「トリハダ」と「腹落ち」と「わかりみ」を、多く目にするようになった理由を考える。
いつの頃からか、覚えていないけれど、それなりに近年の現象だと思っているのだけど、「トリハダ」という表現を多く目にするようになった気がする。
「トリハダ」
もちろん「鳥肌が立つ」という体に起こることも、その言葉もあったけれど、どちらかといえば、気持ち悪い、もしくは単純に寒い、という時に使われてきたのが、近年になって、少し使い方が変わってきたのが、「感動する」や「驚く」などにも多用されるようになったことだ。
そして、場合によっては、自分の感動を表すために「ほら」といって、自分の腕を見せ、そこに「トリハダ」が立っていることを「証明」する人まで登場した。
それは、言葉だけではなく、それが本当であることを自分の身体現象で見せなくてはいけない、と考えたら、今は、不信の時代なのだろうか、と思えるような出来事だった。
誰かが書いていたけれど、本当は感動していなくても、「トリハダ」を自在に立てることができる人が出てくるかも、というのを読んで、ありえるかもしれない、と思ってしまったこともある。
腹落ち
同じように、よく目にするようになった表現に「腹落ち」という言葉がある。
2022年に購入した、家にある辞書「新明解国語辞典」第八版には、「腹落ち」は載っていなかった。
「腹」の項目には、こんな例がある。
そういえば、「腹落ち」の前には「腑に落ちる」という言葉を、さらに以前から聞いていた記憶もある。
この辞書には、「腑に落ちない」という例は載っていても、「腑に落ちる」はなかった。
とても単純な見方なのだけど、「腹落ち」「腹に落ちる」という表現を多く目にするようになったのは、「腑に落ちない」ばかりが使われることが多く、誤用とはいえないのに「腑に落ちる」があまり使われないせいもあったかもしれない。
身体感覚
「トリハダ」と「腹落ち」。
この2つの表現だけで、何かを語ることは難しいと思うのだけど、共通するのは、身体感覚との関係だと思った。
「鳥肌が立つ」は、もちろん、元々は、直接的に体の変化を表すものだし、「腹落ち」も、頭だけでわかるのではなく、もっと体が納得するようなこととして、表現したい気持ちがあるのではないか。
これ自体が、やや強引な結びつけをしているとは思うのだけど、さまざまなことがデータ化され、物質性が少なくなってくる流れは必然でもあり、利便性も高いのだけれど、その時代の流れの中で、「トリハダ」や「腹落ち」が使われるようになったのは、その感情を表すときに抽象的な表現ではなく、もう少し身体感覚と近い言葉が使われるようになったのは必然かもしれない、と思う。
リアルな体験が減ってきている時代に、もしかしたら、その何となくふわふわした不安を少しでも減らすように、何かを感じたりするときも、頭脳だけではなく、身体と結びついた感覚を、知らないうちに欲していて、その現れとして「トリハダ」や「腹落ち」という言葉が使われるようになったのではないか。
そんな仮説を立てることはできるのだけど、自分でも、これは少し弱いと思いながらも、さらに別の言葉のことも思い出した。
「わかりみ」
おそらく、もう定着に近くなっている言葉が「わかりみ」だと思う。
「わかりみが深い」と使われることが多く、狭い範囲の情報だけど、「わかりみが浅い」といった使い方を目にした記憶はほぼないので、「腑に落ちない」とは逆の広がり方をしているとも言えるのだけど、この「----み」の表現の中では、「つらみ」や「うれしみ」よりも、「わかりみ」の方が定着しているように感じる。
(この記事では冷静に分析もしていて、説得力もあるの。それで、ふと思ったのは、「腹落ち」と「わかりみが深い」は、同じような場面で使われそうだけど、かなり違いがありそうなのは、「腹落ち」はビジネスの場面でも使われそうだけど、「わかりみが深い」はカジュアルな表現として、何となく避けられそうな気がする)。
そんなことを考えると、「腹落ち」が身体感覚を無意識に欲して使われているのではないか、ということから、さらに推論を伸ばすとすれば、この「わかりみ」も、実は、身体感覚にも関係あるのかもしれない。
この「わかりみ」は、甘みや苦味のように、実は「味覚」の意味合いも含まれているのではないか、と思えば、「わかりみ」のように「―み」が増えてきたのも、身体感覚に近づけたい表現ではないだろうか。
さらにいえば、この「-----み」の中で、「わかりみ」が最も多く使われているとすれば、「つらみ」や「うれしみ」は、もともと感情を表す言葉に対して、「わかりみ」は、理解という頭脳に関する言葉で、感情よりも身体から遠く、だからこそ、身体感覚に近づけたいという無意識の気持ちが働いて、多く使われているのではないか。
考えが進むほど、仮説が弱くなっていくと分かりながらも、そんなことも思った。
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