宮津大蔵
桐蔭横浜大学の選手たちを応援するメディアです。
プロローグ 2019年(平成31年)@武道館 今夜は、記念すべき還暦記念コンサートだ。 そして、舞台は東京ドームではなく、やはりここ武道館でなければならなかった。 …
昭和41年(1966年)~@金沢 大和デパートの地下食料品売り場。 回るお菓子売り場の傍で明は目を輝かせていた。 「どれと、どれと、どれにしよう?」 彼はこのお菓子売り場…
昭和41年(1966年)~@金沢 「あーあー、プール入りたかったなぁ」 ため息をつく博臣の側で、明はどう返答してよいか迷っていた。 実は、明はプールには入りたくなかったの…
昭和41年(1966年)~@金沢 「お母さん、ちょっとお買いものしてくるからね。ここで待っててね」 明の母親は近所の行きつけの喫茶店で、顔見知りのウエイトレスに 「すみま…
昭和41年(1966年)@金沢 「アキはね、ランドセルは黄色がいいの」 明は泣きべそをかいていた。 ランドセルの色が「男の子は黒」と決まっているのが、どうしようもなく嫌だ…
昭和40年(1965年)@金沢 由美も明も博臣の家で遊ぶのが楽しみだった。 二人とも口うるさい博臣の母親が苦手だったのだが、それでも彼の家に行きたかったのは、博臣の家に…
昭和40年(1965年)秋 @金沢(卯辰山)ヘルスセンター2 由美の母親が頑なに大浴場に行こうとしないので、明と博臣の母親もひとまず浴場行きを断念した。 「あらあ、アメリ…
昭和40年(1965年)秋 @金沢(卯辰山)ヘルスセンター2 「御三家の中では、誰が一番好きやの?私はね、やっぱり橋君かなあ」 博臣の母親は横座りのまま、心底リラックスし…
昭和40年(1965年)秋 3人@金沢(卯辰山)ヘルスセンター 金沢市の北東に「卯辰山(うたつやま)」という標高140メートルほどの山がある。 金沢城から見て、東(卯辰)の方角…
岡 明日香 桐蔭横浜大学女子柔道部監督 「階級を変えるのは、とても大変なことなのです」 桐蔭横浜大学女子柔道部監督、岡明日香氏は、穏やかに語った。 2018年9月。女子…
昭和40年(1965年)秋 3人@金沢 どういう理由か、由美の母親は、お風呂屋さんに3人を連れて行こうとはしなかった。 明も博臣も、由美の母親とお風呂屋さんに行きたいと願っ…
昭和40年(1965年)夏 3人@金沢 「あー、3人とも汗びっしょりやね。……ほうや、お風呂屋さん行ってくるか?お父さん、悪いけど連れてってくれる?」 麦わら帽子をかぶ…
5.1964年(昭和39年)4月11日~ 明 @金沢 明は、テレビ漫画の主題歌と同じくらいお菓子も好きだった。 特に好きだったのは、「ケンキャラメル」。 狼少年…
4.1965年(昭和39年)4月11日~ 明 @金沢 由美に手を引かれて走りながら、明は恍惚とした表情を浮かべていた。 以前、隠密剣士の大瀬康一演ずる新太郎が悪…
廣川 充志 桐蔭横浜大学専任講師 桐蔭横浜大学柔道部監督 「それでは、実際に採血をしてもらいましょう……。誰か代表してやってみたい人?」 科学系実習室に、廣川専…
3.1964年(昭和39年)由美 @金沢 「うわっ、カレーライスだ!」 食卓のお皿を見て、由美は心の中で悲鳴を上げた。 彼女は、カレーライスが大っ嫌いなのだ。 カ…
2019年1月5日 08:00
プロローグ2019年(平成31年)@武道館 今夜は、記念すべき還暦記念コンサートだ。そして、舞台は東京ドームではなく、やはりここ武道館でなければならなかった。 「みんな、どうもありがとう。次はね、遥か昔の歌を歌うよ。もうすぐ平成も終わっちゃうけど、それよりも昔の曲だよ。みんな昭和って知っているかな?」大歓声と共に、会場が笑いの渦に包み込まれる。時折、鋭い口笛も交じる。「昭和生まれの人
2020年9月24日 11:47
昭和41年(1966年)~@金沢大和デパートの地下食料品売り場。回るお菓子売り場の傍で明は目を輝かせていた。「どれと、どれと、どれにしよう?」彼はこのお菓子売り場の量り売りコーナーが大好きだった。色とりどりのキャンディーやチョコレートが目の前を流れていくのに、つい目を奪われてしまう。おとぎ話に出てくる「お菓子の家」があったら、実際に住んでみたいと思うくらい明はお菓子が大好きで、それは
2020年6月2日 18:25
昭和41年(1966年)~@金沢「あーあー、プール入りたかったなぁ」ため息をつく博臣の側で、明はどう返答してよいか迷っていた。実は、明はプールには入りたくなかったのだ。「海水パンツ一丁」(こういう言い方が明の周りでは一般的だった)で、こんな陽光の下にさらされるなんて、恥ずかしすぎると思っていた。二人とも左肩にBCG接種の跡がくっきりと浮き出ていた。BCG接種の事を、当時、「ハンコ注
2020年3月24日 15:45
昭和41年(1966年)~@金沢「お母さん、ちょっとお買いものしてくるからね。ここで待っててね」明の母親は近所の行きつけの喫茶店で、顔見知りのウエイトレスに「すみません。よろしくお願いいたします」と明のことを頼んで、自分だけ買い物に出かけた。「はい。ごゆっくり」愛想良く応じたそのウエイトレスは、「アキちゃん、何にする?」とにっこりと笑いかけた。男の子なのに髪をおかっぱにして愛く
2020年2月13日 01:14
昭和41年(1966年)@金沢「アキはね、ランドセルは黄色がいいの」明は泣きべそをかいていた。ランドセルの色が「男の子は黒」と決まっているのが、どうしようもなく嫌だったのだ。「ほら、交通安全のカバー、黄色だから」母親がなぐさめてくれたが、そういう問題ではなかった。続けて母親は「せっかくお父さんがアキの入学のお祝いに買ってくれたんだから、そんな我儘言わないで」と懇願するように言
2019年11月23日 22:12
昭和40年(1965年)@金沢由美も明も博臣の家で遊ぶのが楽しみだった。二人とも口うるさい博臣の母親が苦手だったのだが、それでも彼の家に行きたかったのは、博臣の家には、小学館の雑誌「小学一年生」が揃っていたからである。由美の家にも明の家にも「めばえ」、「よいこ」、「キンダーブック」など年齢相応の雑誌はあったのだが、教育熱心な博臣の家では、博臣が幼稚園の年長さんになるとすぐに「小学一年生」を
2019年9月23日 23:08
昭和40年(1965年)秋 @金沢(卯辰山)ヘルスセンター2由美の母親が頑なに大浴場に行こうとしないので、明と博臣の母親もひとまず浴場行きを断念した。「あらあ、アメリカばっかやないですよ~。フランスの歌も好きですよ。『夢見るシャンソン人形』の弘田三枝子ちゃんなんかいいわぁ」明の母親が雰囲気を和らげるように、やんわりと語り出す。キレイに整えられた明の母親のセシルカットを眺めながら、由美の
2019年9月9日 03:16
昭和40年(1965年)秋 @金沢(卯辰山)ヘルスセンター2「御三家の中では、誰が一番好きやの?私はね、やっぱり橋君かなあ」博臣の母親は横座りのまま、心底リラックスして切り出した。彼女たちのママ友女子会は、いつもこんな風に始まる。「そういえば、橋君、金沢観光会館で切りつけられたやろ?ほんまに無事でよかったわぁ。橋君、ずっとボクシングやっとったやろ?そやから素手で刀防げたんやな。やっぱイカ
2019年8月13日 22:05
昭和40年(1965年)秋 3人@金沢(卯辰山)ヘルスセンター金沢市の北東に「卯辰山(うたつやま)」という標高140メートルほどの山がある。金沢城から見て、東(卯辰)の方角にあるからそのように命名されたという。その卯辰山の山頂付近に、以前、「金沢ヘルスセンター」という娯楽施設があった。(1958年開業/1982年「金沢サニーランド」に改称/1993年閉鎖)ここは、長きにわたって金沢市民
2019年7月29日 01:40
岡 明日香 桐蔭横浜大学女子柔道部監督「階級を変えるのは、とても大変なことなのです」桐蔭横浜大学女子柔道部監督、岡明日香氏は、穏やかに語った。2018年9月。女子学生体重別選手権70㎏級で、桐蔭横浜大学が上位3位を独占した。その結果を知って、実力のある選手を、それぞれ違う階級に分散した方が、優勝者が増えるのではないかと単純に思い、岡監督に「もったいなくはないですか?」と素朴な疑問をぶ
2019年7月13日 02:46
昭和40年(1965年)秋 3人@金沢どういう理由か、由美の母親は、お風呂屋さんに3人を連れて行こうとはしなかった。明も博臣も、由美の母親とお風呂屋さんに行きたいと願っていたが、一向に、その願いが叶えられることはなかった。その代わり、当時、金沢片町にあったデパートの「大和」に、3人をよく連れて行ってくれた。「大和」に行く時には、よそいきの洋服を着られるので3人とも嬉しかった。由美の母親
2019年5月21日 12:49
昭和40年(1965年)夏 3人@金沢「あー、3人とも汗びっしょりやね。……ほうや、お風呂屋さん行ってくるか?お父さん、悪いけど連れてってくれる?」麦わら帽子をかぶって、捕虫網と虫かごを持った博臣と明と由美は、犬みたいに舌を突き出して、ハアハア言いながらもニコニコしていた。虫かごの中で、この日の収穫である油ゼミがジージーやかましく鳴いている。博臣と明はランニングシャツにサンダル、由美はシ
2019年4月5日 12:32
5.1964年(昭和39年)4月11日~ 明 @金沢明は、テレビ漫画の主題歌と同じくらいお菓子も好きだった。特に好きだったのは、「ケンキャラメル」。狼少年ケンとキャラメルという最強の組み合わせ。「ケンキャラメル」のおまけがまた楽しみだった。キャラクターのコロコロ人形。テレビのコマーシャルをみてすぐに買ってもらった。ケンの人形、大当たり!初めて買ったケンキャラメルでケンが当たるな
2019年3月31日 21:59
4.1965年(昭和39年)4月11日~ 明 @金沢由美に手を引かれて走りながら、明は恍惚とした表情を浮かべていた。以前、隠密剣士の大瀬康一演ずる新太郎が悪者に捕えられ、「縄目の恥」を受けているシーンを観たことがある。その時、明は「いいなあ。自分もあんな風に悪者に捕まってみたいなあ」という気持ちになったのを思い出した。どうせなら、さっき由美が自分を助け出す際に、刀で縄目をぷっつり切ってく
2019年3月10日 10:43
廣川 充志 桐蔭横浜大学専任講師桐蔭横浜大学柔道部監督「それでは、実際に採血をしてもらいましょう……。誰か代表してやってみたい人?」科学系実習室に、廣川専任講師の柔らかみのある落ち着いた声が響く。この日の「運動処方論」の講義は、桐蔭横浜大学の専任教員たちの授業参観日でもあった。時にユーモアを交えた彼の穏やかな口調は最後まで変わることなく、講義の時間は楽しく充実したものになった。参
2019年1月29日 02:07
3.1964年(昭和39年)由美 @金沢「うわっ、カレーライスだ!」食卓のお皿を見て、由美は心の中で悲鳴を上げた。彼女は、カレーライスが大っ嫌いなのだ。カレールーの味そのものは好きで、ルーを舐めると「美味しい!」と思う。白いご飯も好きだ。特に、ご飯にお塩を振って食べるが好みだった。しかし、白いご飯を黄色いカレーが汚しているのは許せない。由美がためらっているって「お母さんのカレーは