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「睡眠の質を改善する」の意味を、改めて考える。

 少し前、ご近所の方から「ヤクルト1000」をいただいたことがあった。

 一時期、手に入りにくかっただけに、ありがたいのと、とても珍しいものを見た気持ちになった。

 こんなに品切れが続く商品は久しぶりだったし、幅広い年齢層が、その「価値」を知っていてるモノも珍しかった。

 そういえば、どうして、こんなに「ヤクルト1000」は人気なのだろうか。


「ヤクルト1000」

本品には乳酸菌 シロタ株(L.カゼイ YIT 9029)が含まれるので、一時的な精神的ストレスがかかる状況でのストレスをやわらげ、また、睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を高める機能があります。

 きちんとした統計を見たことはないものの、個人的な実感としても、ここ一年くらいで、この「ヤクルト1000は、睡眠の質を高める」ということは、一種の「常識」のようになっているように思う。

 つまり、「ヤクルト1000って、どうして売れてるの?」といったことを誰かに聞いたとしたら、「え、そんなことも知らないの?」と言われてもおかしくないような状況になっている感じがする。

Yakult1000・Y1000の機能が、そうした(睡眠やストレスに悩む)お客さまのニーズに合致していたことが、好評の理由ではないでしょうか。
 また、ヤクルトレディによる商品説明などの地道な活動が商品の認知向上に寄与していると考えています。ご愛飲いただいているお客さまが、Yakult1000・Y1000の、特に睡眠に関する機能について体感をされ、その体感をSNSなどで発信していただくことが多いのですが、ヤクルトレディの活動がそのような口コミの広がりを促しているのだと想定しています。

 こうした記事では、このように、ヤクルト側の見方が提示されているのだけれど、個人的には、口コミ以上に、テレビを見ていて、よく話題になっていた印象がある。

 ぼる塾の田辺さんが、やたらと「ヤクルト1000は、よく眠れる」と発言していたような気がするし、インターネット上のブログなどを読んでいると、「ヤクルト1000」を売れるきっかけを作った人として、さまざまな芸能人の名前があるので、それだけ広く、いわゆる有名人も「ヤクルト1000」の名前をあげ、そして睡眠の質の向上を語っていたようだった。

 こうした状況であれば、売り切れ続出とか、入手困難ということが続いてもおかしくないのかもしれない。

 今(2023年11月)でも、検索すると、7本で1800円で販売されているから、メーカー希望価格が税抜で一本130円のようなので、そうなると7本で約1000円だから、実際よりも高額のようだ。その上、さらに高い「ヤクルト1000」まで販売されている。

 初めて自分で購入したのは、駅の自動販売機だった。そのときも「あ、ヤクルト1000が売っている」と、他の誰も買おうとしていなかったのに、その自販機に少し駆け寄り、妙に焦った気持ちで硬貨を入れたのを覚えている。

 そして、とても期待して飲んだのだけど、当然、味は、お馴染みのあの「ヤクルト」で、さらに、後で考えたら、眠る前に飲まないと睡眠の質が向上したかどうかも分かるわけはなかった。

ピルクル

 それでも、自分自身は、とにかく「ヤクルト1000」を手に入れようとしなかったのは、頻尿で何度も夜中に起きてしまうので、睡眠の質には問題があっても、ストレスの緩和にそれほど重きを置いていなかった。その点ではあまり困っていないという、おそらくは恵まれた環境だったせいだろう。

 恥ずかしながら、才能や努力や工夫や運が足りないせいもあるはずだけど、なるべく嫌なことはしない、という生活ができていることと引き換えに貧乏なままだ。

 だから、実際に「ヤクルト1000」を手に入れようとしても、7本セットで約1000円は、自分にとっては高額だった。ペットボトル500mlを購入するときに、100円を超えると考えてしまうような経済状態からだ。

 こういうふうに書くと、微妙に悲しい感じもするが、そんなとき、テレビのCMでピルクルを知った。

 どうやら「ヤクルト1000」より安いらしいと知ったのだけど、このピルクルでさえも、しばらく店頭で見かけにくかったのは、やはり売れていたのだと思う。

 しばらく経ったら、買えるようになった。

 8本で約350円。かなり、ありがたい。

 そのうち、10本セットで、同じ金額の商品もスーパーの店頭に並ぶようになった。

 さらにありがたいのだけど、普段は、腸の環境は大事だと思って、毎日、低脂肪牛乳と、乳酸菌のために飲むヨーグルトと混ぜて飲んでいる。

 その飲むヨーグルトは、今は900mlで230円ほどで、ここ半年で20円以上値上がりして、それだけで痛手を被るほどの貧乏は情けないとしても、その値段と比べると、乳酸菌飲料としては、ピルクルも高く感じる。

 それでも、時々買うようになったのは、睡眠の質を上げるという安心感も大事かもしれない、などとも思ったからだ。

 ただ、やはり、「ヤクルト1000」との性能の差のようなことも気になってはいるのだけど、こうして検証↑を行ってくれる人もいて、確かに差はあるけれど、どうやら、ピルクルも睡眠の質の向上に効果があるようだと思えるから、おそらくは飲まないよりはいいかもしれず、どちらにしても乳酸菌は、体には悪くないはずだ。

 だから、今も家の冷蔵庫にある。

ブーム

 こうしたブームは、ずっと続いているような気がする。

 それは、少し前まで「カゼくらいで休まないために」は医薬品販売のために盛んに言われていたし、そこまでいかなくても「眠っている間に疲労回復」や、あとは「もう一踏ん張りのために」という栄養ドリンクや、その後のエナジードリンクの隆盛も、実は同じ質の現象だと思う。

 無理しても頑張る。

 体調が悪いとしても、なるべく素早く回復させて、仕事も含めて自分の社会的な役割を果たすために、なんとかしないといけない。

 そうしないと、人に迷惑をかけてしまう。

 そのために、(十分に休むのではなく)何か飲んだり、食べたりして、素早く体を整えないといけない。

 今も、そういう必要性のために、「ヤクルト1000」は売れているのだろうし、これまでの「疲労回復」系の飲食物は販売されてきて、ずっと一定の需要があることとつながっているのだろう。

 ただ、ずっと違和感はある。

 こうした飲食物があっても構わないけれど、本当はそんなにブームにならない世の中の方が、いい世の中ではないだろうか。

 そういう気持ちがあるから、違和感もあり続けるのだと気がついた。

睡眠の時間

2021年版の経済協力開発機構(OECD)の調査では、33カ国中、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と最短だった。男性より女性のほうが13分短く、これは日本を含む6カ国だけの傾向だった。

指摘されるのが、家事負担の重さだ。例えば、国の21年の社会生活基本調査で6歳未満の子がいる共働き夫婦の家事関連時間を見ると、妻は6時間33分、夫は1時間55分だった。

 広島大の平田道憲・名誉教授(生活経営学)は、「外で仕事をする妻も増える一方なのに、日本の夫の家事労働時間は先進諸国と比べてもまだまだびっくりするぐらい短い」と指摘。妻が起床時刻を早くしたり、就寝時刻を遅くしたりして家事時間を捻出しているとみている。

(「朝日新聞」より)

 こうした国際的な調査によると、いつも日本人の睡眠時間は短いことが明らかになることが多い。記憶の中でも、他の国と比べて、長く眠っている、という結果を聞いたことは、おそらく一度もない。

 バブルと呼ばれる好景気の時は、「24時間戦えますか」とあおられ、(この言葉も、いわゆる栄養ドリンクのCMで流れていた)、ずっと景気が低迷していても、睡眠時間は短いままだ。

 もちろん、睡眠時間の長さが、すぐに睡眠の質を上げるわけではないけれど、睡眠時間が十分でなければ、質が上がるわけもない。

 さらに問題は、女性の方が睡眠時間が短いことだ。

 この記事で指摘されていることは、社会状況とも密接に関係しているはずだ。

2022年の日本の総合スコアは0.650、順位は146か国中116位(前回は156か国中120位)でした。前回と比べて、スコア、順位ともに、ほぼ横ばいとなっており、先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となりました。

 睡眠という必要不可欠な要素に対して、その短さと、ジェンダーギャップという二つの問題がすでに明確にあることが分かる。

ジェンダーギャップ

 日本のジェンダーギャップ指数が低い大きな要因として、女性が「ライフワークバランス」を実現できていない点があげられます。

普段の生活を振り返ったとき、たとえば家事は女性に任せきり、子どものことで休みを取るのは女性ばかり、のようになっていませんか。

また、職場でも、当たり前のように雑務を押し付けていないか、強い口調になっていないか、など気付きがあれば改善していきましょう。小さな気付きの積み重ねが、女性の働きやすさにつながります。

 女性の社会活動を活発化させジェンダーギャップ指数を上げるには、雇用先である企業や地域・国といった周りの協力が不可欠です。

 政府の取り組みとして、「ポジティブ・アクション」、「女性リーダー人材バンクの運営」、「女性リーダー育成事業」、「女性に対する暴力の根絶」、「女性活躍推進法」などがあります。

 政府の方針も大事だけれど、その前に、各家庭で、夫が家事を行うなどの努力によって、男女の睡眠時間の格差は縮まるかもしれないが(それ自体が、とても可能性は低そうだけど)、全体の睡眠時間の短さについては、さらに原因がある。

睡眠不足

 自分自身が、それほど睡眠不足ではないので、それほど実感がなく、あまり語る資格はないものの、仕事で寝ていない、という話は、いろいろな人から、ずっと聞いてきた。

 その傾向は、今も続くというよりは、悪化しているようだ。

①働きすぎ
OECDによる労働時間の国際比較調査でも明らかになっていますが、日本人の労働時間は、年間では減少傾向にあるものの、平日1日あたりの労働時間は増えています。土日に休む分、残業時間が多く、米国やフランスの約3倍という報告もあります。
しかも、長時間労働で睡眠時間が削られ、結果的に生産性が低くなるという皮肉な状況になっています。

②長すぎる通勤時間
通勤時間の長さも一因です。とりわけ都市部でその傾向が顕著で、通勤時間と睡眠時間が完全に逆相関しているのです。

通勤時間はビジネスパーソンにとっていわば、“固定費”。削ることはできません。都市部で働く人の多くは、通勤ラッシュと睡眠不足ストレスが重なるわけで、疲れるのも無理はありません。

③長すぎるスマホ利用
もう1つの大きな要因は、IT機器の使用時間が格段に増えたことです。
労働時間、通勤時間、スマホ時間、これらに個々の仕事や家庭の事情も加わって睡眠時間が圧迫され厳しい状況が生まれているわけです。
なお、「睡眠不足」は働く世代に見られる傾向で、リタイア世代になると寝ようとしても眠れない「不眠」が多くなります。

 この記事は2018年のものだから、働き方改革は2019年から本格的に始まったと言われているし、コロナ禍以降のリモートワークの件については触れられていないから、この記事のあと、何年か経ってから睡眠状況が変化していれば、そうしたことの意味はあるのではないかと思われる。

変わらない課題

睡眠時間が少ないと言われている日本。2021年の調べでは442分(7.3時間)でOECD加盟国30カ国中最下位と、社会的な問題なんです。

 だが、2023年の記事でも、2021年の調査をもとに、同じような課題が挙げられているし、各国との比較まで挙げられている。少し長いけれど、とても大事なことが書かれているので、引用する。

【フランス|平均睡眠時間513分(8.5時間)】
フランスは仕事とプライベートをしっかり分ける文化。仕事が終わったら、すぐに職場から離れ、家でゆっくり過ごす時間も多いようです。またヨーロッパは、夕方以降、ムーディーな暗めの照明で過ごす家がほとんど。この暗い照明は、蛍光灯の明るい空間に比べて睡眠を妨げないので、睡眠にとって良い環境。こういった文化や習慣、睡眠スタイルは親から子どもに受け継がれている印象です。

【イギリス|平均睡眠時間508分(8.4時間)】
フランス同様、仕事とプライベートをしっかり切り分ける印象があるのがイギリスです。日本は仕事の後同僚と職場の近くで飲むという習慣がありますが、イギリスは少し違います。近所のパブで地元の仲間と軽く飲んだり、休日もホームパーティを楽しむことが多いです。さっと飲んで、さっと帰るスタイルなので、睡眠時間も確保できるというわけです。ただ、金曜日だけは思い切りはじけるのがイギリス人の特徴かもしれません(笑)。

【スペイン|平均睡眠時間513分(8.6時間)】
スペインは、時間がとにかくゆっくり流れています。「シエスタ」という昼寝文化があるため、全てではないですがお店もその時間は閉まってしまいます。仕事とプライベートが半々。一生懸命がんばらなくても、収入が半分になっても、ゆっくりと自分の人生を楽しむ。という考え方が根付いているように感じています。

「仕事は人生の一部であり全てではない」と考えている方々は、自分の人生を楽しむことが最優先なので、「寝不足で辛かったり、病気になったりすることは避ける」と潜在的に意識しているのかもしれません。またそのような考え方なので、急がば回れで生産性も向上しているのではないでしょうか。

【アメリカ|平均睡眠時間531分(8.8時間)】
睡眠時間が長めなのは、いろんな人種がいるのが影響しているのではないかと想像します。都市部と農村部で大きな差がある中国と同じ現象ですね。経済格差が大きくなると睡眠格差も大きくなります。ただ、アメリカの睡眠意識は高く、学校などで睡眠を学ぶ機会がありますし、パワーナップ文化もあります。

最近では、ハイパフォーマンスのビジネスマンほど夜しっかり眠るというムーブメントが起きています。仕事中に寝不足で集中力が途切れてしまうことは、カッコ悪いこととされているのです。また寝酒(ナイトキャップ)も日本人よりも少なく、それは、寝られなくなると寝酒で紛らわすのではなく、きちんとカウンセリングを受けるからです。睡眠意識については日本と真逆の傾向がみられます。

では、日本はどうなのでしょうか?前述した通り、日本の平均睡眠時間は442分(7.3時間)と、OECDの調査でも睡眠不足であることが一目瞭然です。一見十分寝ているようにも見えますが、男女別で見てみると圧倒的に女性の睡眠時間が少ないのです。

しかも50代>40代>30代の順で短くなっていきます。これは50歳前後に起こる更年期障害の影響も否めませんが、家事、育児、介護の担当がほぼ女性であることが大きな原因です。

実際、OECDの調査によると日本の男女で比較した際、女性は男性の4.8倍家事をしているという結果に。働く女性が増えた今、女性も40代に入ると重要なポジションになり、睡眠時間が削られてしまうということも考えられます。

日本人は幼い頃から睡眠の重要性を学ぶ機会がないため、眠ることは大切だという意識が薄いのです。そのため、男女ともに「寝ずにがんばる」ということが正しいと思いがちに。

また、通勤時間が長いとどうしても睡眠時間が短くなってしまいます。片道1〜2時間かけて通勤するということは、1日のうちに2〜4時間移動していることになります。リモートワークを導入する企業が増えた現在、多様な働き方が一般的になれば睡眠環境が良くなるかもしれませんね。

(「nishikawa」より)

生きやすい社会のために

 普段は、それほど意識していないし、人間関係も広くないとしても、こうした睡眠に関しても、気がついたら「日本の常識」の中でしか考えられないことを、ほんの少しでも他の国の事情を知ると、嫌でも分からされる。

 前出の「西川」(旧・西川布団)の記事の中にあるように、フランスやイギリスのように、仕事とプライベートをしっかり分ける、という意識が国民の間にあれば、自然とそのような社会になるし、そうなれば、毎日、緊張と緩和の時間が分けられる可能性が高い。

 仕事が終わってから睡眠まではプライベートの時間だろうから、それでリラックスできれば睡眠の質も自然と上がるだろうし、もしかしたら、睡眠の質すらあまり意識していないかもしれない。スペインは、さらに徹底しているようだから、ゆっくり人生を楽しむという意識が常識になっていれば、もっとよく眠れそうだ。

 アメリカの場合は、少し違って、よく眠るために体に負担をかけずにカウンセリングを受けたりするらしいし、それは、もしかしたら一部のビジネスエリートだけなのかもしれないが、睡眠を大事にすることに対して、かなり根本的に考えているのは間違いなさそうだ。

 ヨーロッパの国々と比べると、人生を楽しむ、というよりは、人間の能力を効率的に引き出す、といった意識だから、少し大変そうだけど、それでも睡眠の質を上げることに全力で取り組んでいそうだ。

 それと比べると、確かに日本は、睡眠を大事に考えていないというか、寝ずに頑張る、は気合いでなんとかするといった無茶な精神主義のようなものが、誰が強制したというよりは、まだ社会に根付いているということかもしれない。
 
 そうしたことは、この社会に生きてきて、昔から感じてきたし、場合によってはその価値観に加担してしまったし、今もそれが修正されているとは思えない。

 もちろん、今日の体調、明日からの健康を考えて、「ヤクルト1000」を飲みたくなるのは自然だろうし、こうした飲料を開発する企業の力もすごいのかもしれない。

 でも、本当は、個人が尊重され、もっと生きやすい社会になれば、「ヤクルト1000」がなくても、自然と睡眠の質が上がるのではないだろうか。

 だから、「ヤクルト1000」が話題になり、品切れになるほど売れる社会というのは、とにかく今日、少しでも睡眠の質を上げないと倒れてしまう、といった、大げさに言えば、静かな悲鳴に近い現象のようにも思えてくる。

 どうすれば、ごく一般的な生活をしても、自然によく眠れるような社会になるか。

 それは、いくら経済的に停滞していたとしても、そうした厳しい状況だからこそ、そこに生きる人たち(自分も含む)が、幸せに生きられる可能性を大きくすることでもあるのだろうけど、飲むだけで「睡眠の質を上げる」商品によって、そうした大事な課題を考えることが、少し先送りになってしまうかもしれない。

 さらに、「ヤクルト1000」は、品質を考えたら高くないのだろうけれど、私のような低所得の人間にとっては高いから手に入れ続けることは難しく、こうしたところでも、大げさに言えば、睡眠格差さえ生まれてしまっているのかもしれない。

 誰もが、質の高い、十分な睡眠がとれる社会になるためには、とても課題が多く、今のところは、どうすればいいのか、よくわからなくなってくる。

 それでも、自分のためにも、少しでも生きやすい社会になるために、考えていきたいとは思っている。





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