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遅れてきたGS(グループサウンズ)11 ~昭和グラフィティ~

昭和40年(1965年)@金沢

由美も明も博臣の家で遊ぶのが楽しみだった。
二人とも口うるさい博臣の母親が苦手だったのだが、それでも彼の家に行きたかったのは、博臣の家には、小学館の雑誌「小学一年生」が揃っていたからである。
由美の家にも明の家にも「めばえ」、「よいこ」、「キンダーブック」など年齢相応の雑誌はあったのだが、教育熱心な博臣の家では、博臣が幼稚園の年長さんになるとすぐに「小学一年生」をとり始めていたのだ。(当時、定期購読のことをとよく「とる」と言っていた)

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博臣の母親は、何でも早め早めに与えておくことが、子どもの成長のためにアドバンテージになると思っていたのだ。
三人が一番楽しみにしていたのは、「おそ松くん」の連載だった。彼らの「おそ松くん」との出会いは少年サンデーではなく、小学一年生だったのだ。

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最初に、「おそ松、一松、カラ松、チョロ松、トド松、十四松」という六つ子の名前を憶えてソラで言えるようになったのは博臣だった。
「この子がおそ松君。だって一番左にいるでしょ。十四松は最後に呼ばれるからこの子、それから…」
博臣は知ったかぶりをして、指差しながら六つ子の説明をしていた。明はふんふん言いながら感心して聞いていたが、由美は
「どの子もおんなじだっつの!」
と心の中で毒づいていた。

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由美はおそ松くんに出てくるキャラクターの中では、チビ太が一番好きだった。
親がいなくて、一人で土管の中で生活しているところがイカすし、どんな目にあってもへこたれないのが、逞しくていいなあと思っていたのだ。
(アキにもヒロ君にも、土管で寝るなんて無理だろうな)
と内心由美は思っていた。
(こいつら腕白じゃないからな。弱っちいもんなぁ)
と眺めていたら、ん?という顔で二人ともこちらを振り返ったのでつい大爆笑してしまい、怪訝な顔をされた。
(そう言えば、この前ヒロ君に冗談で、「あんたなんかどうせ橋の下で拾われた子でしょ」と言ったら「なんで知ってるの~」って泣かせちゃったっけ。きっとヒロ君、叱られたときにお母さんからそう言われてるんだな。馬鹿だねえ。私達三人共、同じ日に同じ病院で産まれたって聞かされてるのに。ホント馬鹿だねえ。ケケッ)
由美はチビ太の真似をして「ケケッ」と笑うので、母親から「意地悪そうに見えるから、それ、やめなさい」とよく叱られていたものの、「私、意地悪だからいいも~ん」と心の中で呟いていた。
モノマネと言えば、由美はチビ太がよく歌う
(へいにらくがき カミクケコ~♪おでんにクシをサシスセソ~♪)の歌に、勝手な節をつけてよく歌っていた。
そして、塀をみつけると、よく「へのへのもへじ」を描いた。

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それから由美が執着したのは、「チビ太のおでん」だった。
当時、金沢では串に刺したおでんは見つけることが出来なかった。
ようやく見つけた串刺しのおでんは、お祭りの露天商が売っていた「みそ田楽」だった。
それを見て、すごくがっかりしたことを後年になっても由美は覚えている。
どこに行っても串に三つ刺したおでんはないので、由美は母親に
「チビ太のおでん、作って」
と頼んだことがある。母親はどれどれと絵を眺めて
「上の三角は何?はんぺんかな?…四角を三角に切ればいいか…で、次の丸いのは、たまご?下の穴が空いているのは、竹輪?ちくわぶ?」
と言いながら、それらしく串に刺してくれた。
うわぁー、チビ太のおでんだ!と喜んだのも束の間、たまごがくずれ、下に落ちてしまった。
あわてて上のはんぺんにかぶりつくが、残りも同じように落ちてしまった。
竹輪も同じで、とうとう全部の具材が落ちてしまった。
「あ~あ、おでんなんて串に刺して食べるもんやないわぁ。由美、これは、マンガやし、本当のことやない。串に刺したおでんなんてマンガの世界だけやゎ」
すごくがっかりして、涙が出そうになった。でもチビ太はこんなことで泣いたりしないと必死に泣くのをこらえる由美だった。
実は、由美はチビ太が大泣きする巻を博臣の「小学一年生」で読んだことがある。忘れもしない正月号だった。
トト子が「お年玉いくらもらった?」とハタ坊に聞くと、「百円だジョー」とハタ坊が答える。続けてトト子が「私も百円よ」と答え、同じ質問をチビ太にする。
チビ太は涙をこぼし、「ぼく、お年玉落としちゃったぁ~」と大泣きするのである。
大泣きするチビ太に、由美は衝撃を受けた。そして、自分も含めて子どものお年玉の額は日本全国百円なんだと思い込んだのである。

明は、相変わらずのサブキャラ好きだった。
中でも好きだったのは、ハタ坊だった。

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ともかく似顔絵が描きやすかったのだ。「ハタ坊だジョー」と言いながら、明は何枚も何枚も広告の裏にハタ坊の絵を描き続けた。

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デカパンも好きでよく描いた。パンツの縦じま模様も「1.2.3……」と数えながら正確に描いていた。
ハタ坊もデカパンもあまり小さいことを気にしない、おおらかな性格っぽいところも気に入っていた。

三人ともイヤミはキャラクターとしては嫌いだった。
しかし、シェーの魅力には勝てなかった。
三人だけではなかった。

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あんな人も

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こんな人も

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こんな方まで

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みんなみんなシェーをしていたのだ。

(文 宮津 大蔵 / 編集・校正 伊藤万里 / デザイン 野口千紘 )
*この物語はフィクションであり、実在する人物、団体、事件等とは一切関係ありません。
 
*以下の方々に、写真・エピソード・情報・アドバイス等提供いただいて「遅れてきたGSは書き継いできています。ご協力に感謝してお名前を記させていただきます。(順不同)

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