは、私が大学学部時代の専攻が地球科学(≒地学)であったことが大きい。

地球の自転とは、赤道直下においておおよそ460m/secの速度で反時計回りに回転している。1秒間に460m、これは音速(約330m/sec)よりもはるかに速い速度で回転しているにも関わらず、われわれはその速さを実感することはない。それは、われわれもまた地球上に存在し、同じ速さで移動しているからにほかならいからである。

だとすれば、宇宙空間から地球の自転をみたらどのようになるであろうか。ここから先はイメージの世界である。

地球の周回にある人工衛星に搭載されたカメラを用いて、シャッタースピード1秒にセットして、写真を撮影したとする。シャッターが開いている間に地球は460m移動するので、超高速ですべてのものが流れていくのではないのであろうか。

これは新幹線に乗り、外の景色を低速のシャッタースピードで撮影したことによって得られるイメージに近い。ただし、ただ新幹線に乗って撮ったところで、撮影することによって実世界の時間経過を表すだけにしかすぎず、はっきり言ってつまらない。

だからこそ、私はイメージした状況を創造し、写真となるためのアルゴリズムを構築することによって、本章のシリーズ《Velocity=Distance/Time》を制作したのである。そのため、表象するイメージは実世界に存在する必要はなく、それは単なる記号(=コード)にしかすぎない。


写真やアート作品を鑑賞することによって、それがなにを表しているのか、その意味とは何かといった、表層の理解をしようとするのはほかでもない鑑賞者自身であって、写真に表象するイメージは本来特定の意味など存在しないのである。


2022/09/23~2022/10/16まで、東京都文京区の現代アートギャラリーaaploitにて、本書の実践の場である展示『Absolute Photographs』を開催しています。

本章の作品の実物をご覧いただけますので、お時間ございましたらお立ちよりいただければ幸いです。


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