「睡眠の質を改善する」の意味を、改めて考える。
少し前、ご近所の方から「ヤクルト1000」をいただいたことがあった。
一時期、手に入りにくかっただけに、ありがたいのと、とても珍しいものを見た気持ちになった。
こんなに品切れが続く商品は久しぶりだったし、幅広い年齢層が、その「価値」を知っていてるモノも珍しかった。
そういえば、どうして、こんなに「ヤクルト1000」は人気なのだろうか。
「ヤクルト1000」
きちんとした統計を見たことはないものの、個人的な実感としても、ここ一年くらいで、この「ヤクルト1000は、睡眠の質を高める」ということは、一種の「常識」のようになっているように思う。
つまり、「ヤクルト1000って、どうして売れてるの?」といったことを誰かに聞いたとしたら、「え、そんなことも知らないの?」と言われてもおかしくないような状況になっている感じがする。
こうした記事では、このように、ヤクルト側の見方が提示されているのだけれど、個人的には、口コミ以上に、テレビを見ていて、よく話題になっていた印象がある。
ぼる塾の田辺さんが、やたらと「ヤクルト1000は、よく眠れる」と発言していたような気がするし、インターネット上のブログなどを読んでいると、「ヤクルト1000」を売れるきっかけを作った人として、さまざまな芸能人の名前があるので、それだけ広く、いわゆる有名人も「ヤクルト1000」の名前をあげ、そして睡眠の質の向上を語っていたようだった。
こうした状況であれば、売り切れ続出とか、入手困難ということが続いてもおかしくないのかもしれない。
今(2023年11月)でも、検索すると、7本で1800円で販売されているから、メーカー希望価格が税抜で一本130円のようなので、そうなると7本で約1000円だから、実際よりも高額のようだ。その上、さらに高い「ヤクルト1000」まで販売されている。
初めて自分で購入したのは、駅の自動販売機だった。そのときも「あ、ヤクルト1000が売っている」と、他の誰も買おうとしていなかったのに、その自販機に少し駆け寄り、妙に焦った気持ちで硬貨を入れたのを覚えている。
そして、とても期待して飲んだのだけど、当然、味は、お馴染みのあの「ヤクルト」で、さらに、後で考えたら、眠る前に飲まないと睡眠の質が向上したかどうかも分かるわけはなかった。
ピルクル
それでも、自分自身は、とにかく「ヤクルト1000」を手に入れようとしなかったのは、頻尿で何度も夜中に起きてしまうので、睡眠の質には問題があっても、ストレスの緩和にそれほど重きを置いていなかった。その点ではあまり困っていないという、おそらくは恵まれた環境だったせいだろう。
恥ずかしながら、才能や努力や工夫や運が足りないせいもあるはずだけど、なるべく嫌なことはしない、という生活ができていることと引き換えに貧乏なままだ。
だから、実際に「ヤクルト1000」を手に入れようとしても、7本セットで約1000円は、自分にとっては高額だった。ペットボトル500mlを購入するときに、100円を超えると考えてしまうような経済状態からだ。
こういうふうに書くと、微妙に悲しい感じもするが、そんなとき、テレビのCMでピルクルを知った。
どうやら「ヤクルト1000」より安いらしいと知ったのだけど、このピルクルでさえも、しばらく店頭で見かけにくかったのは、やはり売れていたのだと思う。
しばらく経ったら、買えるようになった。
8本で約350円。かなり、ありがたい。
そのうち、10本セットで、同じ金額の商品もスーパーの店頭に並ぶようになった。
さらにありがたいのだけど、普段は、腸の環境は大事だと思って、毎日、低脂肪牛乳と、乳酸菌のために飲むヨーグルトと混ぜて飲んでいる。
その飲むヨーグルトは、今は900mlで230円ほどで、ここ半年で20円以上値上がりして、それだけで痛手を被るほどの貧乏は情けないとしても、その値段と比べると、乳酸菌飲料としては、ピルクルも高く感じる。
それでも、時々買うようになったのは、睡眠の質を上げるという安心感も大事かもしれない、などとも思ったからだ。
ただ、やはり、「ヤクルト1000」との性能の差のようなことも気になってはいるのだけど、こうして検証↑を行ってくれる人もいて、確かに差はあるけれど、どうやら、ピルクルも睡眠の質の向上に効果があるようだと思えるから、おそらくは飲まないよりはいいかもしれず、どちらにしても乳酸菌は、体には悪くないはずだ。
だから、今も家の冷蔵庫にある。
ブーム
こうしたブームは、ずっと続いているような気がする。
それは、少し前まで「カゼくらいで休まないために」は医薬品販売のために盛んに言われていたし、そこまでいかなくても「眠っている間に疲労回復」や、あとは「もう一踏ん張りのために」という栄養ドリンクや、その後のエナジードリンクの隆盛も、実は同じ質の現象だと思う。
無理しても頑張る。
体調が悪いとしても、なるべく素早く回復させて、仕事も含めて自分の社会的な役割を果たすために、なんとかしないといけない。
そうしないと、人に迷惑をかけてしまう。
そのために、(十分に休むのではなく)何か飲んだり、食べたりして、素早く体を整えないといけない。
今も、そういう必要性のために、「ヤクルト1000」は売れているのだろうし、これまでの「疲労回復」系の飲食物は販売されてきて、ずっと一定の需要があることとつながっているのだろう。
ただ、ずっと違和感はある。
こうした飲食物があっても構わないけれど、本当はそんなにブームにならない世の中の方が、いい世の中ではないだろうか。
そういう気持ちがあるから、違和感もあり続けるのだと気がついた。
睡眠の時間
こうした国際的な調査によると、いつも日本人の睡眠時間は短いことが明らかになることが多い。記憶の中でも、他の国と比べて、長く眠っている、という結果を聞いたことは、おそらく一度もない。
バブルと呼ばれる好景気の時は、「24時間戦えますか」とあおられ、(この言葉も、いわゆる栄養ドリンクのCMで流れていた)、ずっと景気が低迷していても、睡眠時間は短いままだ。
もちろん、睡眠時間の長さが、すぐに睡眠の質を上げるわけではないけれど、睡眠時間が十分でなければ、質が上がるわけもない。
さらに問題は、女性の方が睡眠時間が短いことだ。
この記事で指摘されていることは、社会状況とも密接に関係しているはずだ。
睡眠という必要不可欠な要素に対して、その短さと、ジェンダーギャップという二つの問題がすでに明確にあることが分かる。
ジェンダーギャップ
政府の方針も大事だけれど、その前に、各家庭で、夫が家事を行うなどの努力によって、男女の睡眠時間の格差は縮まるかもしれないが(それ自体が、とても可能性は低そうだけど)、全体の睡眠時間の短さについては、さらに原因がある。
睡眠不足
自分自身が、それほど睡眠不足ではないので、それほど実感がなく、あまり語る資格はないものの、仕事で寝ていない、という話は、いろいろな人から、ずっと聞いてきた。
その傾向は、今も続くというよりは、悪化しているようだ。
この記事は2018年のものだから、働き方改革は2019年から本格的に始まったと言われているし、コロナ禍以降のリモートワークの件については触れられていないから、この記事のあと、何年か経ってから睡眠状況が変化していれば、そうしたことの意味はあるのではないかと思われる。
変わらない課題
だが、2023年の記事でも、2021年の調査をもとに、同じような課題が挙げられているし、各国との比較まで挙げられている。少し長いけれど、とても大事なことが書かれているので、引用する。
生きやすい社会のために
普段は、それほど意識していないし、人間関係も広くないとしても、こうした睡眠に関しても、気がついたら「日本の常識」の中でしか考えられないことを、ほんの少しでも他の国の事情を知ると、嫌でも分からされる。
前出の「西川」(旧・西川布団)の記事の中にあるように、フランスやイギリスのように、仕事とプライベートをしっかり分ける、という意識が国民の間にあれば、自然とそのような社会になるし、そうなれば、毎日、緊張と緩和の時間が分けられる可能性が高い。
仕事が終わってから睡眠まではプライベートの時間だろうから、それでリラックスできれば睡眠の質も自然と上がるだろうし、もしかしたら、睡眠の質すらあまり意識していないかもしれない。スペインは、さらに徹底しているようだから、ゆっくり人生を楽しむという意識が常識になっていれば、もっとよく眠れそうだ。
アメリカの場合は、少し違って、よく眠るために体に負担をかけずにカウンセリングを受けたりするらしいし、それは、もしかしたら一部のビジネスエリートだけなのかもしれないが、睡眠を大事にすることに対して、かなり根本的に考えているのは間違いなさそうだ。
ヨーロッパの国々と比べると、人生を楽しむ、というよりは、人間の能力を効率的に引き出す、といった意識だから、少し大変そうだけど、それでも睡眠の質を上げることに全力で取り組んでいそうだ。
それと比べると、確かに日本は、睡眠を大事に考えていないというか、寝ずに頑張る、は気合いでなんとかするといった無茶な精神主義のようなものが、誰が強制したというよりは、まだ社会に根付いているということかもしれない。
そうしたことは、この社会に生きてきて、昔から感じてきたし、場合によってはその価値観に加担してしまったし、今もそれが修正されているとは思えない。
もちろん、今日の体調、明日からの健康を考えて、「ヤクルト1000」を飲みたくなるのは自然だろうし、こうした飲料を開発する企業の力もすごいのかもしれない。
でも、本当は、個人が尊重され、もっと生きやすい社会になれば、「ヤクルト1000」がなくても、自然と睡眠の質が上がるのではないだろうか。
だから、「ヤクルト1000」が話題になり、品切れになるほど売れる社会というのは、とにかく今日、少しでも睡眠の質を上げないと倒れてしまう、といった、大げさに言えば、静かな悲鳴に近い現象のようにも思えてくる。
どうすれば、ごく一般的な生活をしても、自然によく眠れるような社会になるか。
それは、いくら経済的に停滞していたとしても、そうした厳しい状況だからこそ、そこに生きる人たち(自分も含む)が、幸せに生きられる可能性を大きくすることでもあるのだろうけど、飲むだけで「睡眠の質を上げる」商品によって、そうした大事な課題を考えることが、少し先送りになってしまうかもしれない。
さらに、「ヤクルト1000」は、品質を考えたら高くないのだろうけれど、私のような低所得の人間にとっては高いから手に入れ続けることは難しく、こうしたところでも、大げさに言えば、睡眠格差さえ生まれてしまっているのかもしれない。
誰もが、質の高い、十分な睡眠がとれる社会になるためには、とても課題が多く、今のところは、どうすればいいのか、よくわからなくなってくる。
それでも、自分のためにも、少しでも生きやすい社会になるために、考えていきたいとは思っている。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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