「やまぐちももこ」。
ラジオで、1970年代の芸能界についての話をしていた。
そのパーソナリティは、「やまぐちももこ」と言った。
その前後の文脈からも、明らかに「山口百恵」についての話だった。
だけど、パーソナリティは、自分が間違えたことに気づかずに、そのまま話を続けていた。
そのことが、リスナーとしては信じられない感覚になったが、だけど、少し冷静に考えれば、そのパーソナリティは1970年代生まれだから、それほど知らなくても当然だし、「山口百恵」に対しての「強い感情」は、ある世代以上だけが感じることなのに、改めて気がついた。
山口百恵
山口百恵のデビューは、1973年。14歳でデビューして、すぐに森昌子、桜田淳子らと共に「花の中三トリオ」と言われたことは、その時代に生きていた人間ならば、おそらくは、大げさではなく、私のように、特にファンでなくても、誰もが知っているような事実だった。
それから、21歳で引退する1980年まで、歌だけではなく、映画にもドラマにも出て、やや暗い瞳は変わらないまま、独特の人気を誇っていたのは覚えている。今、考えたら、現役時代のほとんどは10代だったのだけど、それが信じられないほど、大人に見えた。
この著者は、30代後半の時に、ティーンエイジャーの山口百恵を「菩薩」と本気で表現するような本を書いた。今になってみると、いろいろな雑念のようなことも頭をよぎるけれど、それだけの魅力があったのだと思う。
なにしろ、「百恵ちゃん」などと、広く呼ばれていた存在だったのを覚えている。
(この作品↑の中で、主人公の「まる子」が山口百恵のファンで、コンサートにも行く様子も描かれています。その時の山口百恵の見られ方も表現されていると思います)。
引退
引退も劇的だった。
山口百恵は、リサイタルで突然、自分の口から、好きな人がいて結婚することを語って、それから引退まで1年だった。
私は、その頃、大学受験に失敗し、いわゆる受験浪人として、予備校の試験にもいくつか落ちて、それでも通える予備校に通っていた。
一浪していた10月。受験生としては、これから息を抜けないような時期になっていた時に、山口百恵の引退コンサートが行われ、それが、どうやらテレビで生中継されるらしい、といったことは、ぼんやりと知っていた。
その日、予備校の同じクラスに通っている女子の何人もが早退すると言って、帰って行った。そんなことは、4月から半年が経って、一度もなかったし、それからもないことだった。
そのうちの一人に声をかけたら、山口百恵が引退するのよ。(知らないの)という言葉も続きそうな、やや真剣な表情で言われた。そのクラスメートは、時間を惜しむように、教室を出て行った。
それが、引退コンサートの中継を見るためだと結びついたのは、もう少しあとだったけれど、同じ女性に、こうした支持を受けている芸能人は、私にとっては初めてだった。
それだけ、社会に強いインパクトを与えている存在だったから、1970年代にある程度の年齢になっている人間にとっては、ファンでなくても、名前を間違えることは考えられないような存在だった。
今でも、何曲かは歌詞まではっきりと覚えている。
時代の違い
だけど、当たり前だけど、時代や年代が違ったら、その人が、どれだけカリスマ的な存在であっても、その重要性は、全く違ってくる。
そして、時代が変わったら、他の世代のカリスマでもある人の名前を間違えたり、知らなかったりして、他の世代の人間に、ちょっとした衝撃のような感覚を、知らずに味合わせているのだとも思う。私がラジオを聴いていて「やまぐちももこ」という言葉が耳に入ってきたときのように。
だけど、それは、当然だけど、そのラジオのパーソナリティが、何事もないように時間が進んだように、その時の自分には気がつかないことなのだろう。
そう考えると、ちょっと不思議な気持ちになる。
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