遅れてきたGS(グループサウンズ) 10 ~昭和グラフィティ~
昭和40年(1965年)秋 @金沢(卯辰山)ヘルスセンター2
由美の母親が頑なに大浴場に行こうとしないので、明と博臣の母親もひとまず浴場行きを断念した。
「あらあ、アメリカばっかやないですよ~。フランスの歌も好きですよ。『夢見るシャンソン人形』の弘田三枝子ちゃんなんかいいわぁ」
明の母親が雰囲気を和らげるように、やんわりと語り出す。
キレイに整えられた明の母親のセシルカットを眺めながら、由美の母親は心の中で「えらいなぁ」と思っている。そして、
(『悲しみよこんにちは』って映画良かったなあ。アンニュイって言うんかな?私もフランス好きやなぁ)とぼんやりと考えていた。
「あらあ、『夢見るシャンソン人形』やったら、私は中尾ミエちゃんの方が好きやわぁ」
と博臣の母親が発言すると、
(そういえば、中尾ミエちゃんも九重佑三子ちゃんもボーイッシュやったな。私もショートカットにしてみようかな?)
https://www.youtube.com/watch?v=Pl3AKGjnPC4
と考えるのだった。
もはや「女の人は髪が長いのが当たり前」という時代ではなくなっていた。さらに最近では、男の人の長髪さえ流行っているのだった。
「元々はフランス・ギャルの歌やろ?フランス・ギャルってフランス語だけやなくて、日本語でも歌ってるのよね?フランス人やのに日本語で歌うなんてえらいわぁ」
ここでも明の母親は、その場を取り繕う発言をしてみせる。
(そう、だから私もフランスが好きなのよ)と由美の母親は心の中で賛同した。
ところが負けず嫌いの博臣の母親は、ここでもやはり「いっちょかみ(何にでも、口を挟む人)」なのだった。
「シルヴィ・バルタンも、レナウンのテレビコマーシャルで歌ってるもんね。ワンサカワンサ、ワンサカワンサ♪ってね」
「あのコマーシャル好きよ。フランス人なのに日本語で歌って偉いわねぇ」
「フランス人は綺麗な人が多いわぁ。カトリーヌ・ドヌーブとか」
三人揃って“フランス好き”ということで、ようやく話が盛り上がって来た。
「ほうやねぇ、『シェルブールの雨傘』のドヌーブはきれいやったわぁ」
「なんか歌ばっかりで、あの映画よう分からんかったわ。私はBB(ベベ)の方がいいわ」
「ブリジット・バルドー!あの人、奔放すぎて好かんわ」
「ほうやな、フランスはいいわな。ああ、一度でいいからパリに行ってみたい」
「そうやね!パリでアランドロンに会ってみたい」
その時ちょうど、三人の子どもたちが戻って来て、
「なになに?おフランスの話?シェー!!」
とシェーのポーズを決められたのだった。
余りにタイミング良く子どもたちが発するギャグに、母親たちは脱力して笑い転げるのだった。
(続く)
(文 宮津 大蔵 / 編集・校正 伊藤万里 / デザイン 野口千紘 )
*以下の方々に、写真・エピソード・情報・アドバイス等提供いただいて「遅れてきたGSは書き継いできています。ご協力に感謝してお名前を記させていただきます。(順不同)
安楽博文様、ふくひさまさひこ様、佐藤鉄太郎様、永友恵様、中村嘉伸様、市岡悦子様、伊東明江様、樋口晶の様、那須竜太朗様、宮本信一様、芝崎亜理様、森谷豊様、能崎純郎様、吉村雄希様、渡辺薫様、池谷好美様、戸高嘉宏様、上杉早織様、金子恵美様、時村佳伸様、桒原美代子様、土肥築歩様、松村吉久様、栗原季之様、伏見裕雄様、谷太郎様、西康宏様、本田弘子様、増本真一様、松村秀一様、武田敏一様、片岡智子様、西出雅博様、平野だい様、Yoshifumi Yokozeki様、堀切万比呂様、マグ様、中平隆夫様、堀哲弥様、Kitamoto Misa様、山谷佳子様、岡村真由美様
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