画面のむこうのあなた

カーテンで閉めきった部屋の窓に外に向けて望遠レンズ付きのカメラを固定していた。そのデジタルカメラを立ち上げるとファインダー代わりの液晶画面が立ち上がる。連動してぼくの横のデスクのパソコンにも同じ映像が起動し録画をはじめる。そこにはぼくと同世代の女の子の、ひとり暮らしの部屋が映し出されていた。
大好きな彼女を観察するのが、ぼくの朝と夜の日課だった。もっとも、彼女はぼくのことを知らないだろうが。
カメラ越しの部屋に彼女が帰ってきた。ぼくは彼女の部屋の壁にかかっている時計に視線を送る。いつもの時間だ。
「おかえり」
ぼくはつぶやいた。

彼女が食卓がわりに使っているちゃぶ台に夕食を並べている。ちゃぶ台の上にはそれ以外にノートタイプのパソコンも乗っている。彼女はいつもそのパソコンの画面を見ながらご飯を食べている。
何か動画でも見ているのだろうか。もし一緒にご飯を食べたら、彼女はぼくを見つめてくれるのだろうか。
彼女が手を合わせて食べ始めた。
ぼくはそんな彼女に合わせて缶ビールを開けた。
「いただきます」
ビールをひとくち飲み、またレンズの先の彼女を見た。
「え?」
思わず声が出た。
ほんの少し目線を外しただけで、彼女の部屋にフードをかぶった男が出現していた。男は座っている彼女の髪をつかみ、今にも殴ろうとしていた。彼女は男から顔をそらし男から逃げようとしている。
彼女が襲われる?警察に電話?いや、間に合わない。ぼくは部屋を飛び出した。

1分後、ぼくは彼女の部屋のドアを叩いていた。ドアが勢いよく開き、さっき見た男が飛び出してきた。フードで顔ははっきり見えない。
男は、ぼくをつきとばした。ぼくはバランスを崩してそこに倒れた。男は走り去った。
彼女の部屋のドアを開けると、彼女が抱きついてきた。彼女は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。ぼくは彼女を抱きしめた。

彼が帰ったあと、わたしはすぐにちゃぶ台の上のパソコンを立ち上げた。画面には、さっきまでここにいた彼の部屋が映し出された。半年ほど前から、彼の部屋のパソコンとわたしのパソコンがつながっているのを彼は知らないだろう。
彼は、明日のわたしとのデートのために服を選んでいるようだ。
それを横目で見ながら、わたしはスマホで兄にメッセージを送った。
『お兄ちゃん、今日はありがとう。おかげでうまくいきそうよ』

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