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#冬

きみの季節、蠢く先で死滅

冬と春の混ざった匂いがする。ああ今年もこうして死んでいくんだなとぼんやり思った。春に虫と書いて蠢くと歌われるような、春はそんな生命の季節のはずなのに、その割には春って全然生きた心地がしない、春だけはいつも私の中に残らない。残ってくれない。掴めないからずっと不穏で、でも掴めないから心地いい。だから気付かないうちに死んじゃいそうになる。春は生命の季節じゃなくて死の季節だろ。蠢く先で死滅。いつも降りずに

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この一歩を証明したくて

この一歩を証明したくて

東京なのに磯の匂いがした。空飛ぶモノレールは宙を切って、労働の光を切り裂いてゆく。空から見下ろすイルミネーションはあまりにもちっぽけで安っぽくて泣きたくなった。ずっと私たちが必死に守っていた煌めきもあんなもんだったんだろうね。WHO IS BABY、今ランダム再生で流れているこの曲を聴くたびに、きっと私はこの夜のことを思い出すんだと思う。開演10分前に発券したチケットを握りしめて冬の空気を切り裂い

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冬は答え合わせの季節

冬は答え合わせの季節

早朝の澄んだ青は絶望の匂いがする。冬の雲ひとつない乾いた空気は絶望の匂いがする。だけど冬の朝っていちばん光に近いんじゃないかな。絶望って眩しすぎるから。絶望した時に何も見えなくなるのは光のなかにいるから、そこが爆心地だから。眩しくおどるプリズムたち。鋭く透明なその空気をきみは簡単に白く染め上げてしまう。そこにきみは生きていることを証明する。きみの温度が上がるほど、空気の温度が下がるほど、きみはきみ

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いつか

いつか

冬の次には春がくる。雨はいつか止むし、夜はかならず明ける。そう確信を持てることがどれだけしあわせなことか、わたしたちはひとつも分かっていないよね。眠ればかならず明日がくるって、そう信じて疑わないからわたしは今日もきみに会いたいと伝えなかった。そうしてこれからも地球が回り続けるのだと信じていられるうちは、わたしたちはだれにも殺されないし殺せない。そのまぶしい瞳の奥で光る「いつか」ということば。きみは

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id1

id1

わたしたちはそれが何百年前の光なのかも知らずに、今はもう消滅しているかもしれない星々を見上げては綺麗だと呟く。今かがやいている星の光を、果たしてわたしたちが死んだ何百年後かに生きるひとびともわたしたちと同じようにこの地球から眺めているのだろうか。
今この瞬間をまっとうに生きている人は一体どれくらいいるのだろう。わたしたちは少しだけ明日を待ちすぎている気がするし、過去や未来に縋りすぎている。ひとは脆

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透明な冬を白く染め上げ、

透明な冬を白く染め上げ、

冬、気温と体温の差異で白く染まる息を見るたびに生きていることをつよく実感させられる季節。この季節になると私はよく生死について考える。冬はどの季節よりもひとりひとりが地に立って生きているような気がする。一人一人というよりは、独り独りという感じだし、生きているというよりは、みんな必死に生き延びているという感じで。人々が生に全うしていて、ひとの帯びる熱と生命力を感じるこの季節が好き。
空気の冷たさの中に

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