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ニッポンの自縄自縛──最低賃金がなぜ1,000円か知っていますか

以前の記事で触れた通り、日本は先進国でも賃金が低い水準にとどまっています。
その要因の一つが最低賃金の低さ。

なぜ日本の最低賃金が1,000円前後なのかご存知でしょうか?


日本の最低賃金は、全国加重平均で1,004円

2023年の最低賃金は、全国加重平均で1,004円でした。
東京の最低賃金は、1,113円で全国一位。22年度から過去最大の41円の引き上げとなったのが記憶に新しいところです。
最も低いのは岩手で893円でした。

出典:朝日新聞( https://www.asahi.com/sdgs/article/14985229)

パートやアルバイトは、だいたいこの水準からのスタートです。そのため日本で住んでいると、最低賃金が1,000円前後というのは当然というのが普通の感覚かもしれません。

では、諸外国はどうでしょうか。
G7の最低賃金を比較してみました。

出典:厚生労働省

※これは2021年のデータですので、日本の時給が902円であることに注意してください

円換算でだいたい300〜400円の差があります。
アメリカが意外に低いように思うのですが、アメリカのファーストフード店でアルバイトしようとすると、時給15ドルぐらいは貰えるんですよね…。カリフォルニアは時給20ドルです。

時給1,000円で自立して暮らすのは難しい

時給1,000円、所定内労働時間154時間で1か月働いたとした場合の給料をざっくり計算してみました。
時間外労働をしない場合、賃金月額は15万4,000円
ここから所得税・地方税・社会保険料を引くと、手取りは12万6,000円になります。
自立して暮らすのはまず無理ですね。

しかも、生活保護の生活扶助と住宅扶助の合計額は、東京23区だと13万7,000円。頑張って働いても生活保護を下回ってしまうわけです。

中途半端に壊れた日本型雇用システムが最低賃金に残っている

なぜ日本は最低賃金が1,000円程度に抑えられているのでしょうか。

これは、単に経済成長の差だけではありません。
日本型雇用システムという、日本の社会構造そのものに問題があります。

日本型雇用システムの特徴

日本型雇用システムとは、

◆家庭の主たる稼ぎ手は男性
◆男性は正社員で、長時間労働や転勤を前提としている
◆在籍期間によって賃金が上がるという年金序列

という特徴があります。
このようなシステムにおいて、女性のパートや学生のアルバイトは「家計補助」と位置付けられてきました。

「家計補助」だから、時給はそんなに高くなくていい。
時給が高くないから、誰にでもできる単純作業をやってもらう。
そうして労働が軽く見られ、時給が低く抑えられてきたのです。

だがしかし。
令和の日本は日本型雇用システムが「中途半端に壊れて」います

主たる稼ぎ手は男性(長時間労働なので、家事育児の負担が女性に回る)
けれど正社員でも給料は低い
終身雇用は崩壊していて、男性も非正規が2割
会社に長期間在籍しても給料が上がるかどうか…。

その中で、パートやアルバイトが「家計補助」というのは無理がある。
家計補助ではなく、積極的に働いて稼ぎたいという人が多いはずなのですが、「正社員ではない」というだけで賃金が低い。

非正規なしでは成り立たない日本

家計補助どころか、最低賃金で働いている単身者も多いのが現状です。
シングルマザーも同様で、日本の薄い社会保障と低賃金のダブルパンチを喰らっている状態。

カフェもファーストフードもスーパーもコンビニも、
今や日本の社会は非正規労働者で成り立っていると言っても過言ではありません。
この人たちの仕事はますます複雑になって、責任も重くなっているのに、
時給が1,000円程度のままでは、社会が壊れてしまう。

日本に住んでいるとこんな状況に麻痺してしまいますが、世界で見ると決して「ふつう」ではないんですよね…。

ドイツでは「正規」「非正規」という区別がない

先日、筑波大学の田中洋子教授のお話を聞く機会がありました。

田中先生は『エッセンシャルワーカー』(旬報社)の編著者で、ドイツ社会経済史、日独労働・社会政策の研究をされています。

天国ですか? ドイツの雇用システム

田中先生の話によると、ドイツは

◆仕事内容によって賃金が決まるジョブ型雇用を採用
そもそも「正社員」「パート」「アルバイト」という括りはない。週に40時間働かない人は「短時間勤務の人」と位置付けられている
◆短時間勤務であっても待遇に差はなく、給料が変わるだけ。例えば週20時間勤務なら、給料は40時間勤務の人の半分。
◆仕事によって待遇の違いはないので、同一労働同一賃金が守られている

…天国かな?(笑)

つまり、正規非正規という区別はなく、パート・アルバイトは(日本で言うところの)短時間正社員みたいな感じ。

すべての人は研修や仕事の習熟度によってランクが決まり、それによって賃金が決まります。
例)初心者→中級者→上級者(後輩に教えられる人)→管理者
のようにステップがあって、給与表に基づいて賃金が払われる。
(「頑張ったから5円アップね!」みたいないい加減さはない)

同じ仕事・責任の重さであれば、日本のように非正規だけが低賃金ということはなく、誰しも同じ給与体系によって賃金が払われる

日本は残業・転勤で正社員の「身分」が手に入るが…

日本では出産や育児、介護によって正社員の仕事を続けていられず、やむなく賃金の低い非正規になるというのがあるあるですが、ドイツでは「短時間だけ勤務して、子どもの手が離れたらまた週40時間労働に戻る」という選択肢があるわけです。

日本は長時間労働と転勤を了承する代わりに正社員という「身分」を得られるのですが、
ドイツでは、そもそも週40時間を超える労働は禁止+望まない転勤は違法なので…。

2023年、ドイツのGDPは日本を抜いて世界第3位になりました。
苦しい思いをしなくても経済は成長させられるんですよね。

JTCのトップは日本を変えられるか?

なんだかこうして見ると、日本って自縄自縛な状態なのかなぁと感じます。
勝手に自分を縛って勝手に苦しんでいる。

経済学者は「雇用システムはそれぞれ一長一短だし、雇用システムによって景気不景気が左右されることはない」と言います。

本来的にはそうでしょう。
ただ、今の日本は日本型雇用システムが「中途半端に壊れ」てうまく機能しておらず、その残骸で苦しめられている人が多すぎる。

硬直した日本社会を変えるには、雇用システムそのものを見直すしかないのではないでしょうか。

ただ、その決定を下すのがJTCのトップで、日本型雇用システムの恩恵を享受し切っている人たちなので…。

個人的には悲観しています。




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