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五十五一六
2019年10月19日 20:13
わたしたちは、ソファーにふたりならんで腰を下ろしていた。付き合い始めて約ひと月。この部屋に来たのは何回目だろう。部屋が整理整頓されすぎているせいだろうか、わたしはまだ慣れなかった。白で統一された部屋には観葉植物の緑が映えている。わたしは、隣に座っている彼の肩にもたれながら、目の前の大画面を見つめる。彼の指がわたしのウェーブした髪をもてあそんでいた。わたしの目は、目の前の画面に惹きつけられていた。
2019年7月19日 17:49
ベッドの枕元の目覚ましが鳴った。まだ早い時間だったが、休みの日こそ有意義に使いたい。となりでいびきをかいている夫を置いてベッドから出た。洗面所で顔を洗い、パジャマから部屋着に着替え、化粧する。今日は休日、ウイークデーと違う、薄化粧に見える化粧をしなくちゃ。朝食はフレンチトーストとコーヒー。お気に入りのダイニングテーブルにはクリーニングしたてのテーブルクロスがかかり、その上に昨日生けた花が飾っ
2019年7月17日 14:39
帰りの通学電車は空いていた。イスに座ってスマホをながめていると母からメッセージが届いた。帰るついでに、駅のそばのパン屋で食パンを買ってきてほしいらしい。『了解です』ぼくは送信ボタンを押した。 電車が駅に着いた。電車を降り、駅からパン屋に向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。「ハーイ!」ぼくが振り向くとそこには金髪の外人の女の子がいた。白い肌に青い瞳の彼女は、同じ年代くらいだろう
2019年7月15日 22:15
襖の向こうの猫の鳴き声で目が覚めた。枕元に手を伸ばし、鳴る前に目覚まし時計を止める。下宿の大家さんの飼い猫は、毎朝目覚ましが鳴る直前に鳴く。まるで僕が起きる時間が分かっているようだ。今日は週末で大学は休みだがデートの予定だった。布団から這い出しスエットのまま襖を開ける。鳴き声で起こしてくれた黒猫が、きちんとお座りしてこちらを見上げていた。長い尻尾がゆっくりと左右に揺れている。黒猫の後をついて
2019年7月13日 13:29
チャイムが鳴った。2階にいるわたしより、下にいた母が先に出た。わたしもすぐに階段を降りる。母の声が聞こえてきた。「あら、お久しぶりねえ。元気にしてたかしら。結婚するんですってね。てっきりあなたは、うちの子をもらってくれるんだと思ってたわ」わたしは、廊下を走り割って入った。「お母さん!変なこと言わないで!もともとただの幼馴染なんだよ!」自分の顔が赤くなっているのがわかる。彼はいつものよう
2019年7月11日 17:03
ある晴れた日、大観衆と軍隊が見守るなか、宇宙船らしき飛行物体が地響きを立てて着陸した。地響きがおさまった。固唾をのんで見守る群衆たち。ひとりの兵士が手をあげた。彼はミサイルの発射装置に指をかけている。「司令官、発射の許可をください」司令官はクビを横に振る。「ダメだ。まだ敵と決まったわけではない」にらみ合いが続いた。「もうダメだ」さっきの兵士が耐えきれずボタンを押した。ミサイルが白い
2019年7月3日 11:41
カーテンで閉めきった部屋の窓に外に向けて望遠レンズ付きのカメラを固定していた。そのデジタルカメラを立ち上げるとファインダー代わりの液晶画面が立ち上がる。連動してぼくの横のデスクのパソコンにも同じ映像が起動し録画をはじめる。そこにはぼくと同世代の女の子の、ひとり暮らしの部屋が映し出されていた。大好きな彼女を観察するのが、ぼくの朝と夜の日課だった。もっとも、彼女はぼくのことを知らないだろうが。カメ
2019年6月29日 13:38
仕事場でパソコンとにらめっこしていると、ケータイがけたたましい音を立てた。ケータイが鳴っているのはぼくだけじゃない。そのフロアにいる全員のケータイが鳴っていた。まるで音の洪水のようだ。「ミサイルが来てる!」男の叫び声が聞こえた。ぼくはケータイの画面に目を走らせた。画面には、レーダーが日本全土に降りそそぐミサイルを感知して警報を発しているとだけ書いてあった。 逃げなければ。あと時間はどれ
2019年6月18日 17:50
学校に行く前、わたしは窓の外を見ながら食パンをかじっていた。マンションの窓から見える空は、雲ひとつなかった。窓の外を、わたしの母が落ちていったのが見えた。きっと、わたしはまだ夢を見ているんだ。 -----------------------------------------ぼくは、通っている塾のビルの階段を下りて、通りに出た。夕暮れ時になっていた。カバンからスマホを取り出しイヤホンを
2019年6月16日 11:08
暗闇の中で、彼は泣きそうな顔で笑っていた。「彼女はいい人だ。一日過ごしてみて分かった。お前は、そんな彼女の人生を台なしにしようって言うんだな」ぼくは彼を見た。「彼女にはぼくの未来を告げるよ。治らないってことも。きっと向こうから離れていくだろう」ぼくは噛みしめるように続けた。「ぼくは、ぼくが死んで彼女が泣くと思うほうが辛いんだ」彼は立ち上がり、寝ているぼくの頭の横をを手で叩いた。ベッドは
2019年6月15日 12:29
男は、病室の入り口横の壁に立てかけてあった見舞客用のパイプイスを、ベッドの横のぼくの視線が届きやすい場所に広げ、そこに腰を下ろした。長いため息をつきながら足を組む。10秒ほど沈黙が続いただろうか、ぼくの方から口を開いた。「お前、知ってたんだろ?」彼は答えなかった。反対に彼はぼくに質問した。「おれ、いくつだと思う?」改めて彼の顔を見つめる。3日間一緒にいたが、彼の本当の年齢はまだ聞いてなか
2019年6月14日 12:23
ぼくは白い壁の病室のベッドの上で寝ていた。4m四方程度の広さの白い壁の個室だ。左手にははめ込みの大きな窓がある。太陽の光が差し込み、茶色の床を照らしている。病院特有の消毒液の匂いがほのかに匂ってきた。嫌なものだ。さっきまでここで説明していた医師の説明では、ぼくの症状は、今までに症例のない病気の可能性が高いということだ。全力は尽くすが今のところ治療法の目処は立っていないらしい。2、3日中に詳しい検査
2019年6月13日 12:10
枕元で目覚まし時計が鳴った。彼が来てから3日目。今日彼は未来に帰る予定のはずだ。窓の外はまだ暗い。目覚ましの音が鳴り続けている。止めようと手を伸ばす。手に力が入らない。おかしい。手は揺れるだけだった。目覚ましは鳴り続けたが、すぐそばで人の気配を感じたと同時に鳴りやんだ。ぼくと同じ顔が上から覗きこんだ。目覚ましは彼が止めたようだ。会ってからずっと、自信たっぷりの表情を崩さなかった彼が、口をへの字に
2019年6月12日 15:25
ぼくは暗闇の中ベッドの上で膝を抱えていた。突然鍵の回る音がし玄関のドアの開く音も聞こえた。玄関の照明がついた気配も感じる。靴を脱ぐ音が聞こえる。足音が近づき部屋のドアが開いた。昨夜と同じ様にぼくと同じ顔が笑顔を作っていた。彼はまだ部屋の外に立ち、ぼくにのんきな声をかけた。「どうした?こんなに暗くして」ぼくの中が弾けた。気がつくと立ち上がり右こぶしで彼に殴りかかろうとしていた。突然ドアが閉まった